第十話『聖なる監獄』
考え事に夢中になっていた私と違って外への好奇心が止まらないルーが先に発見したのは当然の流れだったのかもしれない。
「なんだ、あれ」
黒い塊が浮いていた。
飛行船や雨雲にして高度が低く、何かの物体かと聞かれれば思い当たる物がない。
何だろうか?
魔法で雨雲でも発生させているのか?
遠くから羊の鳴き声のような音が聞こえて、徐々にアレは大きくなっていく。
…いいや、俺達の方へと黒い何かが向かってくる。
前世でも本物を見た事は無かったが鳥や虫の大群だろうか。
「ウソだろ、おい」
気になってメニューの地図機能を村の外へと拡大して確認すると生命反応が出た。
それもアレが単体の生命体だと表示されていた。
しかし、あれはどう見ても家よりも、下手したらこの村よりもデカい。
この世界に怪物は存在しない。
御伽噺の化け物。
恐怖の具現。
それじゃ、あの巨大な空飛ぶ生物はなんなのだ。
魔法のある世界だからと言って物理法則がデタラメな世界ではない。
翼よりも胴体の大きい生物は飛ぶなんて行為はしないし、翼の無い空の生き物なんて俺は知らない。
母親、貴族の知識には存在しない。
「ルー、少しここから離れるぞ。
あれが何か分からないが…
良い物とは思えないからな。
来た道を戻るぞ」
「うん、分かった」
ルーが方向転換して今まで通って来た道へと進もうとした。
その時、後方から何か擦れる音が聞こえ俺は振り返った。
「おい、君達!
こっちだ!
早く!」
この村で一際大きな建物。
その扉が開いて男が凄い形相でこっちだと叫んで手招いている。
その扉の上のマークに見覚えがあったが、思い出せない。
ルーは既に駆け出している。
ほんの数秒でこの村から脱出するだろう。
しかし、その後は?
アレから逃げられるか?
何か分からないが、空を飛んでいる相手から俺と言う荷物を抱えて逃げ切れるか?
俺が【支援】を使ったとして、可能か?
分からない、答えが出ない、情報がない。
これがゲームなら相手を知る為にゾンビアタックも考えるが現実なんだ。
俺には復活機能があるし、ルーにも再生能力がある。
でも、それが発動しなかったら?
再生が追いつかなかったら?
倒す?
問題外。
未知の相手に無策で突っ込むのは自殺行為。
…前回、空飛ぶ怪人に突っ込んで勝っちゃった子がここに居るけど。
あれは俺の【支援】があったからこそ。
あの時だって勝ち筋が見えていた訳じゃないし、逃げようとしてたのだし。
黒い塊はゆっくりと降りて来ている。
散らしたはずの異臭が強くなり、羊の鳴き声はさっきよりもはっきりと聞こえる。
何故、村人は逃げずにあそこに居る?
逃げる必要がないから?
それは何故だ?
あの建物は安全地帯、だからか?
もし、そうなら、あそこが安全地帯ならば!
あの建物に入った方が助かる?
しかし、大きな建物であるが頑丈そうには見えない。
あんな大きな怪物が体当たりすれば粉々に破壊されてしまいそうだぞ。
いや、この世界には魔法がある。
もしかしたら結界魔法があるかもしれない。
…そうだ、あのマーク!
確か隣の国の国教のシンボルだったはず。
つまりはあそこはこの村の教会って立ち位置なのか?
どうする!?
村人を信じて教会に逃げ込むか?
それとも信じずにルーと一緒にアレから逃げ惑うか?
