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これはゲームの能力でして  作者: 夢想童子
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第7話『峠を越えて』

「理性の鎖を解き放たん、【獣性強化】」


ルーと体が密着していたせいか、体が硬直したのが分かった。


ルーはレベル1でコストは初期値のままだ。

既に《呪い》の対策として【聖光】を使っており、それを今この時に外すにはリスクがある為、限られたコストで使える【支援】を選ばなければならない。


幸い、次に使おうと思っていた【支援】は決めていた為、すぐに使えた。


【獣性強化】は獣に関する種族のみに効果を発揮する【支援】で効果は全能力値の上昇。

種族制限がある分、効果は高い。


ルーは動物の特徴を有した獣人。

獣に関係した種族だ。

【支援】の種族制限はクリアしている。


ルーに俺を抱えて音の聞こえる方向とは反対に逃げろ、そう伝えようとした時には遅かった。


ルーは叫び声とも咆哮ともとれる声を上げながら岩陰から四足歩行で駆け出して行った。


「うそだろ、おい」


忘れてた。

ルーは最初の【支援】を使った時に狂戦士になって覆面の輩を蹂躙した後、俺の首を折った事を。


【支援】にはゲームの効果とは別に狂化の効果でもあるのか疑いたくなる。


ルーの咆哮とは別に何かの叫び声というか鳴き声が聞こえた。

俺は急いで岩陰を進み外の様子を覗いた。


そこには人型の化け物が居た。

背丈は2メートルを超えるだろうか。

手と胴体は長さに対して足は異様に短く、膝が見当たらない。

妙に細長い腕は地面すれすれまで長くあり、ビラビラと垂れた薄い皮膜には脈打つ血管が透けて見える。

全身は灰色で首から上は存在せず、胸から腰の辺りまで裂けた大きな口がある。

口内は白く何本も生えた腕と同じような長さのある黒い舌とサメの口内を思わせるように鋭くて黄色い歯が何列も並んでいる。


ルーはその怪物の近くで唸っており今にも飛びかかりそうだ。

さらに言えばルーの近くに黒くて長い何かが蠢いていた。

怪物の口をよく見ると他よりも短い舌から黒くドロリとした液体が地面に流れていた。


どうやらルーはあの怪物相手に先制攻撃を成功させたらしい。

噛み切ったのか千切ったのか知らないが怪物の舌、もしくは触手を奪ってみせたようだ。


…この世界ってあんな怪物は空想の産物じゃなかったっけ?

確かに魔法は存在するが、怪物なんて神話か子守唄でしか聞かないぞ?

怪物の姿はどの種族でもない、もしかしたら突然変異か?


