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ササは、わさび味のアイス(食べかけ)を持ち帰ってから、家で溶けてしまったそれを飲んだ。
「なんか、美味しい?」
ササは珍味が好きだ。変な味のものや変な匂いのものを好む。
今度ツキヨタケにねだろうと、ササは決めた。
「ツキヨ先輩!」
朝、出勤してからすぐ。
今日はまだ業務時間内に入る前に余裕ができたので、先輩の元へ向かう。
「アレ? 珍しいね。どうしたの?」
ツキヨは首を傾げつつにこりと笑った。
うわぁイケメン。ササは一瞬見惚れてしまった。
「わさびアイスいつ発売ですか?」
ツキヨは思わぬセリフにフリーズした。
「え゛? あ、アレ? イタズラ用だし、発売はしないけど」
「……そうですか」
しゅん…としてしまったササに、ツキヨはどうしたのか聞いてみる。
「家に帰ってから溶けた残りのアイス食べたんですけど、すごく美味しくてですね、また食べたいなと思い……。」
「そ、そっか。おいしかったのか。うん。また作ったらあげるね」
「ほ、ほんとですか?」
「ほんとほんと」
こうして、ササの珍味好きはツキヨに伝わった。
だからなのだろう。
今こうして変な食べ物作りを大切な休日を使って行っているのも。
「べったら漬けって食べて見たことはあるんですけど、作ったことなかったんですよね」
「ササは食べたことあるのか、僕は食べないよ。あ、でも明日の食堂に並べてみようかな」
「食堂に並べると他の食べ物にも匂い移りしそうですけど」
「やだなあ、だからいいんじゃないか」
ツキヨとササの目的は月とスッポンくらいの差があった。
もちろん自分のために作るササが月、人の嫌がらせのために作るツキヨがスッポンである。
次の日、ササ以外の誰もが嫌がる食堂になり、跡形もなく片ずけ(焼き討ち)をやらされる羽目になったツキヨがいたという。
それを見てササは、社長は色々な人のことを考えなくてはいけなくて大変なんだなと思った。
ビル(本社)の一部の焼き討ちを部下に頼む社長なんて滅多にいない。
ササはまだ、この会社が普通だと思っている。
会社の社員はみな、ササが一般人だと思っている。
こんな天然ゴリラ美青年は、一般人ではない、逸般人である。
「なぁ、ツキヨ? ササはさっきから何している?」
「野良猫に餌付け」
「……待ってくれ。猫?」
「猫だってさ、ササにとっては」
ササは今、会社で一時預かりをしている『猫』に夢中である。
動物が大好きなササは、その大きな猫が気になって仕方ないらしい。
その様子を、呆れと驚愕と少しの尊敬を視線に宿して見守っているのは、ツキヨとゼニゴケだ。
ツキヨとゼニは知っている。
ソレは猫ではない。
違法遺伝子操作を行われてしまった、虎とライオンと猫の混血種だ。
可愛いのかもしれないが、牙はすごいし、素早いし、油断したら一般人など首を一噛みで殺されてしまう。
まあ、赤子なので、今はまだただの子猫もしくは成猫にしか見えない。
行動も、表側の人間であるササから見れば、ちょっと噛みが強くて手が血まみれになるくらいの可愛い猫だそうだ。
「っておい、ちょっと……待てよ。ササ、おいササ! 血まみれじゃないか! おいっ!」
「やだなあ、ゼニ先輩。じゃれてるだけじゃないですか、…ねぇ〜?」
ササがその猫()を両手で持ち上げて首を傾げる。猫()はそれと同時に首をササと同じ方向に傾げる。
可愛い、ササはイケメンなのに、可愛い系男子でもあったのか、ズルイ。
「アレ? この子女の子だったっけ?」
ツキヨが不思議そうな顔をしている。
ゼニは、違うと言いたいけれど、言えなかった。