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その日、ツキヨタケは社内のお昼休みを楽しく有効活用していた。
この会社は、基になった企業の貯蓄が随分とあるのであまり緊迫していない。
もちろんしっかりと仕事はしているのだが、休み時間が長かったり給料が多かったりするのはこのおかげだ。
楽しいお昼休み時間中は大抵の社員が、お昼ご飯食べに出かけたり、スマホゲームで対戦したりしているのだが、ツキヨはちまちま罠づくりに勤しんでいる。
馬鹿じゃないかと思うかもしれないが、正真正銘の馬鹿なのでしかたあるまい。
子供っぽいところのあるツキヨはへんな創作キッドを買ってきて妙にうまく作り、他の社員のディスクにコソコソ仕込むような趣味がある。
ちなみに下っ端から社長まで誰にでも無差別に行うところが勇気があるといわれている。
これを勇気といっていいのかはわからないが、度胸はあるとツキヨは自負している。
さて、今回のキッドはこちら。
フェルトで作る鳥さんシリーズNo.48『かっこう』
他人の巣に自分の卵を放り込んで、「後は任せた!」するところがすごいと思う。
見知らぬ他人に我が子を任せられる心意気とかそういうのが。
チクチクチクチク。
延々とフェルトを専用の針刺していき毛玉を作る。
形を整え他のフェルトと混ぜてってやっているうちにあっという間に休み時間は終了した。
1日で終わるキッドは珍しく数日かかるのが常である。
今日は大人しかったなと、隣のディスクの社員に思われていたことにツキヨは気がつきもしなかった。
どっかぁーん
爆発が起きた。
唐突すぎるが事実を端的にまとめると爆発が起きた、としか言いようがない。
場所は社内、第四会議室。
今回の犯人は誰だろうか。
ツキヨも他の社員たちも一瞬目を鋭くさせただけですぐに仕事を再開し始めた。
唯一、新人のササはあたふたしていたが。
「え、え、地震?」
「このぐらいの爆発なら多分誰かが小型爆弾使ったんだよ。気にしないで」
「社内で昼間から花火……すごいですね!」
「フリーダムな会社だからね」
ササは持ち前の天然で流すことにしたようだ。
はっきりいって天然も度がすぎると馬鹿だとツキヨは思う。
爆発銃声は日常茶飯事な犯罪組織だったので、構成員……じゃなくて社員は動揺なんてしないのだ。
因みに、七割は身内の喧嘩だったりする。
この会社は現在はホワイト企業だと以前に書いた気がするが、ホワイト企業が犯罪企業でないなんてどこにも書いてない。
この社の罪状にはまず、銃刀法違反なるものがある。
危険物所持が多すぎる。
火薬からマシンガン、高性能防弾ガラスの車からガトリング付きヘリまで、多種多様な危険物が未だに残っている。
流石にもう仕入れはしていないが、残り物だけでも結構な量がある。
そして躊躇いなく社内で使用する輩はこの社の九割を越えるだろう。その中でも積極的に使用しているのは戦闘狂と元研究班の人材だ。
研究班はメカニックや調薬など色々な担当がいるが、主にメカニックのミリタリ趣味で危険物が増えることもある。
よってこの社の危険物は減る一方ではないというのが問題点である。
そしてそのメカニックだった男がここにいる。
ツキヨタケのことだ。
彼は前線組や戦闘班などではないのだ。
まあ別に彼自身はミリタリ趣味はないので、この問題に関してはあまり気にされていない。
それよりも気にするべきなのは、彼の養父、テングダケの方だ。
テングダケはある幹部と壊滅的に相性が良くない。
仲が悪いどころではない。
仕事や仲間そっちのけで戦闘行為はじめるようなレベルである。
「てんめぇ、イチョウ! 待ちやがれ!」
大人しく書類仕事をやっていたツキヨの耳に、聞き慣れた男の声が入ってきた。
「やなこったぁ。だいたい、その案でいいじゃん。どこに問題があるんだよ」
ドタドタ走る音とともにもう一人の男の声も聞こえた。
近づいてくる。
あ、ここが戦場になる。
一瞬でその場にいた社員たちは理解した。
テキパキと重要書類をまとめ、パソコンを持ち、自分の貴重品やら私物やらを持って早々に避難する。
時間の余った社員たちは困惑するササの荷物をさっさか運ぶ。
ツキヨも例に漏れず、しっかりと準備して備える。
「そのやり方だと、あちこちで資材が枯渇しちまうんだよ、この脳筋がぁぁ!!!」
今回の犯人はテングダケとイチョウだったらしい。