ルーは果敢に怪物の方に突っ込む。

だが怪物はその場から動かず、ルーは目で追えない速さで触手に弾き飛ばされて近くの岩壁に叩きつけられた。


少し離れた俺にまで嫌な音が聞こえたがルーは血を吐きながら馬鹿の一つ覚えのように怪物に突っ込んでいく。


「害する者に(いかずち)を、【感電】」


俺は触れた相手に威力の低い電撃と高確率で麻痺にする【支援】をルーに使った。

麻痺は動きを鈍らせる状態異常だ。


怪物に突っ込んだルーはまた怪物の触手に弾かれたが、怪物の触手は急に動きが遅く緩慢になった。

それこそ、触手の動きを見て避けられる程に。

どうやら麻痺になったようだ。


ルーは手当たり次第に触手を口や手を使って千切っていく。

その度に怪物は悲鳴のような叫びを上げていく。

ルーの猛攻から逃げようとしたのか下がろうと動くと足がもつれたのか、どろどろとした怪物の血に足をとられたのか後ろへ倒れた。


それからは怪物は抵抗らしい抵抗もできずにルーに手足を折られ、皮膜はズタズタに裂かれ、全身を噛まれたり引っ掻いたりとされ、ついには呻き声さえ上げなくなった。


俺の方が風下に変わったのか腐ったような生臭さと焦げた臭いが鼻についた。


…作戦とは違うが、どうにかなったな。


ルーは怪物の黒い血に塗れながら狂ったようにまだ怪物を攻撃しているが、怪物は動きもしない。


試しに【契約】を怪物に使ったが失敗した。

如何にも人外な見た目だが【契約】の対象外って訳でもないだろう。


つまりは怪物は倒せたと考えていい。

問題は、ルーをどうやって落ち着かせるかだな。

まずは任意で【支援】を解除できるか確認するか。


【感電】【獣性強化】解除。


そう意識すると、ルーの動きが止まった。

メニューを使ってルーの状態を確認しても【支援】は【聖光】しかない。

解除は上手くいったようだ。


「ルー、無事か」


俺は岩陰から出て怪物の体で呆然としているルーに近付きながら声をかける。

不快な臭いが強くなるが我慢はできる。

ルーは怪物のドロリとした黒い血に汚れて物言わぬ怪物をじっと見下ろしていた。


俺は怪物から流れた黒い血をなるべく踏まないようにしながら進んでいく。


「ほー、これ…ルー?」


「言いたい事はあるだろうけどよ。

まずは降りてこい。

あと、ほーって俺の事か?」


ルーは黙って怪物から飛び降りてきた。

流石は獣人と言うべきか軽々と跳躍すると俺の前にバランスも崩さずに着地した。


その際、怪物の血が地面や俺の着ていた服に飛び散ったが気にしまい。

ルーが側に来たからか血の臭いがした。

怪物の触手で岩に叩きつけられていたが、平気なのだろうか?

重症を負ってもおかしくないような音が響いていたのだが、ルーは平然と俺の前で立っていた。


「ルー、痛くないのか?」


「いたい?」


ルーは不思議そうに復唱してくる。

俺は黙ってメニューによって部下、ルーの情報を読み取ったが骨折や内臓破裂、なんて重症は負っていないようだ。


「…大丈夫そうだな。

岩陰で体を綺麗にしてから飛ぶのを試してみるか」


俺達は隠れていた岩陰へと移動した。


「まずは確認だ。

ルー、俺はお前に魔法を使って強くした。

牢屋を出るときもな。

お前は二回とも暴れ出した。

その時、どんな感じだった?」


「どんな…感じ」


ルーは戸惑いと困惑を隠せない声で俺の言葉を繰り返した。


「今も魔法を使って呪いを無効化してる。

でもルーは暴れていないだろ?

暴れ出す前に何か感じなかったか?

体が熱くなったとか、感覚が鋭くなったとかな。

魔法を使うとルーはビクっとしたりするだろ?

ゆっくりでいいから、どんな感じか教えてくれ」


ルーは黙ったまま俺を見つめる。

尻尾が右に左にユラリユラリと動いているのをついつい目で追いそうになるのを耐えながらルーの言葉を待つ。


「…入ってくるの。

今もあるの、分かるよ」


ルーは少し視線を下げて胸を両手で抑えながら言った。

やはり【支援】を使った時にルーは何かしらを感じているようだ。


「さっきもね、ルーに入ってきたの。

…そしたらね、そしたらね!

すごいの、すごかった!」


「…あー、そうか」


その後の説明は凄いという言葉と擬音語のようなもので構成されて俺には理解が難しかった。

何かゲームとこの世界の仕様の違いが分かればと思って聞いたが、ルーの説明は要領が得なかった。


流石に幼い子供相手に理路整然とした説明を求めるのは間違っているとは思うが、分かった事はルーは【支援】を使われた事を認識できるということだけ。


…後は手探りで情報を集めて推測していくしかないか。

ではルーの体を綺麗にしてここから飛ぶ練習でもしようか。

暴れ出しても【支援】を解除すれば良いだろ。

…最悪、俺は死んでも復活機能があるし。

というか、どんな死に方でも復活できるのだろうか。

ゲームの主人公の復活機能ならば焼かれようが喰われようがどんな倒され方でも復活は選べたが、俺は爆散しても復活できるのか?


【支援】だって勝手に狂化の効果が付与されてるし、もしかしたら何か違いや制限があるかもしれないな。

今は気にしても無駄な気がするが。


「ルー、今から水の魔法をルーにかけて汚れを落とす。

でも動かないように気を付けてくれ」


「うん」


「汝に流水の鎧を、【水衣】」


「ひゃあ!?」


足元から突然水が噴き出した事に驚いたルーはその場で飛び上がったが、水はルーから離れる事なく、足から腰へと上がり胸や頭まで包み込んだ。

ルーは驚いて何かを話しているようだか流水に完全に覆われてしまって口をパクパクしているようにしか見えない。

水によって音は遮断されているようだ。

口からは泡が出ていない様子から不思議と呼吸はできているようだ。


ルーの体についた怪物の血が水に流されてみるみる内に落ちていく。


【水衣】は流水を纏い火属性のダメージを抑える効果がある。

さらに水に関する罠を無効化する効果もある。


今回は【水衣】の効果ではなく、流水を纏うというエフェクトを期待して使用した。

十分に汚れが落ちたと判断した俺は【水衣】を解除した。


【水衣】解除


ルーを覆っていた水は幻のように霧散した。

後にはずぶ濡れで何か言いたそうに俺を見るルーがいたが気にしない。

次回、『草原の村』

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