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これはゲームの能力でして  作者: 夢想童子
4/11

第4話『自由な空の下へ』

痛みは人の許容量を超えると感じなくなる事がある。

それは痛みを認識しない事で心を守る防衛本能の一種らしい。


なぜかどこで聴いたのかも思い出せないような言葉が脳裏に浮かびながは呆然と俺は天井を見上げていた。


変な音が聴こえる。

まるで排水口から水が溢れるような、風船の空気が抜けるような音。


排水口やガス管なんてあったっけ?


息を吸っているはずなのに息苦しい。

目眩でも起こしたのか周りが地震でも起きてるかのようにグラグラと揺れている。


起きて状況を確認したいのに、手足はビリビリとしてまるで何時間も正座をした後のような感じで動かせない。


意識が霞んで、力が抜けていく。

心のどこかで寝るなと警鐘を鳴らすが今はこの眠気に身を任せたい。

抗えない欲求に俺は目を閉じた。


次に目が覚めた時は何も覚えていないが事件というか事案が発生していた。


何とも言えない生臭い異臭が鼻について目が覚めた俺は愕然とした。


血の味を認識して口元をこすると真っ赤な液体が手にこびりついて驚いたしなんかお尻が冷やっとするなと思えば粗相をしていたし。


起き上がってみると部屋の隅で頭を抱えてブルブルと震える彼女もしくは彼の姿を見て思い出した。


【契約】を彼女もしくは彼に使う為、一方的に宣言して彼女もしくは彼に抱き付いて、頃合だと思ったから【契約】を使った。


ここまではハッキリと思い出せる。

ハッキリと思い出せるのだが…

ではその後は?

俺、何があった?

何をした?


じょ、状況を確認しよう。


床に物を置いて赤いペンキでも撒いたかのような様子で濡れるほど大量の流血。

濡れてない部分は俺の頭や体が床に触れていた部分だろう。


俺は触ってみて分かったが顔と首、それと上半身の一部が血塗れのようだ。


床に広がる血とは別の液体から香ると思われるアンモニア臭が嫌でも鼻につく。

勿論、俺の股とは言わず下半身はビショビショに濡れてる。

明らかに俺が粗相をしたと断言できるだろう。


…俺は今、一つの推測が立ってしまった。


獣人の子供に抱き着く。


自分でも分からないぐらいに興奮して倒れて都合の良い夢を見る。


興奮し過ぎて鼻血、興奮し過ぎてお漏らしのダブルを冒す。


…変態じゃね?


そりゃ、彼女もしくは彼も怯えるわな。

看病してあげた変態美少女に隅まで追いやられて強引に抱きつかれたと思ったら倒れて上と下から大放出。


なんか、泣きたくなってきたぞ。

自覚できるほど顔が暑い。

めっちゃ風呂に入りたいんだけど。

この牢屋に入れられる前に水で洗われたよな?

風呂場、あるよな?


