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④ 赤蚯蚓の回答




***




 プスプスと人間が黒焼きに成った匂いがする。


「……ふぅ」


 京香はハンカチで手を拭きながら、男を見下ろした。


 霊幻が残したのはキョンシー使いの男だった。戦闘用の、それもPSI持ちのキョンシーを任されているのだから只の下っ端ではあるまい。


 男の足と手は既に潰してある。後一時間もすればシカバネ町から第二課と第三課が送られてくる手はずだ。


「やれやれ、気が滅入るわ」


 拷問尋問は趣味ではない。だが、手っ取り早く情報が欲しいのも事実だった。


「シカバネ町から拐った人間達、何処に送られているのか答えろ」


「はっ、教えるかよ」


 男の顔には脂汗と侮りの表情が浮かんでいる。


――こういう時、もう少し恐い顔が良かったって思うわね。


「霊幻、左目」


「了解」


 バチィ! 瞬間、霊幻の人差し指から男の左目に向かって稲妻が落ちた。


「あああああああ!」


 男は体をくの字に曲げ、潰れた両手で顔面を抑え込もうとし――


「誰が倒れて良いって言った?」


 グチャ! その顔面を京香は左足で蹴り上げた。


「ぶっ!」


 男の顔は跳ね上がり、砕けた前歯がカランと落ちた。


 京香は床に仰向けに転がる男の髪を掴む。ブチブチ。髪が引き千切られる音がした。


「眼球が爆ぜた気分はどう?」


「――! ――!」


 もがもがと男は言葉に鳴らない呻き声を出した。


 実際は、「ひゅが」とか「きゃらす」とかそんな発音だったけれど京香には興味が無い。


「言う気になった?」


「――ろす!」


 どうやら反抗の意思はまだあるようだ。


「霊幻、こいつを後ろから倒れないようにして」


 霊幻は速やかに命令に従い、男の後ろに立ち、肩を持って支える。


 それを見届け、京香はやれやれと呟いた。


「シャルロット、カワソギを出して」


「ショウチ」


 ポン! シャルロットから一本のコの字型に湾曲したナイフが飛び出てきた。


 京香はこのナイフをカワソギと呼んでいる。ピーラーの様に曲がった刃には刃こぼれがあり、押し付けてやっと野菜の皮を切れるかどうかの歪なナイフだ。


 飛び出たカワソギを右手で持ち、京香はそれを男の左の二の腕に押し当てた。


 男の右目が恐怖に歪む。何をされるのか分かったのだろう。


「ま、」


 何の感慨も無く、そのまま京香は右手を勢い良く下ろした。


「そーれ」


 ベロン、と、男の左腕が薄さ五ミリ程度削がれた。削がれた皮はカワソギの刃に沿ってくるくると丸まり、地面に落ちる時には潰れた赤蚯蚓に成る。


「!??!??!?!」


 男のくぐもった声が響いた。


「次は右腕、その次は腿、その次は鼻、その次は……ま、決めてないわ。のっぺらぼうに成る前に言った方が良いわよ?」


 宣言通り、京香はカワソギを男の右腕に当てる。


 ベロン! ベロン! ベロン!


「――! ――! ――――――――――――――!」







「……それじゃ、受け取りました」


「はい、よろしく」


 駆け付けた第二課へ数体の死体と一体の半死体を渡し、京香はふーっと息を吐いた。


 第二課のフレームレス眼鏡を掛けた新人の青年が半死体を見て、吐きそうな顔をしていた。


――知らない顔ね。新人かしら?


 死体を見て顔を歪めている。どうやら、この新人は対策局に必要な人材であっても対策局に向いた人間では無いようだ。。


 チラッと京香は第二課の主任、アリシアの顔を思い浮かべた。


 あの褐色美女はわざと京香の仕事現場をこの新人に見せたのだろう。


――まあ、別にアタシのすることは変わらないんだけどね。


 忙しなく汚れた倉庫を処理していく第三課の連中を背に、京香はサイドカー付きのピンク色のバイク、イダテン三号へと跨がった。


 そしてハンドルを握る前に右手を開閉する。その手には赤蚯蚓の感触が残っていた。


「意外と粘ったわね」


「もうシャワーは浴びられんなアレは」


「生きてるだけ物種でしょ」


 霊幻がサイドカーに乗ったのを見届けて京香はブオンとアクセルを噴かした。


「京香、何処に行く?」


「何処に素体が運ばれてるか分かったからそこに行く。第四課と第五課の応援も呼んでね」


 キョンシー使いの男は粘ったが口を割った。


 シカバネ町から浚われた被害者達はここから南南東五十キロの研究施設に囚われている。


 まあ、既に生きていないだろうが。


「撲滅か?」


「ええ、撲滅よ」



 しかし、結局京香達がその研究施設を撲滅することは無かった。


「はあ?」


 現場に一番乗りした京香の眼に映ったのは黒煙を撒き散らし、ゴウゴウと燃え盛る数棟の残骸の姿だけだったからだ。

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