無糖加糖
「お前の珈琲、加糖じゃないのな」
放課後、私が学校内の自販機で買った珈琲はブラック。
彼氏が選んだのは加糖。
淡白な性格で表情の変化が少ないクールな彼。
だから、パッと見は無糖っぽいと思うのだけれど、ギャップが何とも可愛らしい。
彼氏……。
そう口にするだけで、いや、実際には口にはしないから、頭の中に「カレシ」と音を響かせるだけで、私の心はどぎまぎする。
まだ付き合い始めて三週間。
我が人生初彼氏。
「少し飲む? ブラックも美味しいよ?」
「苦いだけじゃん。甘い方が旨いだろ」
「そうかなぁ。間接キッス、甘々だと思うんだけど」
あ、ちょっと考えてる顔してる?
彼の眉間にちょびっとだけ皺が寄る。
「……うん、飲む」
はぁ、なんでこんなに可愛いんだろう。
表情はやや不機嫌に見えるくらい。
僅かに寄った眉間の皺。
私は片手で缶を軽く横に振る。
でも、水分が揺れる感覚がない。
ちぇっ。
「残念。もう全部飲んでた」
あ、今度は本当に不機嫌そう。
ぐっと深くなった眉間の皺。
隣に座った私にはよく見える。
後頭部に触れる大きな手。
比べたことはないけれど、きっと彼の指は長いんだろうな。
彼の手と自分の手が合わさる様を想像する。
指関節一つ分くらい違うかしら。
お互いの顔と顔が近付いて、私は空気を読んで、目を閉じる。
唇と唇が合わさって、……しばらくして、そっと、そっと、舌と舌とを絡ませて。
温かい。
ホットの加糖。
ティースプーンに砂糖三杯くらい。
たっぷりな砂糖もあっという間に溶けていく。
「帰るか」
そう言って先に立ち上がった彼は、私の手をぐいっと上に引っ張って起こしてくれた。
触れる手と手が嬉しくて、彼の好意の行為に便乗する。
重なる手をそのままスッと滑らせて、彼の指と自分の指とを交差させ、浮き浮きどきどき恋人繋ぎ。
彼の顔を斜め下から覗き見る。
「何?」
ちょっぴりな眉間の皺。
困惑してる?
照れている?
眉間の皺が標準装備過ぎて分からない。
「好きだなぁと思って」
「うん。俺も好き」
表情は相変わらず。
でも、いつも、彼の言葉は真っ直ぐに届く。
そんな彼氏がいとおしい。