指名手配
「がはっっ、き、貴様、とうとうやったな。も、もう後、戻りは出来、ないぞ」
「そんなこと百も承知だ。それより今はこうすることでしか怒りを抑えられない。・・・死ね」
俺はベガーの首を跳ね飛ばした。これで俺は正真正銘の大罪人だ。どれだけクズとはいえ貴族を殺したのだから。
ディアナの胸には未だ大剣が突き刺さっている。この剣はどうやら内部から突き出ているみたいだった。だが、これは何なのか、そしてどうすれば消えるのか、俺には分からない。
もたもたしているとディアナが死んでしまうので、俺はルシファーの能力、『傲慢』でディアナの時間を止めて死を防いだ。
しかし裏を返せば時が止まっているので、ディアナは一生目覚めない。それでも明確な治療法を見つけるまではこうするしかないのだ。
俺はひとまずベガーの死体を焼き払い、一つの心当たりを思い出してベガーの家に向かった。
◇
その頃、ラスランド邸のリビングにはラスランド家の当主エリック=ラスランドとエルドリア家の当主バラン=エルドリアが話をしていた。
「すまんな、バランよ。こんなことに付き合わせてしまって。お前の娘ーーディアナにも今度詫びを入れなければな」
「いえいえ、全然良いのですよ。こちらにとっては何も損害はありません。ディアナは無事に家に戻ってくるし、まとまった金も手に入る。言ってしまえば、あなたの息子が死のうが、平民の子供が捕まろうが、こちらには関係がないのですよ」
「それもそうか。・・・そろそろあのバカ息子も死んだ頃だろうか。最後まで役に立たなかったな」
「やっぱりそういうことだったのか」
リビングの扉の前には、いるはずのない少年がいた。予定では今ごろベガーを殺しているはずだったのに。
「なぜお前がそこにいるのだ!ベガーは、あいつはどうしたのだ!?」
「もちろん、あんたの望み通り殺したさ。あいつだけは許せなかったからな。ただ許せない相手がたった今増えたぞ。あれは全部お前らが仕組んだんだな」
「・・・ああ、そうだ。今回の計画は私の手を汚さずにあのバカ息子を殺すためのものだ。ご苦労だったな、犯人役よ」
「自分は決して手を下さずに、息子を殺された悲劇の親を演じるつもりだったのか。性格がねじ曲がってるな」
「うるさい!お人好しでは裏の世界では生き抜けんのだ!お前には一生分からんだろうがな」
エリックは皮肉の混じった言葉を俺に浴びせてきた。まあ、こんなことでは動じないけどな。
「そ、それより私の娘は、ディアナはどうしたのだ!なぜここにいない!」
「・・・ディアナなら死んだよ。ベガーが殺した。なんなら死体を見てみるか?」
俺はカマをかけた。実際にはディアナはまだ死んでいない。
「な、わ、私の、大事な娘が・・・。娘を、娘を返せぇぇぇ!!!」
バランはエリックに向かっていった。自業自得だと思うのは俺だけだろうか。
「うるさいっ!そんなこと知ったことではないわ!それに本当に死んだかどうかは分からん。そうだろ?」
「まあ、そういうことだな。何でもかんでも信じるのはよくないぞ?」
俺はそう言って、廊下に寝かせていたディアナを抱き抱えてきた。
「ディアナ!!!」
バランは走ってこちらにやってきた。俺はそれをひらりとかわし、ディアナの状況を説明する。
「ディアナはまだ死んでないだけだ。俺の能力で時間を止めているだけ。俺が能力を解除すればディアナは死ぬ」
「な、なんだと・・・。そ、それはどうすれば治るんだ?」
「知らねーよ。分かってたら時間なんか止めない」
「じ、じゃあディアナは」
「一生このままってこともあり得るな。まあ、そんなこと絶対に俺がさせないけどな」
「平民如きが出しゃばるな!!ディアナは私が治す!お前は聖騎士に突き出してやるわ!」
こいつらは本当に心が腐っている。もうどうにもできないところまで来てしまったようだ。
「お前、自分の立場が分かってないのか?ディアナの命は俺が握っていると言ってもいいんだぞ?下手な真似したら・・・分かってるよな?」
俺はバランを脅した。こうでもしない限り、こういう奴らは常に自分が偉いと思ってやがる。
「き、貴様ッッ!!!」
バランは今にも火が出そうなくらい顔を赤くしている。だが、これ以上言い返せないのか黙ってしまった。
「確かにディアナのことはそうかもしれん。だが、お前は確実に禁固刑、最悪死刑だ。その間はどうするつもりなのだ?」
エリックがそう言ってきた。それについてはもう考えてある。みすみす捕まる訳がないだろう。
「それについては問題ない。捕まるつもりなんてないからな。どこまででも逃げてやるさ」
「ほう、度胸はあるみたいだな。だが、それは無理だ。何か音が聞こえてこないか?」
外から多くの人間の足音が聞こえてきた。どうやらエリックが聖騎士を呼んでいたみたいだな。
「お前は今ここで捕まる。残念だったな!はっはっは!!」
「・・・それはどうかな?」
「なに?それはどういう・・・」
「あー、エリック=ラスランド、バラン=エルドリア、両名は今すぐ外に出てきなさい!お前たちには殺人罪がかけられている!無駄な抵抗はしないように!」
「ど、どういうことだ!?なぜ我々が?」
「貴様、何をしたッッ!?」
実は俺は既に告発の準備を済ませていた。少し前に聖騎士の本部にエリックたちの計画書を匿名で送っていたのだ。ちなみに計画書の入手方法は企業秘密だ。
今回聖騎士がこの場所に来たのは俺を捕まえるためではない。エリックとバランを捕まえるために来たのだ。
「まあ、そういうことだ。せいぜい頑張ってくれよ、犯罪者さん」
俺はディアナを抱え裏口へと走る。エリックたちも捕まるだろうけど、俺も指名手配されるのは間違いない。だから、早々に逃げないといけない。
こうして俺は旅に出ることにした。両親にも何も告げずに。ただディアナの治療法を探すために。
今回で第一章は完結となります。次回からは第二章です。