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(俺は今、敵組織と抗争しに……きたんだよな?)
男は戸惑っていた。
自分のペースを一般人に完全に崩されたのである。
「そうなんですかぁ、上司の方が……なかなかにヴァイオレンスな方なんですね」
「ヴァイオレンスってどころじゃないんだ。この前なんて……」
一般人に暴力上司がいるという相談をする羽目になった。
彼は敵組織、『オルト・ボタニコ』に喧嘩()吹っかけにいかされた、同じく犯罪組織『ティッセライ』の幹部候補だ。
かの植物園と違い、彼の所属組織は息を潜めて狙ったものを逃がさない隠密タイプである。
所属員も大人しめな者が多いが、犯罪者集団なだけあり、性格のひねくれた者が多い。彼は比較的大人しい方だが、上司がサイコパスに近いドSであるため苦労人だ。
ちなみに植物園は名前と真逆で荒々しい一面がある。
彼の組織、動物園は、動物のくせして派手な動きはしない。
世の中言葉通りにならないものである。
「へいへーい、俺の玩具はどこ行ったぁー?」
そのおかしな現場に、幸か不幸か彼の敵対者が現れた。
いや、ササにとっては身近な人だった。
「あれ、テングタケさん」
そう、テングタケはそこにいた。
草をかき分け二人を見つけた。
「な゛っ?! ササ!!?」
「奇遇ですねー」
「はぁ!? アンタこいつの知り合いかよ?!」
もはやカオスである。
「テングタケさんもサバゲーですか?」
「あ……ああ。俺コイツ……えぇーと、今、ウサちゃんの敵なの。追いかけてきたんだ」
テングタケはなんとか誤魔化そうと、口裏を合わせて喋る。
「ササは?」
「あぁ、俺、今日はピクニックにきたんです。今からシュールストレミング食べます。……一緒に食べます?」
テングタケはシュールストレミングが何か知っていたらしい。
うげっという顔をして口元を引きつらせている。
そして今から?と聞き返している。
それに対してササは頷いている。
それを呆れたような顔で眺めつつテングタケに『ウサちゃん』なんて呼ばれた青年は、二人の関係性を聞くことにした。
「あー、後輩、会社の」
「へぇ、会社の、ねぇ?」
一般人の仲間ということを言葉の外で伝え合いながら二人はどうしたものかと考える。
実際問題、彼らは今、絶賛抗争中なのである。そんななか何も知らぬ一般人が一人。
裏社会には一般人を極力巻き込まないというルールがある。これは完全にバレたらルール違反(そんでもって『死でもって償え』と二人が殺されるエンド)になるのだ。バレなくても巻き込まれて(ササが)死んでしまう可能性が高確率である。
ここは逃すのがベストだが、どうするか。
逃すにしても山の中に入りすぎていて、下手に動けば他の奴に見つかる。
最悪、見つかって流れ弾とかに当たる。
やばいやばい、どうしたものか。
「そっか、俺ら、後でバーベキューするんだ。一緒に焼くか?」
「なぁそれ何焼くの? (抗争の)後で? 獲物(俺ら)焼かれるの?!」
「そんなもん焼かねぇよ。材料持ってきてるわ。」
二人の会話にササは首をかしげる。
「テングタケさんと、えーと、…ウサさん? は、狩りもしてたんですか。ならきちんと血抜きしないと」
「あ゛ぁーー。処理してあるから、大丈夫」
「処理、(されてるの俺らだよなぁ)うわぁあ。俺、ウサちゃんじゃなくてロップイヤー。うさぎではあるが、その呼び方はやめてくれ」
「あ、はい。ロップイヤーさんですね。俺は笹山です。どうぞよろしくおねがいします」
「笹山な」
「はい! ササはあだ名です!」
「へぇ(すげー、コードネームだって気がついてねぇ。)」
ウサちゃんならぬ、ロップイヤーは、ササが一般人であると改めて確認しつつ、にこりと笑った。
「とりあえず、(抗争は)休戦だ。お前らの仲間止めてきて、俺も止めてくる」
「そうだな、それまで(ササの生死が)危険だから、ササはここで隠れててな」
ササは小首を傾げつつ了承した。
「わかりました」
最近のサバゲーは、本格的だなぁとのんびり呟くササに二人はため息をついた。
少しして、
走りまくって声が届かないくらいササから離れた二人は、携帯を取り出した。
そしてロップイヤーとテングタケは二人合わせて仲間に電話をかけて、二人同時に叫ぶ。
「「やめだ! やめだ! 一般人が紛れてる!」」
「ササが来てたんだ、中断しろ! やっこさんにも休戦指令を出させてる!」
「一般人がピクニックに来てた! 巻き込んでしょっぴかれる前に銃を止めて敵から距離をとれ!」
そして始まるカオス。
 




