第12話 銀髪の少女ソフィア
ご覧いただき、ありがとうございます。
「……それで、どうするの?」
依頼者の少年を玄関で見送り、一息つくルーシーに対してアルトは冷ややかな視線を向けた。
「えっと……、うーん、……どうしよう……」
大きなため息を吐いて、アルトは自身の電子端末を鞄の中から取り出すと事務スペースへと移動し椅子に座って操作し始め、ある画面を表示させた。
「さっき、試験の対応のテキストと範囲を聞いていたよね」
アルトが手招きしているので、慌てて近寄りその画面を眺める。
「う、うん!」
それには「電子書籍化」されたテキストの画像が映っており、手に取り読もうとするが……。
「わああ! 読むだけで、ず、頭痛が‼︎」
たまらず電子端末をアルトに返すと、物凄い勢いで給湯室へと入り、彼が画面をスクロールして内容を読み込んでいると、トレイにティーセットと茶菓子を載せて戻って来た。
「ふ、ふう。さて、一息入れてから考えよう」
アルトは小さく息を吐くと、呆れたような視線でルーシーを見やる。
「そんな調子でヤマを張るなんて出来るの? そもそもルーシー、君」
アルトは立ち上がって彼女の傍までよった。
「勉強のやり方を知ってる? ……それに十八歳って聞いたけど、高等部は出てる……んだよね?」
瞬間目を逸らし、うーんと唸ってから観念するように言った。
補足をするとこのブリング大陸では小学部、中等部、高等部、加えて大学と年齢により五段階に分けられており、ルーシーの歳であれば大方高等部を卒業し大学に進んでいる者も多かった。
「う、うん。……高等部は……一応卒業してるよ……」
「なんで、そんなに小声で挙動不振なの?」
物凄く目を泳がせまくる彼女にやや不安を覚えつつ、ともかく現状を把握し、この依頼に対して自分がどこまで踏み込むべきか判断しようと思う。
「その、とっても言いづらいんだけど、……今年の三月まで夜間の高等部に通っていて、そこで物凄く視線のきっつい先生にため息をつかれながら追試を受けまくって、どうにか卒業することができたんだ……」
「……へえ……」
「その様子だと学習面に関して期待はできないようだ」とアルトは小さく呟いた。
「であれば、……できる範囲で助言しようか?」
「よろしくお願いします‼︎」
「早いな……」
「良かったー‼︎ 現役学生のアルト君が手伝いに来てくれていて、本当によかったー‼︎」
「う、うん。……まあ、僕はボランティアだから助言くらいしかできないけど」
「それでも充分だよ‼︎ ありがとう‼︎」
グイグイ自分に迫って来るルーシーを両手で押しのけ、アルトは小さく息を吐いてポツリと呟いた。
「このやり取りも、すっかり馴染んだな……」
押しのけられ、ルーシーはふと思い出す。
「そう言えば、アルト君ってどこの高校に通ってるんだっけ?」
「……ああ、フォルク大……」
「フォルク……大学?」
アルトは慌て言い換えた。
「いや、フォルク大学は第一志望で、通っているのはノーツ高校だよ」
「ノーツ高校……。あ! あの駅の近くの高校だね! そっか、その制服どこかで見たことがあると思ってたんだけど、駅の近くでだったんだ」
ルーシーはより期待を込めた眼差しで彼を眺めるが、アルトは目を細めて視線を逸らした。
「……ともかく、勉強法を確認してみようか。まず勉強する時間帯だけで学習の効果はだいぶ違うと思う。まあ、あくまで持論だけど」
「へえ、そうなんだ。ちなみにそれって何時頃がよいのかな?」
「深夜以外だね。あまり夜更かしはしない方がよいと思う。朝なんかもおすすめで、僕はよく起きたらまず机に向かってたよ」
ルーシーは目を見開き心から感心してアルトをしげしげと眺めた。
「へえ、そうなんだ!」
「うん。勉強、特に試験勉強なんかは深夜までやりがちだけど、その時間まで起きていると反対に睡眠中に脳が記憶する時間帯と被っているから、暗記の効果なんかは薄まってしまうと言われているんだ」
「へ、へえ……」
ルーシーの目は再び泳いでおり、彼はその様子で悟った。
「ルーシー、君、深夜まで勉強してたでしょ」
「う、うん……。なんなら徹夜した日もあるよ……」
「まあ、その姿勢はよいと思うけど、あまり効率がよいとは言えないかな」
「……そっか……」
ルーシーは目を瞑って思い返してみると、先ほどの依頼者の少年のことが浮かんだ。
「そうだ。だから私はこの依頼を受けたんだ」
