第1話 公女様と復縁させて欲しい
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初の投稿作となります。お付き合いいただけると嬉しいです。
夕刻。薄暗い中、岬の先に立つ少女がいた。
岬の下には荒々しい波が岸肌を打ち立てているが、彼女は物怖じせずに白い花々の花束を両手に抱えている。
「ルーシー。あなたは、これまでの人生に一旦終止符を打って、これからはあなた自身のために生きてほしい」
金髪のウェーブがかかった長髪を塩風になびかせて、少女はポツリと呟いた後に自分の両掌を見た。
「私の魔法が、どこまであなたを守ってくれるかは分からないけれど」
そして、少女はあることに気がつく。
「私が以前に語った話に、影響されていなければ良いのだけれど。……あくまでルーシーが、やりたいことをやって欲しいから」
けれどもしかしたら、と少女は思うのだった。
そして、その岬のできる限り一番端にその花束を置いて、静かに立ち去って行った。
◇◇
「公女様と復縁させて欲しい?」
黒髪のボブショートに、白いカチューシャと白いワンピースを身に付けているのが印象的な少女『何でも屋ルーシー』店主のルーシーは、目の前の依頼書を読むと思わず口に出していた。
無言で頷くのは、依頼者のルドルフ・スミスだ。
彼は二十三歳で、長身でスラリとした体型、濃い茶髪のサラサラした髪が印象的な青年である。
「はい。この国の公女セリアとは、四年程前に出会い、付き合ってすぐに婚約しました。彼女が大学を卒業したら結婚するつもりでした」
言ってルドルフは、ルーシーに慣れた手つきで名刺を手渡した。
それには、スミス貿易会社・営業部長と書かれていた。その肩書きに対して、思わず萎縮し名刺を落としそうになる。
「親が経営している会社なんです。なので実力とは言えないかも知れません」
「そ、そうですか」
何と返して良いかもわからず、とりあえずもう少し詳しく話を聞こうと、先程出した紅茶を改めて彼に勧める。
「別れを切り出されたのは一ヶ月前なんです」
「一ヶ月前。……公女様は他に何かおっしゃっていたんですか?」
「いいえ、何も」
「そう、ですか」
頭の中が真っ白になっていた。
(復縁って、何だっけ? そうだ、別れた恋人なり夫婦なりのよりを戻すということだ。そんなこと、私にできるの? しかもよりによって、相手がこの国の公女様って。……何この難易度)
少しずつ思考が戻ってくると、意を決して断ろうかと思いたつ。
いくらなんでも、自分が他人の恋路をどうこうなんて、できるわけがないと思う。第一、恋愛経験など全く無かった。
「スミスさん、申し訳ありませんが、今回はこのお話……」
言いかけたところで、彼の表情を読み取ってしまった。なんて悲しそうな顔をするのだろうか。
そんな顔をされたら断ることなんて、できそうに無い。
考えてみたら、彼女は生まれてこの方人からの頼みを一度たりとも断ったことが無かった。
それに気がついてしまったルーシーは、今更ながら、(私、この仕事むいていないのでは⁉︎)と思った。
(依頼者から無理な依頼をされたら、お互いの為にも断らなければいけないのに、私ときたら断り方を知らない。これから別件で、違法行為の依頼があるかもしれないし、その時の為にも、ここは心を鬼にして断らなければ)
小さく息を吸って意を決して断ろうとすると、間髪を入れずにルドルフが口を開いた。
「あの、いくらなんでもこんな依頼無茶ですよね。すみません、振られてからどうも何も手につかず、判断力も低下しているようです。今日はこれで失礼します」
息を呑み、気がついたら意と反する言葉が出ていた。
「いえ、この依頼、お受けします」
言った後、今までの蒼白な顔色はなんだったんだと思うほど、ルドルフの血色は良くなり、柔らかな表情に変わった。
「そうですか! ありがとうございます」
瞬間ルーシーは、彼の顔色が戻ったのは安心したが、切り替えの早さに少々戸惑いも感じた。
同時に、自分が何か大きなことに踏み入れてしまった感覚に陥ったのだった。
◇◇
ブリング大陸の北西に、ユベッサ公国という小さな国がある。
名前の通り、ユベッサ公国はブリング大陸でも珍しい公爵が治める国だ。
とはいえ、大陸では産業革命や民主主義運動が広がり、現代でも立憲君主制の体制を執る国が多いが、実際には選挙制を執り入れた民主主義の体制を執り入れている国々が殆どである。前述のユベッサ公国も、その一つだ。
そのユベッサ公国の公共事業に、国民から画期的と評判の高いものがある。
それは、首都の商業地区にある表通りのテナントを家賃や光熱費等を国が負担をし、ほぼ無償で一年間貸し出す、というものだ。
その費用に上限はあるが、余程経費がかかるような事業でない限り、上限を越すことは今まで殆どなかった。
それは、起業を志す者たちを後押しする為のもので、一年間の経験を足掛かりとし未来に繋げやすくすることが目的だ。実際に、これまで何人もの起業家を輩出するに至っている。
ところで、その権利は公平を期す為に抽選によって選ばれているが、当然毎年もの凄く高い倍率で滅多に当選することはないのだが、今年度はダメ元で応募した十八歳のルーシーが当選した。
そのテナントは、飲食以外の職種なら殆ど利用することができるので、自由に自分の思う事業を行うことができた。
加えて、営業許可証など必要書類の提出等の指導もあるので、初心者にも優しくそれがこの公共事業の評判の良さの一つにつながっているのだろう。
さて、運良く今年度の権利を得たルーシーは、どのような事業をすることにしたかというと「何でも屋」だった。
それは文字通り、依頼者の依頼を犯罪に関するものやグレーゾーンに該当するもの、資格がいるもの以外は何でも引き受けて依頼を完遂するものだが、事業の種類としてはユベッサ公国では以前から割とあるものらしい。
ただ、ルーシーの何でも屋は、相場よりも基本料金、及び依頼が果たされた時に支払う完遂料金が安いことを売りにしており、その甲斐もあってか客の入りはまずまずだった。
また、依頼内容は無難なものが多く、話し相手になって欲しいというものや、ペットの犬の捜索ゴミ拾いの依頼といったものが多かった。
どれも依頼を完遂した後は、依頼者から笑顔や感謝の言葉をもらえるので、ルーシーはやり甲斐を感じていた。
できればこのまま、平穏に依頼をこなしていきたい。そう思っていたが、五月の半ば先程の依頼者によって、突然平穏な日常は影を落としたのだった。
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