いったん、この話は止めよう。

まずは、彼女もしくは彼と【契約】成功したか確認してここから脱出しないとな。


メニュー、部下、状態と順番に意識をしていくと視覚に見慣れていたが、この世界では初めての映像が視覚に映し出された。


「良し、良し、良し!」


思わずその場でガッツポーズをした。

【契約】は成功。

獣人は【契約】の対象となる事が分かった。


部下として彼女の情報も読める。

性別は女の子だった。

いや、良かった。

例え今の俺と同じか歳下だったとしても男と抱き合ったなんて鳥肌ものだ。

女の子に抱き付いて粗相を冒したという汚点が浮き彫りになるが気にしない。


部下に関して見れる情報はレベル、種族、性別、状態、能力値、特殊の6つ。


彼女の情報はこんな感じだ。


ーーーーー


レベル

《1》


種族

《獣人》


性別

《メス》


状態

【支援】

なし

《呪い》《恐怖》


能力値

力:15

防:1

速:13

体:9

魔:1


特殊

《光属性適正》

《再生》

《毒耐性》

《病気耐性》

《物理耐性》


ーーーーー


彼女はなかなか優秀だと言える。

情報の内容を彼女のモノを見ながら簡単に説明をすると…


レベルは俺と【契約】した者との繋がりの強さを数値化したモノ、という設定がある。

その為か、【契約】をして部下にした者はどんな者でも初めはレベル1からなのだ。

戦闘を繰り返せば上がるものの、その原理を説明しろと言われたら困る。

だってゲームの話だし。

この世界でレベルが上がるかは分からない。


しかし、もしレベルが上がるならば心強い。

早い話、レベルを上げれば能力値が上がるし、稀に新たな特殊能力を得る事がある。

つまりレベルを上げれば強くなる。


種族は種族名を表したモノ。

例えば、ゴブリンとかスライムとか。

ゲームには獣人という種族は無かったがこの世界の知識とゲームの表現が混ざった結果だと思われる。


性別はその通りの性別。

主にオス、メスと表記されるがゲーム内では片方だけや両性、無性が存在した。

性別によっては効果が変わったりそもそも使用可能かどうかさえ変わる【支援】もある為、一部の【支援】を使う際に注意が必要な情報だ。


状態はバフ、デバフの確認ができる。

主に使われている【支援】を確認する為に見たり、敵からのデバフ、毒や麻痺などの状態異状から能力値低下などを確認出来た。

彼女の場合は厄介な状態異状の一つである《呪い》がある。


《呪い》は状態とは別に特殊の方にもあるが今回は状態の方の《呪い》について説明しよう。

《呪い》の基本の効果は精神に関する状態異状の耐性を下げる、というものだ。

そして《呪い》が厄介な理由は他の効果も存在し、《呪い》を仕掛けた者によって効果が様々という点だ。


俺が知っている効果でも、レベルダウン、スリップダメージ、特殊能力の使用不可など本当に様々だ。

彼女の声掛けに対する反応は《呪い》が関係しているのかもしれない。

幸いな事にも《呪い》をどうにかする【支援】は存在する。

後で試してみよう。


《恐怖》は恐怖で動けないという状態異状で、十中八九、俺の行動で付いたものだろう。

いや、本当にすまん。


能力値は力強さや体力などを数値化したモノ、なのだが…それはゲームだからデータとして扱えたというだけで、現実世界で何を基準に数値化したのか分からない為、あくまで参考程度に考えておこう。

ちなみに上から力は力強さ、防は丈夫さ、速は素早さ、魔は魔力、体は体力と考えてもらえれば良い。


彼女は獣人らしく、身体能力は高いが魔法に関してはからっきしで子供故に打たれ弱い、というところか。


特殊は特殊な能力の事。

例えば、火や水を操る、相手を眠らせる、見た相手を石化させるなどの言わば怪物特有の能力だ。

再生や何かの耐性はゲーム内にも存在したが、この世界の言葉である適正属性も表示されている事には二重の驚きだ。


この世界の能力も適用される事、魔法を種族的に使えない獣人がとても希少な属性である光属性の適正がある事だ。


光属性はその名の通り、光を操る属性とされているが適正を持つ者が少なく、具体的に何が可能なのかあまり分かっていない。

しかし、噂では治癒や欠損の再生、蘇生まで可能と言われている。


彼女の捕まっている理由は《光属性適正》かもしれないな。

上手く利用すれば治癒能力を我が手にできるのだから万人が欲しがるだろう。


魔力の能力値が1な為、そんな奇跡のような魔法が扱えるかは分からないが、言葉を飾れば治癒魔法が使える高価な奴隷に早変わりってね。

…胸糞悪いな。


とりあえず、ここから出るか。

まずは彼女と意思疎通を図る為に《呪い》の対処をするか。

それと物理面は強いから弱点である魔力面に関する【支援】に全体的に能力値を上げる【支援】を使…ダメだ、これではコストオーバーだな。

それならこの【支援】で…よし、決めた。


「汝の(のろ)いは(まじな)いに変わる、【反転】」


一つ目の【支援】を使うと彼女は目に見えて大きく体が跳ねた。

…少し待ったが、それ以降変化は起きなかった。

硬直したように彼女は動かない。


「魔の力を喰らいて己の力に変えよ、【魔力吸収】」


二つ目の【支援】を使うと呼吸音が聞こえるほど息が荒くなり全身の毛が逆立ち初め、全体的に大きく見えた。


彼女の様子に不安を感じて最後の【支援】を使おうか迷っていると獣の咆哮を上げながら暴れ出した。


狂ったかのように牢屋を縦横無尽に動き回り、パリンと音を立てたかと思うと牢屋の外に出て行った。


俺は四足歩行で逃げ去った彼女を目で追うしか出来ず状況に置いていかれて呆然としていると叫び声やら怒号が聞こえ始めた。


暴れ出した彼女に不幸にも見回りの覆面の輩が出会ったようだ。


…とりあえずここから出よう。

俺はそう思ってメニューで彼女の居場所を確認しながら牢屋を出た。


彼女は俺が思っていた以上に強かったらしい。

覆面の輩を警戒して彼女の跡を追ったが死屍累々の現場にしか遭遇するだけで立っている者は一人も居なかった。


途中、水道でもやられたのか水が出ている所を見つけて素早く水浴びをして血や排泄物を洗い流した。

更に幸運にもここの覆面の奴らの更衣室だろうか、覆面の輩が着ていた服や覆面が置いてある部屋を見つけた為、濡れた体と髪を拭いて服とおまけに覆面を二人分、借用した。


見覚えのあるタペストリーが飾られていたがそれが何を意味するものか思い出せずに気になったが、今はここから逃げる事を優先しよう。


落ち着いた状況になれば思い出せるだろう。


俺は覆面の輩に変装した。

背は小さいし、服はサイズが合ってないからバレバレだろうが、異常事態が起こっている今なら誰かに合いそうになっても覆面を被って倒れていればバレないだろ。


そのまま彼女の快進撃は外に出るまで止まらなかったようだ。

…俺、彼女に間違って狂戦士に変える【狂化】でも使ったのかと思わず考えてしまったが、答えが見つからず出口に辿り着いた。


薄暗い牢屋の中に居たせいか、陽の光はとても眩しく感じた。

そして、彼女はその逆光の中、四つん這いでこちらを見ていた。


今の俺の姿は…覆面な輩に変装してます。

…次の標的は…俺って事か?

あ、詰んだ。

次回、『繋がる暴れる』

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