10
ササとテングダケは、昼食を終えた後、次の仕事をすることにした。
実は次の仕事は社長直々に命令されたなかなかにハードな仕事である。
通称、カチコミ。
まるでどこかに喧嘩しに行くかのような名称だが、犯罪ちっくな犯罪はしない。
ただ、普通の会社というには異様な仕事ではある。
ササは次に何をするのかあんまりわかっていなかったが、テングダケは苦い顔をしていた。
一般人なササに任せるにはどうしようかと悩む程度には普通ではないのだ。
この会社はペット用品専門店である。
ペットといえば、犬、猫、鳥、魚などの動物を思い浮かべるだろうが、この会社には裏オプションとして、いわゆる人間用……大人用グッズなども取り扱っている。
法を犯すような悪いものは何一つないが、大声をあげてこういう仕事をしていますとは叫べない内容である。
そしてそれの取引相手はなかなかにインパクトのある人たちだ。
ムキムキで、筋肉がステキなお姉様が多い。
お姉様とか姉さんとか呼ばないとその素敵な腕力で元前線組も真っ青な攻撃をしてくるので、彼……じゃなくて彼女たちとの取引ができて初めて一人前ということになっている。
何が一人前って、度胸が、だ。
これは犯罪組織時代から定番だった。
かくいうテングダケも行かされた。
一人で、一人でだ。
今回は一般人を連れてくとあって保護者()付きだが、下っ端はみんな一人で行かされた道である。
これで逃げ帰るとしばらく笑い者にされる……なんてことはない。
ただ哀れみの目からしばらく逃れられなくなるだけだ。
テングダケは真剣な顔をして、ササに言い聞かせる。
「いいか? 今から行くところは、個性的で得体の知れないエイリアンを相手にしなければいけないところだ。お前なんかは見目もいいから、とても食いつかれる」
「くいつかれる……トラとかですか? あ、動物園とか?」
「それだったらよかったなぁ」
死んだ目をするテングダケにササは困惑しつつ、とりあえず気をつけますと返事をした。
「あらぁ? てんちゃんじゃない、いらっしゃい」
語尾にハートが見える。
雄々しいタイトドレスの男がにこりと笑う。
「あ! その子新人ちゃんね、わぁ、びっじーん」
「今日は何持ってきたの?」
「ねえねえ、貴方お名前は?」
やってきたのは、バー。女子力()の高すぎる漢たちが集まるバーである。
キラキラまるでどこかのホストたちの集まる場所のような目に痛い装飾に、テングダケはクラクラした。
テングダケがここに来るのはこれでもう数十回、数百回以上だが、慣れない、慣れる気がしない。
横でササは固まっている。
余談だが、彼女たちは、意外とツキヨと仲がいい。
「あ、はい! 新人社員の笹山です! よろしくお願いします!」
ササはすぐに再起動して、元気に挨拶を始めた。
彼女たちは、元気がいいわねぇと微笑んでいる。
(え? この一般人、裏社会に染まりきった俺らより度胸あるんじゃ?)
テングダケは内心ドキドキしていた。
「あの、テングダケさん? 書類は……?」
「あ、ああ。今出す。悪い」
「これで出張営業終わりですし、明日は日曜日ですから、もう少しです、頑張りましょう」
ニコニコ笑うササの、精神力の高さに、テングダケは目眩がした。
「そうだな」
他にどんな返答の仕方があったというのか。
テングダケにはわからなかった。