急に話題がそれたのでアルトは不思議に思い、声をかけようとするが、すんでのところで、「こんばんはー」という声と共に、再びドアベルが鳴り響き高い声が響いた。途端にアルトは固まってしまう。
「あ! そう言えば鍵をかけ忘れてた! はーい!」
足早に玄関まで行くと、そこには──銀髪のロングヘアの少女が立っていた。
「こんばんは。……あの、こちらは『何でも屋ルーシー』で間違いないですか?」
目前の少女は顔立ちがよく、長身のスラリとした体格にベージュのノースリーブのワンピースが彼女にとても似合っていると、瞬間ルーシーは思った。
「は、……はい、そうです! ……あの、何かご依頼ですか?」
少女は首を横に振り、柔かに微笑んだ。
「いいえ。今日はここにうちの住人がお世話になっているから、その挨拶をさせてもらおうと思って」
少女が動くたびにその美しい銀髪がなびくので、ルーシーは都度ドキリとした。
それからようやく「住人」と言う言葉が気にかかった。
「……あの、それってもしかして……」
「ソフィア」
思わず振り返ると、そこにはいつの間にかアルトが立っており、先ほどまでとは打って変わり、目は笑っているがその表情は無表情と形容するのが適していそうだ。
「もう、さっさと先に行っちゃうんだから。まあ、場所はネットで検索すれば見つけられるからね。少し時間がかかったのは……」
右手を差し出し、紙袋をルーシーに手渡した。
「手土産を選んでいたからなの。よかったら皆で食べましょう」
「おい、何を勝手なことを」
言っているんだ、というアルトの言葉をかき消すように、ルーシーは俊敏に動きソフィアの手を両手で握りしめる。
「わあ、ありがとうございます! 私、生まれて初めて誰かに手土産をもらいました。こ、これは記念に写真を撮っておかなければ!」
物凄い勢いで奥の部屋から自分の電子端末を持ち出して来ると、非常におぼつかない手つきでテーブルの上に置いた紙袋の写真を撮っていった。
「よし、次は中身を出して……。そうだ、えっと、自己紹介がまだでしたね」
ルーシーは振り返り、銀髪の少女を軽く眺めながら言った。
「私はルーシー・シュナイダー、歳は十八歳です。期間限定ですが、ここで何でも屋を営んでいます」
銀髪の少女は唖然としていたが、ルーシーの言葉で我に返ったのか口元を緩めた。
「丁寧にありがとう。私はソフィア・エバンス。十九歳でアクア大学の二年。……アルトはうちのシェアハウスで暮らしていて、今日はこちらで迷惑をかけていないか、挨拶がてらの偵察に来たの」
「……シェアハウス? あ! 何人かで集まって生活する家のことですね」
アルトは目を細め、無言でソフィアに対して視線で圧を送るが、彼女は特に気にした様子はなく続ける。
「そう。と言ってもそのハウスにはアルトとあと一人の住人しか入っていないから、現在住居者を絶賛募集中だけど、……ちなみにルーシーはどこに住んでいるの?」
「私ですか? えっと、私は今この事務所の奥の居住スペースに住んでいるので……、お金の余裕もあまりありませんし……」
初対面だと言うのにグイグイ食い込んで来るソフィアに対して、人見知りのルーシーはなぜだか嫌な気はしなかった。
加えて彼女が自分に対していつの間にか友達口調になっていることに対しては、気づいてもいないほどだ。
「……ソフィア。僕たちは今、先ほど受けた依頼に対しての相談をしているんだ。用が終わったらそろそろ」
「それ、私も混ざってもよいかな? ほら、人数が多い方が良いアイデアも出るんじゃない? 面白そうだし」
ルーシーは特に断る理由もないと思い、二つ返事で頷いていた。
「是非よろしくお願いします!」
◇◇
アルトは無言で冷ややかな視線をソフィアに対して投げかけるが、彼女は再び特に気にせずルーシーに促されて応接スペースのソファーに腰掛けた。
(ここまでは入り込まない約束だったが……、俺のことが信用できないのか? それとも……)
アルトはチラリとルーシーに視線を向けると、口元は緩めていてもどこか目が笑っていないソフィアと視線が合ったので、妙な確信を得たのであった。
お読みいただき、ありがとうございました。
ちなみに、アルトの説明していた勉強する時間帯に関しては諸説あるかと思います。
次回も、お読みいただけると嬉しいです。
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