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⑭ 認識補強







 曰く、ホムラというキョンシーの認識はココミのテレパシーによって支えられている。


 キョンシー犯罪対策局を相手取った大立ち回りをしたホムラの脳には致命的なダメージが残った。これはマイケル・クロムウェルの腕を持ってしても取り除ける物ではなく、通常ならばホムラは廃棄処分されるに足る不具合が生まれたのである。


 ホムラというキョンシーが持った致命的な不具合は一点。〝記憶〟である。


 連続的なPSI使用はホムラの記憶領域を融解させた。このキョンシーが記憶、又は記録できる時間は僅か七秒程度しかない。その時間を過ぎるとホムラにある〝全て〟の記憶は瞬く間に焼け落ちるのだ。


 エピソード記憶だけではない、意味記憶、非陳述記憶を含んだ、全てだ。


 その精神で培ってきたありとあらゆる経験をホムラは記憶できない。彼女一人では立ち上がることも、否、〝立つ〟とは何を意味した言葉なのかを理解することさえできないのだ。


 認識は感覚から生まれ、感覚は記憶から育まれる。記憶が燃え尽きていくホムラは只の肉塊に過ぎなかった。


 だが、ホムラは普段問題なく稼働している。それはココミと常に触れ合っているからだ。


 ココミは自身の認識、感覚、記憶を常にホムラと共有している。ホムラが失ってしまった脳の領域の全てをココミが受け持っているのだ。


 これはココミがテレパシストだからだ。自身のPSIのほぼ全てをホムラに向けている。図らずもこれはココミを悩ませていた、外部から無作為に聞こえて来る心の声の緩に繋がった。


 ココミの自我はホムラとほとんど溶け合い、ココミの認識を通してホムラは世界へ自己を確立している。


 妹の眼を通して姉は世界を見る。妹の耳を通して姉は世界を聞く。妹の鼻を通して姉は世界を嗅ぐ。妹の全てを通して姉は世界へ触れる。


 互いをテレパシーの糸で巻き付けて自己の境界線を消失させて、ホムラとココミは今世界に現存できた。


 密着した零距離でのテレパシーだからこそできる超精密繊細な荒業である。


 ホムラはココミの力を借りて世界を認識し、ココミはホムラと混ざることでその愛を浴び世界に立つ。


 それがホムラとココミ、木下恭介の保有するキョンシーの在り方だった。

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