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3/3

死なせやしない

「死ぬのも楽じゃないなー……」


 五体満足で復活した俺は、さっき無くした腕の違和感を払拭するために両肩をぐるぐると回した。


 城内は嫌に静まり返っているし、どのくらいの時間が経過したのかもわからない。


 モルモは無事に逃げ切れただろうか。


「――――!」


 突然の雄叫びと、ドン! という強い衝撃が響き、俺はよろめいた。

 なるほど、奴はこの下にいる。


「それにしても、地下室はどこから行けば……」


 家出なんてせずにさっさとこの城を探索していれば、存在するかも不明な地下室への入り口を見つけるという苦労をしなくて済んだのに。


 まぁいい、ここは"技"を使わせてもらおう。


 アルカードにスクラップにされたときやヴォルガに爆散させられたとき、一つの記憶が流れ込んできた。


 それは、消滅(エリム)破裂(バースト)を使用した記憶。俺の体は無くなっていた訳だから、内装されている俺の十字架(しんぞう)が覚えたのかもしれない。


 ということで。目分量で出力を決め、範囲を絞る。これは試打だ。


「……消滅(エリム)!」


 よし、狙った通り床が跡形もなくなった。物覚えは前世からいい方だが、まさか技のセンスもあったり? 少し目眩がするが、代償があるのも当然だ。


 よし、技っていうのもダサいしこれからはスキルと呼ぶことにしよう。

 俺は今しがた空けた穴の中へと飛び降りた。


「またせたな、ヴォルガ!」


「アアアアア……?」


 呻き声と共に振り向いたヴォルガは、体や足はまるでゴリラで腕から先はトラ、頭はオリジナルのままといった正真正銘の化物になっていた。


「うわっ、汚い部屋だな。こんなところで何してるんだよ」


「アアアアルカード……ナゼイキテル……チカラ……チカラガ……サイキョウノチカラヲヨコセェェエ……!」


「悪いけど、そいつは無理だ。お前には生まれつき才能が無かったってこと」


 仮に最強になったとして、どうするつもりだ。まだこの世界のことはよくわからないが、来たばかりの俺ですら殺せない奴が最強になれるはずがない。


 まあそれはアルカードもだが……「最強」という言葉がちっぽけに聞こえるな。お山の大将を気取ってるってことか?


「あ……アルカード……さ……ま」


「モルモ!?」


 暗く、埃っぽいこの部屋にモルモのか細い声が響いた。この体になってから暗視ができているため探すのは可能なのだが、ヴォルガが邪魔だ。


 こいつはさっきからずっと機会を伺っている。きっと一瞬でも目を離した隙に心臓を一突きされてしまうだろう。


「アル……カード……さま、逃げ、て」


「ウルサアアアアアアアイ!」


 ヴォルガは床に落ちていた煉瓦の破片を拾い、モルモがいるのであろうヴォルガ自身の背後へと破片を放り投げた。


 鈍い音が部屋内に響き渡り、それきりモルモの声は途絶えた。この位置からはどうなったのか確認できないが、おそらく――――。


「ヴォルガ……お前は殺す。完全に消滅するまで苦痛を味わわせ続けてやる。破裂(バースト)!」


「グァァァア! ナゼ、オマエガソレヲォォオ!」


 ヴォルガは突然自分自身が使用していたスキルで片腕を吹き飛ばされたことに驚いているようだ。


 俺も、自分自身に驚いているよ。

 少し言葉を交わしただけなのに、特別距離が縮まったという訳でもないのに……。

 モルモの死は、どうして俺を激昂させるんだ。


破裂(バースト)……破裂(バースト)……破裂(バースト)……破裂(バースト)……!」


 俺は呪文のようにスキルを唱え続けた。それこそちまちまと、ヴォルガが少しでも永く苦痛を味わえるように、体が復元する度に破裂(バースト)を四肢に何度も何度も。


 やがて心が限界を迎えたのか、言葉を発することも無くなったヴォルガを前に、俺にも限界がきた。


 だんだんと強くなっていった目眩だが、ついに視界が霞むようになってしまった。薄れゆく景色の中、最後に俺が見たのは白いニーソックスだった。


「……見ていたぞ。貴様、少しは信用できそうだ」


◇◇◇


「はっ!?」


 まだ転生から2日しか経っていないはずなのに、何度目かの目覚めだ。見覚えのある天井……ここは大広間か。


「アルカード様……! よかった、わたくし、アルカード様なら勝てるって信じてました!」


「こっちこそ、よかった……モルモ」


 俺は横たわったまま、顔を覗き込むモルモを胸に抱き寄せた。

 決して邪な気持ちではなく、安堵したら自然とそうしたくなってしまったのだ。


 モルモはわかりやすく頬を真っ赤に染め、「アルカード様が初めて抱き締めてくれた……!」と小さく呟いていた。


「……モルモ、ヴォルガはどうなった」


「きっちり灰になってましたよ。近くに十字架もありませんでしたし、完全消滅です!」


 最後に見えたのは、やはりアルカードになったモルモか……。大方アルカードがヴォルガを倒し、俺より先に目覚めたモルモが俺をここまで運んできたということだろう。


「これで一安心、だな。これからはちゃんと戸締まりして、ここでずっと暮らそう。……ははは、なんか安心したらお腹減ってきちゃったな」


「そ、そのことなんですが……」


 モルモは何か言いにくそうにもじもじと人差し指同士をぶつけ合っている。

 死ねば飢餓感は無くなるのだが、せっかくだしこの世界の料理を味わってみたい。


「料理ができてないってことか? それくらいなら俺も手伝うぞ」


「いや、その、お忘れかもしれませんが、アルカード様が千年に渡って貯めてきた人狼種(ウェアウルフ)人間種(ヒューマン)の血液が、さっきのヴァンパイアのせいで底をつきまして……また補給にいかなくてはならないのです」


「別に血液じゃなくて普通の食べ物で構わないぞ」


「実は普通の食料ですら……地下貯蔵庫を襲われたせいで……!」


 モルモは目尻に涙を浮かべ、わなわなと震えている。

 うーん、まあ旅をするにはいいきっかけか。

 モルモ以上の美少女に出会えるかもしれないし、この世界を知ることにも繋がる。


 他のヴァンパイアに命を狙われるかもしれないが、勝手に名付けた常設スキル『吸収(アブソーブ)』が有れば負けることはないだろう。


 吸収ってのもまた、ヴァンパイアらしくていいスキルだと思うしな。


「……よし。だったら俺たちの食糧を求めて、旅へ出発だ!」


 こうして、俺が異世界でスローライフを送るための無双旅が幕を開けた。

次回から毎週金曜日投稿になります!

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