第11話 試験のヤマを張って欲しい
連載を再開致しました。
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七月。
公都では夏が到来し梅雨は明けたが日差しは強く照り付け、エアコンの効いた室内でないといられないほど暑かった。
「うう、あ、暑い……」
ルーシーは事務所のソファーに横たわり、一人伸びていた。どうもこの暑さには未だに慣れないらしい。
エアコンをつけては電気代がもったいないと、先ほど事務所を閉めてからすぐに消したので直に室内が暑くなってきたというわけだ。
「またつけようかな……。ううん、電気代がもったいないからそれはやっぱりダメ!」
誘惑に負けそうになるが、強い意志を貫き通そうと手のひらを握りしめて立ち上がった。
「こんばんは。……うわ、暑い……」
ドアベルを鳴らして学生服姿のアルトが入室すると、開口一番彼は室温の不満を述べた。
「あ、アルト君、こんばんは! 今日は遅かったんだね。ちょっと前に店じまいしたところだよ」
「ああ、今日はちょっと厄介なのに捕まっていて……」
ルーシーは中々聞き慣れないその言葉にキョトンとする。
「厄介なの? ……あ、わかった! キャッチセールスにでも引っかかっていたんでしょ。なにを隠そう、私も十回くらい引っかかってるからね!」
「いや、大丈夫なの、それ……」
アルトは呆れながらも、応接スペースのテーブルに鍵を置いた。
「これありがとう。お陰で中に入れたけど、これからも預かっていて大丈夫?」
「うん、もちろん! アルト君には日頃からお世話になってるからね。今日みたいにお店が閉まっていても鍵を使って入ってきていいからね!」
無駄に自分の方にグイグイやって来るからか、アルトは手で押しのけながら息を吐いた。
「……やっぱり、ここは落ち着くな……」
ポツリと呟いた言葉は小さく、ルーシーは聞き取ることができなかった。
「そう言えば、もう一度鍵を閉めた方がよいかもな」
アルトフロックふと思い立ったのか玄関まで移動すると、丁度ドアベルの音が鳴り響き扉が開いた。
「こんばんは。……あの、頼みたいことがあるんですけど、まだやっていますか? ……うわ、暑い」
姿を現したのは学生服を着た茶髪の少年だった。
彼は半袖のワイシャツの制服をキチンと着こなしているが、その表情はどこか疲れているように見える。
「……はい、まだやっていますよ。こちらへどうぞ!」
すかさず少年を室内に案内するルーシーに対し、アルトはすぐさま彼女に対して視線を向け何か言いたそうな表情をするが、ルーシーは構わず案内を続ける。
ソファーに腰掛けてもらい紅茶を淹れてテーブルに置くと、ルーシーはすかさず依頼表を手渡した。
その間、静かな動作でアルトはエアコンのリモコンを手に取りその電源を入れた。
「こちらに、ご依頼内容の記入をお願いします」
少年は手渡されたボードに筆を走らせようとするが、一旦その動きが止まり、うーんと唸り始めたのでルーシーとアルトは思わず顔を見合わせる。
それからしばらく動きが止まっているので、見兼ねたのかアルトが声をかけようとするが、すんでのところで少年が顔を上げた。
「あの」
「は、はい! なんでしょうか?」
少年は、小さく息を吐いて意を決したような表情で切り出した。
「こちらはなんでも頼める店、なんですよね?」
「は、はい! と言っても違法な行為やグレーゾーン、はたまた免許がいること等でなければ大方引き受けます!」
(今更だが、かなりざっくりしてるな……)
アルトは思わず心中で呟いた。
「それじゃあ……、試験のヤマを張ることってできますか?」
「試験のヤマ……ですか?」
ルーシーの動きはピタリと止まり、腕を組んで思案し始める。
「試験の……ヤマ……ヤマ?」
うーんと唸りながら額に手を当てる様子を見て、アルトは訝しげに思った。
「あの、……ヤマって」
「試験に出題されやすい問題の目星を予めつけたいということですね」
すかさず、ルーシーの言葉に被せてアルトが前のめりで発言する。
ルーシーは呆気に取られるが、その言葉の意味を理解すると納得したように頷いた。
「なるほど。……ということは、ご依頼者様は現在学生で、もうすぐ試験があるんですね」
「意外と察しがよいな」とアルトが呟くと、少年は小さく頷き依頼書に必要事項を記入しルーシーに手渡した。
「えっと、お名前はボブ・アベッリさん。来週行われる期末試験で出題される問題を予め把握しておきたい。期日は……明後日⁉︎」
ルーシーは思わず大きな声をあげて、テーブルに両手を突き立ち上がった。
「あ、明後日までに、その試験の……」
「ヤマ」
「ああ、そうそう。そのヤマを……明後日まで……」
すかさずアルトがフォローをするのだが、彼はどこか腑に落ちないような表情を浮かべている。
「俺は今落第寸前で、今度の試験を落としたらヤバいんです! だからせめてヤマを張って、その部分だけ集中して勉強すれば何とかなるかなって」
途端にアルトの表情は曇り、眉をひそめた。
「試験を落としたらって、そんなの毎日コツコツ勉強をしていれば問題ない話だろ。ヤマを張ってそこだけ勉強すればよいなんて、そんなの結局一時凌ぎだし、君のためにならないと思う」
「な! 何なんだよ、お前」
ボブはアルトを睨みつけ、改めて彼を凝視する。
「見たところ俺と同じくらいの歳っぽいけど、そこまで言うならお前は大層成績がよいんだろうな」
ピタリとアルトの動きが止まり、一考すると息を小さく吐き出した。
「まあ、……そこそこだよ」
「そこそこの奴に言われたくないね」
急に言い合いが始まったのでルーシーは唖然としながらその様子を見守っていたが、はたと我に返ってから慌てて二人の間に入った。
「と、ともかくお話は分かりましたが、……正直なところ、私に試験のヤマを張れるとはとても思えなくて……」
断ろうかと思ったが、もともと人からの頼みを断ることが苦手なルーシーは、どう切り出して良いか考えあぐねていたし、目前の依頼者の様子がどうにも気にかかったので、気がついたらその言葉を口に出していた。
「ですが、分かりました。……その依頼お受けします!」
ボブは表情を柔らげ、アルトは小さく息を吐いたのだった。
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