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終止符からのルーシー 〜なんでも屋で解決します〜  作者: 清川和泉


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第18話 加速魔法

ご覧いただき、ありがとうございます。

 ルーシーとアルトの二人は、夏祭りの屋台で足りなくなった食材であるイチゴとツナ缶を入手する為に、河川敷の向こうにあると言うコンビニまで出来る限り早足で向かっていた。


「アルト君、今日はありがとう」

「……どうしたの? 改まって」


 アルトは目を細めたが、ルーシーは苦笑し相変わらず息を切らせながら歩いている。


「ほら、忙しくて中々お礼を言う暇も無かったし、私殆ど設営に参加出来なかったから、申し訳なかったなって」

「ああ、それならそんなに気にすることないよ。実は僕たちも十七時頃にここに着いたばかりだったし」

「へえ、そうだったんだ。そう言えば、アルト君は今日は何してたの?」

「今日は設計図を書いて一日過ごしてたよ。ここ最近はずっとその作業に追われてる」

「ん? ……設計図? 何の?」


 言ってしまってから、アルトは自分が思わず失言をしてしまったことに気がつく。


(ジークやソフィアのことを言えた物じゃないな……)


 内心ため息を吐きながら、アルトは少し歩みを早めて思案しながら発する。


「……ジークが建築士志望なんだ。お前もやってみるかって、夏休み中に設計製図の書き写しなんかをやっていて」


 我ながら苦しい言い繕いだなとは思うが、咄嗟に出てきた言葉にしては悪くないとも思った。


「へえ! ジークさんって建築士志望だったんだ! 何だか凄いな! そう言えば出身は別の国だって言ってたし、それじゃ建築士になるためにユベッサの大学に入学したのかな」

「……ああ、多分そうだと思う。ここの国立大は、建築士志望には有名なところらしいから」

「へえ! ジークさんって何だか凄いんだね!」


 先月の依頼の際、ルーシーはかなりの短期間で多量の学習を行ったのだが、流石に語彙力までは向上しなかったようである。

 そんな彼女の言葉にアルトは気付いていないようだが、どこか遠い目をしていた。



 □□□□□



 先のやり取りを行っているうちに、二人はいつの間にか目的地であるコンビニへと到着していた。


「イチゴとツナ缶はあるかな?」


 早速手分けして各々コンビニの各コーナーへと足を運んだ。


「あ、ツナ缶あった!」


 缶詰売り場に並ぶ目当ての商品を手に取ると、ルーシーは揚々と野菜売り場にいる筈のアルトの元まで足を運んだ。


「アルト君、こっちはあったけどイチゴはありそうかな?」

「どうやら無さそうなんだ。だから今、この辺りでイチゴを売ってそうな場所を調べているんだけど……」

「そっか。うーん、でもとりあえず一度戻って、イチゴ無しでクレープを提供するのもありかも……?」

「まあ、それでいいなら、それでもいいけど」

 

 ブブブブ


 突然、振動音が響き、アルトが慣れた手つきで自身のズボンのポケットから電子端末を取り出した。ちなみに今日のアルトは珍しく私服であり、ボーダーのTシャツに黒のクロップドパンツを穿いている。


