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 ササはとうとう念願の食べ物を入手した。




 シュールストレミングだ。




 匂いの強い物を好むササは、色々な噂を聞くこの食べ物に昔から興味があった。


 ただ、ネット注文でないといけないのと屋外の迷惑をかけない場所で食べなくてはと思っていたので、購入に踏み切れなかったのである。



 次の休日はこれを食べに山奥まで出掛けようとワクワクしながら今日の業務を終える。


 ササのワクワクが伝わったのか、今日はいつもより楽しそうだね、なんて声をよく聞いた。

 その返答に、休日に楽しみが待っているんですと笑顔で反応した。


 いちいち反応してしまうのは、嬉しさからだろう。




 ちなみにシュールストレミングとは、簡単に言うとニシンの缶詰のことだ。たしか…保存のためだったか、なんか漬けてあるからだっけ?なんでだったか忘れたが、とんでもなく匂いがきついというのは知っている。

 実際この缶の注意書きはすごいことになっている。


 それこそ、しばらく匂いが取れなくなるのは覚悟しなくてはいけないくらい。



 もちろん、ササは覚悟済みである。



 なので休日誰にも迷惑をかけないように山にでも行って開けて食べて帰ってくる予定だ。




 どんな味なのかなぁ。



 噂によるとあんまり美味しくないと感じる人が多いらしいが……。




 その日ササはワクワクしながら退社して、遠足前の幼児みたく眠れなかった。





 次の日。


 ササは元気よく朝から山に出かけた。


 でも着いたのは、夕方だった。山って遠いね。


 帰宅しないで仕事に行く気なので休日が一日でも問題はない。


 人がいなそうな山がいいな、と思ってお化けが出ると有名な山に登ることにした。

 一応地主のおじいさんに入山許可をもらったが、あのおじいさん、ほけほけしすぎていていつか詐欺にあいそうな人だと思った。



 ササ自身も詐欺にあいそうなタイプであることを本人は知らない。



 リュックの中には『例の(シュール)ブツ(ストレミング)』と通行機関で使えるペンギンのカードに、お財布とスマートフォン。

 ササは機械音痴なのでスマートフォンをまともに扱えない。せいぜいできて電話とメールとラインくらいだ。あと仕事道具。

 それと一応意味がなくなるかもしれないブレスケアと熊除けの首と胴体が首の代わりに一本の紐で繋がれておる熊のストラップ。



 ……最後のはササの姉妹が熊除けになると言われて持ってきたのだが、騙されていることに彼は気がついていなかった。ついでにソレを持って本当に熊のいる山に行ってしまった兄弟がいると姉妹も気がついていない。



 まぁ、最終的にはステゴロ最強とかいいそうな彼なのでその件に関しては問題はないだろう。




 そう、問題はそこではなかった。




 パーンと発砲音が響く。



「花火かな? ここでもやってるんだ。会社のと同じ種類の手持ち花火だろうなぁ…」




 ササがよく会社で聞く花火の音(銃声)が響いている。



 そうこの山、地主が気がつかぬのをいいことに、悪い奴らの抗争現場になっていた。



 その場にツキヨやテングタケがいることに、彼は気づいていなかった。




「どこらへんで食べよっかなぁ」



 呑気にレジャーシートを引いて白米のおにぎりと水筒を出すササは、その異様な空間でも天然でマイペースだった。




 さて、缶をいざ開封しようとしたササは、大きな爆発音を耳にした。


 至近距離で聞いたせいか耳がいたい。


 それでも何事かと目を向けると赤い炎。黒い煙。


 流石に大事だと感じたササは、一度山を降りようと、レジャーシートを片ずけようとして……そのレジャーシートの上に、人がとんできた。


 正確にいうと、とばされてきた、が正しい。



 黒髪に青目の男。ぼろぼろの黒い服を着ていて、バンダナを頭に巻いている。


 警戒心が強そうな目つきでこちらを見てくる。




 手には、狙撃銃がある。




 もしや……。




「サバゲーですか?」



「は?」



 明らかに警戒していた彼は、一気に力を抜いた。



「一般人か……」


 ボソリと呟かれたその言葉はササには聞こえなかった。



「大変ですねぇ、いや、趣味なんですか?」




「……あ、いや、……まぁ」



 口ごもる彼を不思議にすら思わずササはニコニコしていた。




 とても不思議な空間だ。


 彼はとんでもなく混乱している。




 ササは早くこの人向こう行ってくれないかなぁ、缶が開けられないんだよなぁ、とか考えていた。




「アンタは、何している?」




 自分がレジャーシートとササの膝の上にいたことに気がついた彼はいそいそと退きながらも質問する。



「あ、シュールストレミングの実食をしようかと」



「しゅ……?」



「シュールストレミング、ニシンの缶詰です。なかなか匂いがきつくて、屋外での開封が推奨されています」



「屋外…?」



 ぽかんと口を開けてフリーズしている彼に、ササはニコリと笑いかける。



「はい、なので誰の迷惑にもかからないところで開封しようかと」



「食うのか?」



「え? あ、はい。食パンと白米おにぎりを用意してあります。…食べます?」


 ササが誘ってみるといらないと即答された。


 そうですか、とササは返しつつ、チラリと後ろを振り返る。



 なんの気配だろう、何か、いた気がする。





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