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ササはテングダケの仕事現場に付き添い人として連行された。
テングダケの仕事、外営業というのだろうか、簡単にいうと他の会社に出向いて書類を渡しつつ内容をプレゼンしたりするお仕事である。
正直にいうとササはコミュ力の塊なので困ったりはしなかった。
強いて言うなら、相手方とこちら側の価値観の違いをわかっていないことだろうか。
いや、待て。彼は一般人だっただろう、と思った方がいるかも知れない。
彼はもう既に立派な社員になっている。
犯罪組織のつくった会社の、である。
社内で爆発音が響かないっていいですね、なんて相手方との雑談のテーマにふさわしくなさすぎる内容をチョイスしてくる。
ばくはつおん?と首を傾げてる目の前のおにーさんに、テングダケはいい誤魔化しがないか考える。
あ、開発班が煩くてですね、ウチの会社。すいませんね、と軽く謝っておくことにした。
「確かに、この前火薬庫で機関銃で炎上騒ぎが……」
「ぶ……武器?」
「ウチの会社の汚点を他人様の会社で言わなくていいぞ。ええまあ、研究職や開発班って会社にとって武器ですから。」
「あ、そうですね」
相手方のおにーさんは、戸惑いつつも聞かなかったことにしてくれた。
「いいか、ササ。よその会社や企業では、自分の会社のことを話しちゃいけないんだ」
「あ、そうなんですか。わかりました!」
聞き分けがいいのがササの良いところである。
これが他の社員だった場合、自分がルールだとか、社長の言うことしか聞く気はないとか、迷惑になる?自分には関係ないでしょとか、平気でのたまってくる。
聞き分けの良さにテングダケが打ち震えていると、横で時計を確認したササがお昼に行きましょうか、と呟いた。
「どこに行きますか?近くだと牛丼やとか、焼き鳥屋とか」
そして続いた言葉にさらにうちふるえることとなった。
「飲み屋とか森とかない上にそもそも選択肢がある、だと?」
一般人、すげえ。
テングダケは、昼飯行こう、と誘うと大抵の場合、森で狩ってくるとか、酒がないと食事は摂らないとか、そもそも昼飯なんて携帯用の栄養食でいいだろとか言われてきていた。
「あー、うん。俺近くの店わかんないんだよね」
「あ、俺もです、スマホで検索してみたところ、定食屋さんとか色々あるみたいですね」
「スマホで検索?」
「あ、マップ機能で」
「俺、スマホの使用用途なんて、連絡手段と、機械のジャックと、相手の追跡とかしかしたことないわ」
「先輩凄いですね! 俺、その三つのうち連絡手段しかできません!」
「今度教えてやるよ」
ありがとうございます、なんて素直に返事をしているササ。
もはやツッコミが不在だった。
一般人になに教える気だとか、そもそもスマホの用途がおかしすぎるとか、ツッコミどころは多々ある。
それに気がつかないのが彼らであった。
結局お昼は牛丼だった。
「卵乗ってる。うまい」
「俺のうな丼です」
「うな丼?」
「うなぎが入ってます」
「そんなのがあるのか」
お昼でうなぎとか贅沢だなと思いつつ、値段の安さに驚愕するテングダケ。
彼の行く(行かされる)店では値段の桁がいくつか多かった。
「一般人っていいな」
テングダケはしみじみとそう思った。
思っただけには飽き足らず、口にも出していたらしい。流石のササも聞き返した。いくら天然でもこの発言は不思議に感じたらしい。
「いっふあんひん?」
「もの食べながら話すなよー」
ムグムグ、ごくんと飲み込んでから、ササは喋り出す。
テングダケ焦りもしなかった、どうとでも言い訳できるからだ。
「先輩って、もしかしてどこかのお金持ちの出身ですか?」
でもこの質問は予想外だった。