第15話 クレープ屋台の手伝いをして欲しい
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八月。
連日の蒸し暑さはルーシーの事務所の光熱費を高額にするが、そもそもこの事務所の光熱費は国が支払っており元からその程でこのテナントを使用しているはずである。
だが、彼女の性格から「ちょっとでも使い過ぎたらあとで請求がくるんじゃ……」と言う謎の杞憂から、相変わらず節約をしているというわけである。
確かにエネルギーを無駄遣いしないに越したことはないのだが、過剰な暑さに対して冷房をつけること自体は必要なことである。
ともかく、本日は依頼者のビアンカが来所しているし、暑さも相変わらずなので冷房をつけ、室内は快適な温度で保たれていた。
「夏祭りのお手伝いですか?」
「ええ。急で申し訳ないのだけど、来週の水曜日の十八時からお願いしたいんです」
「えっと、確認します」
ルーシーはスッと立ち上がり事務机の引き出しにキチンと収納されているスケジュール帳を手に取ると、応接スペースへと戻って再びソファーに腰掛ける。ペラペラとカレンダーに日付を確認すると呟いた。
「その日は他の依頼も入っているんですが、……うん、十八時からなら問題ないと思います」
「よかった! クレープ屋台をやる予定だった雑貨屋のトムさんが、急に予定が入ったとかで困ってたの。本当にありがとう!」
「いえいえ。ただ何しろ初めて屋台をやるので、流石に一人では無理だと思うので、誰かにお手伝いをお願いしても大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん。そうそう、調理に関しては前から頼んでいた資格を持った人が来てくれる予定なのでそこは心配しないでね」
金髪を高い位置でツインテールにしている酒屋の娘であるビアンカは、デニムサロペットを着こなし活発的な印象を与える女性だ。
「それじゃ、詳細はメッセージで送るのでよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
ドアベル鳴らして退室していくビアンカを軽く礼をして見送ると、ルーシーは奥の部屋まで移動して事務椅子に腰掛けた。
「うーん、クレープ屋台か。……どんな感じなのかな?」
電子端末を手にしおぼつかない手つきで操作して、どうにか件の屋台の詳細のページを表示させた。
それによると、クレープの皮を焼く為の専用の鉄板や器具があること、また、その具材には生クリームやフルーツのデザート系、またハムやチーズ等の軽食系と分かれていることが理解することができた。
「へえ、クレープって一度しか食べたことなかったけど、こういうものだったんだ。それに私が食べた物は確か生クリームとバナナが入っているものだったけど、色んな種類があるんだなー」
感心しながら眺めていると、ふと当日の手伝いをどうしようかと思い立つ。
「うーん、やっぱりアルト君にお願いしようかな。学校も夏休みでお休み中だし」
アルトのことを思い巡らせていると、ふとある疑問が湧き上がった。
「ん? そう言えばアルト君ってシェアハウスに住んでるって聞いたけど、ご両親とは一緒に住んでいないのかな。住所とかは前もって教えてもらってるけど、家族構成までは聞いてなかったっけ」
考えてみれば、アルトに関しては公都内のノーツ高校に通っている男子高校生だということぐらいしか知らなかったように思う。
「色々訊きたい気持ちもあるんだけど、あまり根掘り葉掘り聞くのも気がひけるというか……」
ただルーシーは自分自身のことに思い当たると、それはお互い様だなと思った。
「アルト君には……と言うより、ここの人たちには私自身の事情を知られたくないしね……」
その後、深いため息をついてから再び電子端末を眺めていると不意にドアベルの音が鳴り響いた。
「こんにちは。ん、今日はエアコンがついてるから涼しいね」
「あ、アルト君、いらっしゃい」
軽やかにアルトの側まで駆け寄ると、ニンマリした表情で彼を眺める。
「どうしたの? そんなに不気味な笑みを浮かべて……」
「ふふふ、実はアルト君に頼みたいことがあるんだ」
「な、何?」
「ふふふ、実はね……」
ルーシーは事務スペースに場所を移し、アルトの座っている机に紅茶を置くと自分も事務椅子に腰掛けた。
「クレープ屋台の手伝い?」
「うん、何だかどうしても人が集まらなくって、正式な依頼としてお話をいただいたんだ」
「へえ、そうなんだ。……それで、材料とかの用意はどうするの?」
「えっと、前もって用意はしてくれるみたいなんだけど、運搬とかはこちらでやって欲しいんだって」
「なるほど。男手は必要なわけだ」
「そうなの。それでね、アルト君に頼みたいんだけど、大丈夫かな?」
アルトは思わず動きを止め、口元に手を当てながら思案する。
「うーん、それって何日の何時ごろ?」
「えっとね……。来週の水曜日の十八時ごろだよ」
「来週か……」
アルトは、電子端末を自身のカバンから取り出しスケジュールアプリを表示させて頷いた。
「うん、大丈夫そう」
「そっか、ありがとう! 実は当日は別の依頼も入っているので、私自身ちょっとギリギリになりそうなんだけど」
「そうなんだ。……念のためもう一人呼んでもよいかな」
「もう一人?」
ルーシーは、頷いたアルトの瞳が濃くなったように感じだのだった。
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