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普通の会社なら悲劇の一日であろう社内数カ所破壊が起きた翌日。
その日は、
いつもならエントランスで縛られているのはツキヨなのだが、別の二人の男が縛られていた。
言わずともわかるであろうが、テングダケとイチョウである。
顔にへるぷみーと書いてあった。マジックペンで。
その様子を驚きの顔で見つめつつ、他の社員がスルーしているので、ササはどさくさ紛れてスルーした。
せめてあのマジックペンが油性でないことを祈っておこう。
「ツキヨ先輩、その、あの、ここの書類、ええと」
どんな言葉遣いで聞こうかあたふたしているササに、ツキヨは微笑ましいものを見る目を向けながらどれどれと対応する。
ササは純朴で大人しいから急にマシンガンぶっ放したり閃光弾投げつけてきたりしないのでツキヨは安心して喋れる。
懇切丁寧に接したくなるのもよくわかる。
社員の一部がササを支える会みたいなのを作るのもよくわかる。
みててほっこりする。
「ツキヨー、とササ。休憩の時間だ。一緒に飯行こう」
ゼニゴケが声をかけてきた。
彼も見た目は大人しく中身も怒らせなければ優しいタイプであることを長い付き合いのツキヨはよく知っている。
そう、怒らせなければ。
付き合いが長い分、彼の怒ったところを見たことがあるツキヨは、彼の地雷をコソコソ避けている。
悪ふざけこそ頻繁にやるが、本気で怒るようなことはしないようにしている。
「もうそんな時間ですか。食堂にでも行きます?」
「あの酒飲みがいないといいなぁ、絡まれるから」
のんびりと喋っているササとツキヨを見て、ゼニは一般人になれた感動を噛み締めていたが、普通の会社なら食堂に酒飲みとかいない。
「何食べる?」
トングをカチカチさせているツキヨのプレートには野菜と果物しかのっていない。
「肉食えよ」
ゼニが唐揚げをとって、ツキヨのプレートに投げ入れる。
その距離は、バイキングの端から端だ。
その様子を先輩すげぇ済ませるササの今日のお昼はお茶漬けだ。
おかずはくさや。
匂いはきついが、味は好きだ。
「なんでこれがあって納豆がないんだろう」
ドリアンをとりながらササが呟くと、隣でツキヨが引いた目をしていた。
「ササは匂いのきついもの得意なんだね」
「あんまり匂いは気にしないですからね」
「納豆なら社長にいえば増やしてくれるんじゃないか」
「え、ほんとですか」
今度頼んでみよう、なんて呟くササ。
ゼニは、一般人でも不思議な趣味の奴っているんだなぁと学習した。
爆発音を花火でごまかされて、それに気づかない一般人って何人いるんだろうか。
「おぉ〜幹部二人に新人君じゃないか。のんでるぅ?」
「野生の酔っ払いが現れた! 的な? 相変わらずだね」
「いひひひ、ツキヨちゃんのジョークは面白いね」
「冗句でもなんでもないな、事実だな」
先輩たちが絡まれ始めた。
ササはなんとか仲裁しようと思う。
「こ、こんにちは」
「やぁやぁ、新人くん。おひさ〜」
この前は枝豆ありがとーございました、なんてまた律儀にお礼を言われて、いえいえ、なんて返す。
そもそも、取りに行けばまた取れるのに、ケチる理由がないよな、とササは思ったけれど、指摘はしなかった。
なんせこの社員、前回あった時よりも酒臭い。
よほど飲んだらしい。
「肝臓とか胃とか気をつけてくださいね」
余計なお世話かもしれないが、心配になったので注意してみる。
ニコッと笑ったササはイケメンだった。
普段のオタオタ具合がなければ、なかなかいい感じの美形だった。
そのことに気がついた、先輩二人とのんだくれ一人は絶句した。
(((あれササって同性だっけ?)))
イケメンっていうより美少女に近かった、とはツキヨの感想である。