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テングダケとツキヨタケは仲がいい。
親子だからというのもあるが、単純に相性も良いのだろう。
ゼニゴケとツキヨ、こちらも仲がいい。
幼馴染みたいなものでお互いわかり合っている相棒のような存在だ。
そういえば、ツキヨは人付き合いが上手だな、とササは思う。
ニコニコしていてとっつきやすいからかもしれない。
「ツキヨ先輩って友達が多いタイプですよね」
何気なく近くの社員にそういってみる。
「いや、ええ、それはないですよ、嫌がらせじみた所業が多すぎます」
たしかにイタズラの量も質もすごいことになっているだろうが、ササは嫌がらせとは違うと感じた。
「なんていうか、こう。緊張とか、たまに社員さんたちからでてるピリピリ感? が無くなる気がして」
すごいなぁ、あの先輩。
そんなササのつぶやきに、それを聞いていた周りの社員は石になった。
カチコチになって、数分、何も行動ができなくなった。
ササのいうピリピリ感とは、世でいう、殺意だ。
ササの前でそんなもの出した覚えはないのだが、もしかしたら、前の業務していた時の名残が消えていなかったのかもしれない。
それに気づかれないように、ツキヨがフォローしていた?
信じられないが、ササという一般人がそう感じたんだ、ツキヨはそれに気がついたんだ。
あの人やっぱり幹部なだけあるんだな、と、その日社員たちは実感した。
「社長! どうですかこの超高性能シャープペンシル。ここのボタンを押すと、なんと、麻酔の出る注射器に!」
ツキヨが一本のシャーペンの横に付いているボタンをカチカチしている。
社長はそれを呆れた目でみつつ話を聞く。
「……細身のシャーペンのどこに麻酔を入れたんだ」
「え?ちょっと弄ったら簡単に入りましたけど」
何言ってるんですか、ぼす、ツキヨのそんな視線に社長はため息をつく。
「この有能さなら、どっかすごいとこの技術者になれただろうにな」
「僕、生まれが貧民なんで無理です」
「ストリートチルドレンだったな、……ほんと世の中ひどいものだ」
「それで、このシャーペン売り物になりますかね?」
「麻酔の入ったシャーペンなんぞ表で売れん、別の案考えてこい」
おもしろい売り物が、必ず売れるとは限らない。
ツキヨはブーイングしながらも、もっとおもしろいの作りますね、と返してきた。
というかこの会社はペット用品専門なので、文房具はお呼びではないのだけど。
部下からの提案で食料品始めたりしているので強くいえない社長だった。
ある日の社内。
今日もまた騒がしい業務時間を終え、挨拶して終了だ、となった瞬間。
普段はあまりうるさくしないゼニゴケが叫び声をあげた。
「きゃあああああぁぁ!?!?!!」
どこからどう聞いても乙女の叫び声だった。
あれ、この人って男だよな?
ゼニの相方、ツキヨも確かに中性的だったが、彼の方もなかなか中性的だったようだ。
見た目はしっかり男性なので、今の叫び声とはミスマッチであるが。
ところでいったい彼は何に叫んだのか。
またツキヨのイタズラかと思ったがツキヨが目を丸くして驚いているので多分違う。
ならどうしてか。
「ひゃぁぁ、つっ、ツキヨ! ツキヨタケ! 殺虫剤くれ! いや、やっぱいい。お前がなんとかしろ!」
虫がいたらしい。
ゼニの視線の先にはカメムシ。
臭いがきついやつだ。
ブンブンいって飛んでいる。
虫が動くたびに近くの社員をひっ掴みながら叫び声をあげるゼニ。
ツキヨは目を点にして驚いたけど、あまりの怯えように可哀想に思ったのか、近くのミスコピーだったいらない雑紙の束を片手にスタスタ歩いていく。
蛍光灯にまとわりつく虫に狙いを定める。
一瞬。
ツキヨの目が光る、さながらネズミを見つけた猫の目だ。
ジャンプからの一発命中。
普通ここは台を持ってくるところでは、とササは思ったけど、仕留めているし問題ないのかもしれない。
そして何事もなかったかのように、今日の担当が就業の挨拶をした。
「ツキヨ、サンキュー」
「お前、人間相手なら簡単に襲えるのになんで虫はダメなんだろうな」
ツキヨはササにわからないようにうまく言い訳をして、ゼニをディスった。
ササは首を傾げながらも、お疲れ様でした、と声をかけてその場を後にした。