…これがゲームなら、俺は…
アレと【契約】しようとするだろうな。
ゲームだから自殺行為にも進んで行ってた。
やっぱ、現実とゲームは違うな。
なんか一周回って落ち着いてきたわ。
地図機能で確認してもアレが少しづつだが距離を詰めてくるのは分かる。
しかし、これはルーは素の脚力。
【支援】で一気に速度を上げて振り切れないか試してみるか。
ーーーーー
レベル
《18》
種族
《獣人》
性別
《メス》
状態
【支援】
【聖光】C20
・《呪い》無効化
・状態異常耐性
・状態異常回復力上昇
【拡散】C5
・地形効果一部無効
・自動防御(風)
《呪い》
能力値(+17)
力:15
防:1
速:13
体:9
魔:1
特殊
《光属性適正》
《再生》
《魔性特効》
《毒耐性》
《病気耐性》
《物理耐性》
ーーーーー
現在の【支援】は【聖光】と【拡散】の二つだけ。
ルーの今のレベルは19、コストは280に上がって理性を保ったままだと140。
コスト以外にも能力値はレベルの分だけ上がっている。
異臭対策の【拡散】は解除して呪い対策の【支援】をもっと低コストの物に変えて、逃げる事に特化させればいけるか?
「ルー!
アレから逃げる為にサポートする。
転けないように気を付けろ」
「うん!」
近くから聞こえる不安なんて思ってもいない元気な応答に少し笑ってしまう。
無邪気な相棒の信頼に応えましょうかね!
【拡散】解除
「一時の休息を、【午睡】」
【午睡】は、一時的にデバフを無効にし、体力を徐々に回復させるが効果は1分だけという時間制限がある。
さらに、睡眠耐性が異常に低くなるデメリットもある。
時間制限と睡眠耐性の低下というデメリットがある分、コストが低い。
また、解除後も割と早く再度使えるようになる。
これで《呪い》への最低限の対策ができる。
【聖光】解除
「汝に隠れる術を、【隠蓑】」
【隠蓑】はエフェクトで全身が細長い草に覆われて見つけられ難くなる。
地形が自然豊かである程、効果は高まる。
ルーはこの【支援】を受けた事があるから、体から草が生え始めても驚かずに走り続けている。
ルーから生えた草が抱えられている俺も覆い隠す。
それに村の外は草原。
上から見下ろしてくる相手には効果は絶大だろう。
「速く駆けよ、【疾走】」
【疾走】は単純に速さを上昇させる。
上昇率はレベルに依存。
内容はシンプルだが効果は絶大。
…レベルがもっと高ければな?
グンとスピードが上がった。
俺はしっかりとルーに捕まる。
「己を追い越せ、【加速】」
【加速】は一定時間行動し続けると低確率で速さが上がる。
上昇量は元の速さの値分だけで止まると上昇値はゼロになる。
こっちは博打。
運が良ければどんどん速くなる。
既に景色が高速道路を走る車から見ているような感じでこれ以上、速度が上がっても分からないかもしれないが。
「追う者追われる者、【鬼ごっこ】」
【鬼ごっこ】は対象を追っている時、もしくは追いかけられている時に速さが上がる。
追う、もしくは追いかけられるという状況が関係する為、ピーキーな性能だが状況が噛み合えば有能なモノ。
今は黒いアレに追われている為、アレが追うのを止めるまで効果を発揮しつづけるだろう。
逆に言えば速さが落ちれば、それはアレが追うのを止めたという事。
そうなると良いな。
「逃げねば喰われる、【脱兎】」
【脱兎】は逃走時に速さが上がる。
今現在進行形で逃げてるから、上がっているはず。
「ただ、つっきるのみ、【猪突猛進】」
【猪突猛進】は方向転換ができなくなる代わりに常に突進状態となる。
突進状態とは一歩進む度に速さが上昇し、何かに当たると速さの値の分だけダメージを与える。
速さが下がると効果がなくなる。
岩だろうが木だろうが、ルーは全てを破壊して進むだろう。
タイムリミットは残り30秒。
姿を隠し、今、組める中で速さに特化した【支援】の組み合わせだ。
さて、これで逃げ切れるか?
次回、『遠距離から高威力で』




