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 ペット用品の売買や開発をする会社、オルト・ボタニコにはちょっと天然な新人がいる。


 これをちょっとで済ましていいのかわからない。


 この新人以外は世の中の「普通」と「当たり前」の二つの単語を知らないのである。



だからこれが過度な天然なのか一般的な天然なのかわからない。



 この会社の話をしよう。




『好条件には必ずデメリットが付く』



 この会社はホワイト企業であって社会的にはホワイトではない。



 この会社の社長は犯罪者である。


 そしてここの会社員のほとんどーというか笹山以外ーは犯罪者である。


 正確には元犯罪者、いや捕まってもいないから元でもない。



 この会社のベースは犯罪組織だ。


 ヤクザとかマフィアとかそういう奴。




 何故こんなことになっているのかというと、だいたいボス、社長の所為だ。


 昔話をしよう。

 社長(ボス)は愛猫家だった。一匹の白猫に対してダンディーな裏社会のおっさんがデレデレになっていた。社長のお猫様はその犯罪組織内部でもとても可愛がられていて、当の本猫も賢くておとなしい淑女だった。

 社長は抗争中の敵対組織に、こともあろうに黒光りするハンドガンを向けながら自慢するくらいその猫を大事にしていた。


 しかしながら、お猫様は急死した。



 死因はチョコの誤飲だった。



 誰のチョコかと言われれば、社長のチョコで、社長自身の自業自得としか言えないのだ。現実は非情だった。そのチョコはどの強いアルコールの入ったもので、助かる見込みもなかった。

 社長は悲しんだ。悲しみに明け暮れて、夜な夜な幹部たちと酒を浴びるように飲んで肝臓を悪くするくらい悲しんだ。その酒の入ったいくらか鈍った賢い頭で、敵対組織を殲滅しに出かけ、部下もついていき無駄に戦術を生かしてカチコミに行くくらいは弱っていた、よ、弱っていたはずだ。むしろ弱っている時の方が凶暴なのは手負いの獣みたいなものだろう。

 そして、何を血迷ったのか、はたまた何かおかしなものでも悟ったのか、社長はこう考えた。



『何かペットに役立つことをしよう。そうだ。会社たてよう』



 と、言うわけで、このおかしな会社は作られた。


 社長が有能でなければ会社はここまで大きくならなかったし、その狂った提案にのる幹部が優秀でなければ、有名になんてならなかった。


 もちろんのこと、社員の中には、戸籍がないものから強盗犯、マッドサイエンティスト、はたまたどこぞの貴族まで、いろんな輩が勢ぞろいだ。


 これでまとまっているのは一重(ひとえ)に社長のカリスマ性と数名の頭脳の優れた幹部のおかげだ。





 当然ながら、急に世界的犯罪組織が消えたら、いろんなところに驚愕の雷が落ちる。



 政府や警察は大慌てで探し、敵対組織もどう動くか悩んでいる。


 だが、腐っていてもこの会社は天才で有能で優秀な奴がゴロゴロいる。証拠隠滅は完璧だ。




 みんな、もともと悪いとこ育ちや悪いことしまくりの奴だったが、この表舞台に出る機会のおかげで多少は、多少は、落ち着いた。

 まだ、身内での喧嘩で銃火器を使う癖は直らないし、会社内の地下には違法なものが山のようだけどそれでもマシなんだ。




 そんな問題しかない会社が新人を雇うことにした。



 ……のはもう数年前の話だ。



 社内から不安の声が後をたたなかったし、社長自身、こちらの条件に見合う新人なんていないよな、と考えていた。



 事実、この数年はいなかった。




 条件といっても別にいい経歴とか資格とか求めているわけではない。


 というかいい経歴を持っている奴が社内にいない。



 条件は三つ。



 一つ目、政府や警察、敵対組織に関係がない民間人であること。そして目立ちにくいこと。



 二つ目、密告しないような確証があること。具体的にはこの会社の異常性を天然か何かで跳ね除けてポヤポヤしているといい。他の社員の知り合いでもいいが、社員(裏社会の者)の知り合いは悪い人(犯罪者)ばかりである。


 三つ目、身内(社内)での乱闘に巻き込まれも生きていられること。社内には問題児がゴロゴロしている。ちょっとプロレスラーとか連れてこないとこの条件はクリアできない。


 こんな都合の良すぎる人材、いる方がおかしい。



 でも、いたからこそ、世界は広いと断言できる。



 笹山は一見、普通の細身の男性だが、警戒心を前世に捨ててきたらしい。天然で優しくて抜けている。

 目立たない庶民生まれ庶民育ち、中堅高校出身、至って普通のプロフィール。

 趣味はゲームとアニメと小説と漫画というインドア派だ。


 しかし、行動力が高い、そして頑丈だ。


 面接中、()()()()()()()喧嘩をしていた幹部二人が部屋の壁をぶっ壊した。

 面接官共々、できるだけ笹山を庇いつつ退避しようとしたが、そこに大きなコンクリートが崩れてきた。



 このビル、脆い。



 そして重傷人が出るかと思われたその時だった。



 笹山はコンクリートに向かってパンチをかました。



 コンクリートは粉砕された。



 本人曰く、アニメのモノマネをして筋トレしたり技の練習したりして、ジムにも通ってパルクールも習ったそうだ。


 アニメのモノマネを全力でやるための行動力がすごい。


 明らかにちょっとやそっとじゃ死なないと面接官は確信した。




 この会社に初めての一般人が来た。



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