「もしもし」

『ああ、アルト? あのさ、悪いんだけど小麦粉と卵とバナナもあと四十食くらいで無くなりそうだから、買ってきてくれないか?』

「そうか、分かった」


 通話を終えると、小さく息を吐く。そんな様子にルーシーはすぐに察した。


「も、もしかして……」

「うん。他の食材も足りないらしい」


 ともかく追加の食材を探したが、小麦粉と卵は置いてあったが、バナナは置いていなかった。どうやらこのコンビニでは生鮮食品の取り扱いは行ってはいないらしかった。


「そ、そっか……。そうなるとやっぱり他のお店に行った方がいいかも」

「そうだね。フルーツが二種類共無いのは流石にキツいからね」


 ともかく、このコンビニで売っている食材の会計を済ませている間に、店の外へと移動して、アルトは素早く他の店の情報を地図アプリを使用し調べた。


「アルト君、お待たせ。お店はあったかな?」

「うん、まだ営業をしているスーパーがあったけど、ここから更に十分ぐらいの場所にあるらしいよ」

「十分! 間に合うかな……」

「あと四十食くらいは持つらしいけど、正直言って厳しいと思う」


 アルトは瞳を閉じて思案をすると、ある案を思いついた。


「ルーシー。以前一緒に走った時、君に飛翔魔法のことを話したと思うんだけど、覚えてる?」


 突然どうしたのだろうかと思ったが、ルーシーはすぐに頷いた。


「うん、覚えてるよ! あの時は目立つし、私じゃ使いこなせないだろうからって使用しなかったけど、……あ、今日は使うんだね!」


 期待を込めた眼差しを投げかけるが、アルトは特にそれを気にせず首を横に振った。

 

「本当は、魔法に慣れていない君にこれを使用するのは避けた方が良いんだろうけど、まあこれは初級魔法だから、大丈夫かな」


 そう言ったアルトの視線の先には、何やら光に包まれて走っている初老の男性がいた。注視すると、歩いている筈なのに走っているくらいの速度を出している。


「アルト君、あれって……」

「うん、加速魔法。以前にコンビニに向かった時はイマイチ君のポテンシャルが分からなかったからかけられなかったけど、今ならきっと大丈夫だと思う」

「ポ、ポテンシャル?」


 それには特に答えず、アルトは右手をスッと目前に突き出した。


(ルーシーのカチューシャには様々な魔法がかけられている。以前、打ち消し魔法で消された魔法は、後日ソフィアが事務所に来所した日以降に再びかけられていたし、なによりも、それ以外の加護魔法や他の()()()()()()()()()魔法がかけられている……)


 思案すると、早口に詠唱を始める。


『対象者の速度を上昇させよ。アクセラレーション!』


 たちまち、二人の周囲に蒼白い光が発光し包み込み消えていった。


「え? え? な、何が起きたんだろう……」

「今、僕たち二人に加速魔法をかけたんだ。と言っても、加速度は控えめに『二』にしておいたけど」

「か、加速度?」

「ともかく行こう。二だったらあまり発光しなくて目立たないから。ただし、他の通行人には充分注意してね」

「う、うん」


 腑には落ちなかったが、今は時間が殆ど無いこともありアルトの後について行くことにした。



 □□□□□



 身体が非常に軽く感じた。腕を振り上げ足を踏み込んでも、いつものような疲労感が無いのだ。

 先程アルトが「加速魔法」だと説明していたが、詳細を聞いた訳では無いので仮定しか出来ないが、恐らく名前通りの魔法なのだろうとぼんやりルーシーは思った。

 

「風が気持ちいいね!」

「ああ。僕たちは今加速をしているけど、残像効果のお陰で周囲には割と普通に歩いているように見えているんだ」

「へ、へえ! 理屈は分からないけど、何だか凄いね! ……そうそう、この世界の魔法って生活に溶け込んでるものが多いから、一見使用しているのかいないのか分からないね!」

「……そうだね」


 アルトは内心ドキリとした。意外と鋭いところを突かれたと思ったのだ。


(……それにしても、ルーシーは良く「この世界の」と言っているが、それは無意識で言っているのか、それとも……)


 思案していると、目的地のスーパーへと到着しており、アルトはすかさず『解除』と呟く。すると少しだけ身体がズシリと重く感じた。


「ともかく、生鮮食品売り場に急ごう」

「う、うん!」


 それから二人は急いで目的のイチゴとバナナを購入して店先まで戻った。


「よし、それじゃ再び魔法をかけて戻るよ。……うん。この分ならあの時間にも間に合いそうだな」

「あの時間?」


 不思議そうな表情をするルーシーに、アルトは表情だけ和らげ再び加速魔法をかけたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

次回もお読みいただけると幸いです。


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