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ツキヨタケは真面目である。
イタズラしまくり、アホなこと大好きなツキヨであるが、真面目人間である。
そしてその真面目さゆえに時々意図せずにおかしなことを始める。
今回もそれが原因だったらしい。
「ツキヨ先輩。それ何ですか?」
ツキヨは両手でかなり標高の高い何かを持っている。
なんだか豪勢な高い長方形の箱だ。
よくよくみれば、手作りらしい。
「ウェデングケーキ。昨日同じフロアの子が結婚したらしいから」
どうして結婚祝いがウェディングケーキなのか。
普通もう少し小さいお菓子とかではないのか。
ササは戸惑った。
「あの、ここは普通、フラワーギフトとかペアの小物とかでは?」
「え?」
ぴしゃあ、とツキヨに稲妻が落ちる。
「ウェデングってつく結婚した人用から選ぶんじゃないの?」
「え? ウェデングケーキって式の時にケーキ入刀とかする為のやつですよね?」
「え?」
ツキヨはどうやら結婚式に行ったことがないらしい。
確かに若いから、そういう人もいるかもしれないなぁ、とササは思った。
ちなみにササは友人の結婚式に出たことがある。
「ツキヨタケって、ササのこと気に入ってるねー」
ササがいつものようにパソコンを打っていると近くにいた社員に話を振られた。
「え、あ、そ……そうですね?」
ササ自身はよく喋る先輩くらいの感覚であり気に入られているという実感はない。
しかしながら側から見てそう見えるのならばそうなのかもしれない。
「あ、自覚ないね? ツキヨタケは興味ない人には無駄に口聞かないんだよ」
「雑談しないツキヨ先輩なんてただの菌類じゃないですか」
「ほらぁー、私も喋る方だけど、あの人基本人付き合いいいように見えてめちゃ悪いのよ」
この前だって合コン断られたしー、と社員は残念そうに羨ましそうにササを見つめてくる。
なんかこの愚痴の羅列、ササには聞き覚えがある。
そうだ、ハピネスだ。
彼女が以前ササを誘う時にそんな話をしていた気がする。いや、その話ではゲテモノ入れてくるから嫌だっと言っていたので少し違うか。
延々と愚痴を連ねる社員にササはテキトーに相槌を打ちながら手を動かす。
聞き流すのは得意なのだ。
ササは幼い頃、公園のベンチで座っているご老人たちの似たような、もしくは全く同じような話をそれはもう毎日聞いて聞いて聞き続けながらお菓子をもらうという聞き流し訓練を受けていたのだ。
相手の機嫌を損ねないように聞き流すのはもはや十八番である。
「ツキヨが菌類だって?」
急に後ろからゼニゴケが声をかけてきた。
どうやら先ほどの話を聞いていたらしい。
「あ、すいません。失言でした」
流石にまずかったかな、とササは思ったが、思いのほかゼニは気にしていなかった。
「いいよ、別に。あいつ気にしないだろうし。それより、どこらへんが菌類なわけ?」
気にしていないどころか追求してくる。
ササは言葉を濁すべきか思ったまま暴露するか少し悩んだが、暴露することにした。
隠してもばれてしまう気がしたからである。
実際駆け引き()に慣れているゼニたちにはササのちょっとした嘘など簡単に見破ってしまう。
「ツキヨタケってキノコですよね、あ、本物の方です。それってつまり菌類ですよね。ツキヨ先輩のイタズラって有害なタイプの菌類だな、と」
そのセリフにゼニは数秒固まる。
社員も側でフリーズしている。
「直球ね。あんた」
やっとの事で喋ったのは社員だった。
「あー、度胸があっていいんじゃないか?」
ゼニはなんとか声を絞り出した。
彼は苦笑していた。