最悪で最強
それから俺はルシファーたちに力の使い方を一通り教えてもらった。その力はどれも強力なものばかりで、使いこなせれば世界最強になるのも夢じゃないほどだった。
「ーーー最後に、この力をどう使うかは君次第だよ。君がどんな選択をしようが、僕らは干渉しない。有意義に使ってくれよ」
「ああ、もちろんだ」
俺は既にどう使うかは決めている。あのクズからディアナを救い出す。そのために決闘であいつを倒す。それからはどうとでもなるだろう。
そう考えていると、俺はいつの間にか薄暗い牢獄へと戻っていた。決戦の日は明日だ。
明日に備えて、俺は眠りについた。
◇
翌日、いつもと変わらぬ朝を迎えた。石畳の上で起き、パサパサのパンと牛乳を食べて、また石畳の上へ寝転ぶ。
だが、今日はいつもと一つ違う。いつもはあいつが来るのが嫌だったが、今日はあいつが来るのを待ちわびている。早く来ないか、まだ来ないのかと、心が訴えかけている。
少し経つと、いつも通りやってきた。
「やあやあ、調子はどうかな?もうここに来て長くなるけど、この生活も慣れたみたいだね」
いつものヘラヘラした態度で話しかけてくる。俺は無言で奴の顔を見つめる。
「おい、何か文句でもあんのか?そんな目で見てんじゃねーよ!・・・殺すぞ?」
俺はその言葉を聞き、鼻で笑った。
「あ?」
「いや、悪い。何だかおかしくてな。笑っちまったよ」
「何がおかしいんだよ。言ってみろ」
「人を殺したこともない癖に殺すとか言ってんじゃねーよ。調子に乗るなよ、ガキが」
「今なんて言った?」
「ガキだ、バーカ」
奴は無言で牢の扉を開けた。
「ちょっ、困りますよ、かってにそんなことをされたら」
「おい、誰に向かって口聞いてんだ?」
「ひっ、も、申し訳ありません」
「ちっ、ついて来い」
俺は奴の後ろをついていく。
「ここでお前をぶちのめしてやるよ」
そこはラスランド家にある闘技場だった。
(この場所まで来る必要はあったのか?)
「ここで待ってろ」
そう言って、ベガーはどこかに行った。
戻ってきた時、ベガーはボロボロの鉄剣を持っていた。
「お前にはこれで十分だろう。さあ、剣を持て」
ベガーは自分の腰に携えた剣を引き抜く。
「いくぞ!」
ベガーは正面から突っ込んでくる。その動きはあまりにも遅かった。
「くらえぇぇぇ!!!」
ベガーの剣が光り輝き、俺へとまっすぐ振り落とされる。
俺は軽々と横に避けて、ベガーの右腕を斬る。だが、その攻撃は何かに弾き返された。
「はっはっは!かかったな!!」
どうやらベガーは身体中に鎧をつけていたらしい。
(この剣に対して、そんな装甲はいらないだろ)
ベガーはもう一度《聖騎士》の能力を発動して、光り輝く剣で俺に斬りかかる。
その瞬間、俺は一人の悪魔の能力を発動する。
「強欲」
すると、ベガーの剣は光を失い、普通の剣へと戻った。
「なっ!?」
俺が発動したのはマモンの能力『強欲』。この能力は「相手の持っているものを何でも奪うことができる能力」だ。ただし持続時間があり、最長で24時間までなら効果は発動している。
今、俺が奪ったのはベガーの天職《聖騎士》の力。これで24時間以内なら俺は《聖騎士》の能力を使うことができる。
「終わりだ、ベガー」
俺は光り輝くボロボロの剣を高々と振り上げる。たとえボロボロでも《聖騎士》の力で強化されているので、相当なダメージを与えることができる。
「や、やめろ、やめてくれぇぇー!!!」
「・・・死ね」
俺は剣をベガーへと振り下ろす。その剣はベガーのすぐ横の地面に突き刺さった。
「ディアナを返せ・・・!!」
「な、何を言って」
俺は再度地面を斬りつけ、無言でベガーを睨む。
「わ、分かった」
ベガーはそう言って、どこかへ消えた。
俺は剣を鞘へと戻し、静かに天を仰いだ。