2-29 展望室のつむじ風
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー、ザー!
ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!
『セリア! 雨だよ! これなら今年も豊作だね!』
『……ええ、そうでしょうね、アネモイ』
気象塔最上階、展望室にセリアはアネモイと居た。
モルグ島が嵐に包まれて三日が過ぎた。嵐は収まるどころか日に日に激しさを増し、ヨーロッパ全土を包み込んでいた。
つい先程、アルプス地域で地滑りが起きた報告もあった。記録的な大雨と大風はヨーロッパの経済活動を停止させ、時間を追う毎に地形を削っていく。
『ね、アネモイ、そろそろお日様を見ませんか?』
『お菓子食べようよ! これからの豊作を願ってさ! キョースケ達を呼ぶのも良いね!』
『はい。食べましょう。あなたがお気に入りのキャンディを』
机に置かれたキャンディをセリアとアネモイは舐めた。
気象塔のすぐ近くにある店で買った大量生産の安物のキャンディ。人工甘味料の主張が強い。柑橘系の風味がセリアの口内で広がる。
『美味しいね! どんどん食べて! そうだ! キョースケ達も呼ぼうか!』
『大丈夫。キョースケさん達は休憩中ですよ』
『そっか。もっと雨が降ると良いね。そうすればみんな喜ぶから!』
アネモイとの会話が会話の様な物に成ってもう一週間が過ぎた。
十年以上付き人をやってきたセリアにとって、アネモイの次世代機を製作するという話は青天の霹靂だった。確かにアネモイの不具合の頻度は年々増していたし、完ぺきだったヨーロッパの天気に綻びが生じていたのも事実だった。
しかし、それは微々たるもので、後二十年程度は問題なくヨーロッパの産業は回していけると試算されていたのだ。
『~~♪ ~~♪』
ニコニコとアネモイは美しい顔を笑みの形に変えて小さく歌う。セリアはそっとそれに耳を傾ける。
付き人としての仕事がいつまでなのか具体的に知らされていなかったけれど、もう少しアネモイと共に居れると思っていた。
──シカバネ町、そこに現れた、テレパシスト。
テレパシーの発現は世界を激震させた。収集された情報の中でヨーロッパを最も驚愕させたのは、テレパシーでキョンシーからキョンシーへのPSIの譲渡が可能であるという報告だった。
PSIには未だ正確な法則性が見つかっていない。どんなPSIと成るのかの賽の目は神が握っていると言われていた。
クローン技術が発達したヨーロッパでも、神からサイコロを奪えなかった。
それ故に、PSIを発現したキョンシーは等しく傑作で、製作者達にとって唯一無二だ。
世界中のキョンシー研究者は色めき立った。テレパシーを使えば、作品を量産できる。それができればできなかった実験ができる。そして、いつか、謎ばかりのPSIの法則を見い出せる。
ヨーロッパは半ば強引にシカバネ町のキョンシー犯罪対策局へ依頼した。
テレパシーを使い、アネモイの次世代機へエアロキネシスをコピーしてくれ。そう言う依頼だ。
それは現在成功している。次世代のアネモイは昨日とうとう会話が出来る様に成った。エアロキネシスの出力と操作性もB-を記録している。
対称的に、この現行機は日に日に壊れていく。後三日か四日でこのキョンシーは完全に壊れ、次世代機へと役目を移し、廃棄されるだろう。
本当なら、アネモイ現行機は緩やかに崩壊し、眠る様な滅びを迎えたに違いないのにだ。
『~~♪ ~~♪』
ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ。
展望室に風が吹いている。アネモイを中心とした小さな小さなつむじ風だ。
『あなたともっと一緒に居られると思っていました』
セリアは小さく呟いた。声は小さく、風の音にかき消された。




