16一応完結
『ササが来ている』
その知らせで植物園側、オルトボタニコは騒然とした。
バレてないよなぁ、大丈夫だよなぁとざわざわしつつも銃撃していた手を止める。
テングダケの言う通り、敵側も手を止めている。
鶴の一声ならぬ、笹のひと揺れで抗争は一時的に止まった。
「はい、ササ自己紹介よろしく」
テングダケはそう告げた。
まるで運動会の開会式のように2グループが向かい合う。
片方の先頭にはテングダケ、もう片方にはロップイヤーが立っている。
テングダケの横にはツキヨが並び、いつものニコニコ笑いを消して真顔で立っている。
双方の中心にはササ。
多くの人の視線にさらされているササにとって、この場はすごく居心地が悪かった。
ササは別段人見知りというわけではないが、こうも目立つと恥ずかしいのだ。
「は、はいっ! 笹山です! えぇーと、テングダケさんとツキヨ先輩と同じ会社の新人社員です! あだ名はササです! よろしくお願いします!」
ロップイヤー側のメンバーは騒然とした。
会社員、一般人のササが、真っ黒な世界に住む自分たちに、よろしく、なんて言ったのだ。
純粋な奴に弱い彼らにとってササは弱点もいいとこだった。
「お……おぉう、よろしくな〜」
「ササさんかぁ、あ俺カピバラーよろしくー」
「ずるいぞ!僕、カラスでしゅっ……?!」
ワイワイとササに声をかけてきたが、一人盛大に噛んだ。
痛そうだ。
「……皆さんもサバゲー仲間ですか?最近の装備はすごいんですね」
ポワポワと笑うササにその場は一瞬でブリザードが吹いた。
ササのいうとうり、今も彼らは戦闘服で銃を持ったままのやつもいる。ツキヨなんて腰に爆弾と閃光弾装備している。
「あ、ああ。そうだな!」
なんとか誰かが復活して相槌を返すが内心冷や汗まみれだった。
「こ……これからみんなでバーベキューするんだけど、ササもどう?」
話題を変えようと、ツキヨが笑っていった。
みんな、に敵も入っているが、この場ではしかたあるまい、引きつった笑みのロップイヤーが頷く。
「そうなんですか! あ、俺シュールストレミング持ってるんです、皆さんも食べます?」
本場では洗って焼いたりするらしいですね、なんて呟くササにシュールストレミングがなんたるかを知っているものは絶句し、知らないものは首を傾げた。
「しゅ…?」
「外国の缶詰です。ニシンの。ちょっと臭いがきついので好き嫌いは分かれるかと」
「ちょっと……?」
一度食べたことのある猛者、ツキヨは固まった。
そのツキヨの表情に周囲も固まる。
それがどれだけのものか、普段何事も恐れない彼の恐怖の顔で想像がついたのだろう。
「そっか〜、でも俺、魚苦手でさ、ここにも何人かそういうやついるし、悪いけど今度な!」
耐えきれなくなった誰かがそういった。
その言葉にササはしょぼんとしたが、そうですね、好き嫌いはありますよね!と悲しげに笑った。
とりあえず、最悪の事態は免れた。
ここから始まる、敵味方がごった混ぜになったバーベキュー。
本当のカオスはここからだった。
「なぁ、俺らなんで一緒になって酒飲んでるんだ?」
「一人の一般人により一つの抗争がなかったことになったからだろ」
「一般人すげぇ」
「ササさあぁぁん! ぜひ、うちの組織に!!」
「誰がやっと来た新人を渡すかよ?!!」
ロップイヤーとテングダケがリアルファイトを始める中、ササはさっき仲良くなったカラスと連絡先交換しておしゃべりしていた。
その横には見張り役のツキヨ。
「なんか皆さん楽しそうですね」
「うん、ササのおかげ。ありがとね」
「………? どういたしまして」
天然は争いを止める良薬だった。




