4
笹山の直属の上司、ツキヨタケは今日も元気にお仕事をしていた。
「なー、ツキヨー」
同僚で親友のゼニゴケが話しかけてくる。
ツキヨは回転する椅子をくるくるしながらゼニの方へ向く。
ゼニはニヤニヤしていてはっきりいって気待ち悪い。
「何かあったぁ?顔がだらしないよ」
ツキヨが指摘すると、ゼニはごめんごめんと軽く謝りながらも、えへっと笑う。
ゼニは笑ってばかりだなっと考えつつツキヨは彼を見つめる。
相変わらず顔がいい、これで彼女ができたことがないっていうんだから、世の中おかしなものだよなぁと思った。
「これ俺の家のカグヤちゃん」
みてみてと、見せられたのは四角い石板、こと携帯。どうやら写真らしい。
ツキヨは、かぐやちゃんなんて可愛らしい名前してるし、犬か猫かと画面を覗く。
映っていたのは、どこかでみたことあるような刺々しい緑色。
サボテン。
「かぐやちゃん」
「そう、カグヤちゃん。サボテン、今年もたくさん子株を作った可愛い俺の家の子」
これ子供達、と他の写真を見せられる。
小さな鉢植えが沢山並んでいてどの鉢にも小さなサボテンが植わっている。
ネーミングセンスを突っ込むべきか、そもそもサボテンに名前をつけることを突っ込むべきか。
ツキヨは悩んだ末に、花が咲くといいね、と返しておいた。
サボテンの花って、綺麗だよね。
テングダケは今日も走っている。
彼はなかなか忙しい部類の仕事をしているらしい。
書類をまとめて、社員もまとめて、パソコンとにらめっこしているこの男が、数年前までマシンガンをぶっ放していた戦闘狂とは思うまい。
ツキヨは彼の一番弟子で一人息子で崇拝者である。
崇め奉りながらイタズラを仕掛けている。
ちょっと育て方間違えた、とテングダケは思っている。
廊下で閃光弾使った馬鹿をとっちめる。
違法研究員たちからの通報である。
「だって、テングダケぇー。電気切れて暗かったからさぁー?明るくしただけだよ。僕悪くない」
「あ゛?目が潰れるだろうが、下手すれば永遠に真っ暗だ」
「その辺はさっき調整しといた」
なんでその能力があって蛍光灯を変えようという普通の発想ができないんだ!
そう直接いっても通じないのだから、もうどうしようもない。
どこで何をどう間違えたかわからないが、こうなってしまったからには保護者として後始末を手伝わねば、とテングダケはため息をつきながら、ツキヨを鎖でぐるぐる巻きにして社長の部屋の前で逆さ吊りにしておいた。
このぐらいで死ぬ輩ではないだろう。
と、油断して殺しかけたのは最近のことである。
ツキヨは一切反省しなかったが、しばらくフラフラしていて仕事もイタズラもできない状態だった。
これはよかったのか悪かったのか、多分マイナスにはなっていないはずだ。
ツキヨには一晩で社内を動物園にして数日使い物にならなくした前科がある。
今回のはまだマシだなと考えつつ、未だにクラクラしているのか壁に頭をぶつけているツキヨを誘導してディスクに戻す。
「毎回、僕を届けてくれるあたりが、とーさんの優しさだよね」
不意打ちでほにゃっと笑うのは卑怯だと思う。
テングダケは他の社員が大勢いるフロアの中心で顔を両手で覆って天井を仰いだ。
『うちの子がこんなに可愛い』
口にしていなくてもそう思っているとわかるポージングに、社員たちはおかしなやつを見る目で見ていた。
だってあの奇行・イタズラを好むツキヨが可愛いって、しかも彼はもう二十代だ。いくら童顔でも『可愛い』はない。かっこいいならわかるかもしれない見た目をしてはいるが。
どっちにしろ中身が全然可愛くない。
そんな社員の目をテングダケは見ないふりした。
ツキヨタケはそもそも気がついていなかった。
ただ、今日もテングダケは楽しそうだなと考えつつ、体調が戻るまで耐えていた。