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③ PSIインストール







『やあやあ、マイケル、キョウスケ、ホムラ、そしてココミ! 今朝はごめんね! 大雨を降らせちゃって! 本当は晴れのばずなのに!』


 二体のアネモイが研究所の奥の部屋に連れて来られた。


 一体は昨日恭介達が会った現行のアネモイだ。小麦色のレインコートを着て、ニコニコと色豊かな笑顔を向けている。


 そして、もう一体はゆったりとした白衣を着た次世代のアネモイだ。その眼に意思は無く、口は「あー」と開かれ、中央の左側のベッドに既に寝かされていた。


 握手を求めるアネモイ現行機に恭介は右手を差し出した。その後ろで、ホムラがココミを抱き締めている。〝沈黙〟を恭介から目を見て命令され、その唇は真一文字に閉じられたままだ。


『アネモイ、お前はこっちのベッドだ。寝てくれ』


『オッケー!』


 主任の言葉にアネモイはタン! とベッドに跳び乗り、横に成った。


 研究員達が速やかに二体のアネモイに近づき、その体にコードを取り付けていく。


 アネモイ達はレインコートと白衣の下には何も着ていない様で、剥がされたそこからは土気色の滑らかな肌が見えている。


 思わず、恭介は目を反らした。アネモイの体の性別が男か女かは分からなかったが、何となくその肌を見るのは気恥ずかしかったのだ。


『俺にも弄らせてくれ!』


 隣で嬉々として走り出したマイケルの単純さは最早天晴だ。


 コードを繋ぐ作業は十分程度で済み、晴れやかな顔をしたマイケルが恭介達を、正確にはココミを手招きした。


「ほら、二体とも来て」


 恭介の命令に、ホムラは苛立たしそうに、ココミはいつも通り無感動に近づく。


『ココミには、何をやらせれば、良いですか?』


『単純だ。現行機と次世代機をPSIで繋いでくれ。エアロキネシスの部分は特に重点的に。後は我々がする』


『分かりました』


 恭介はココミとホムラを見る。言語データがインストールされた彼女達は今の言葉の意味が分かっているだろう。


「木下恭介がココミへ許可する。PSI制限を開放し、この二体のアネモイをお前のPSIで繋げ」


「……」


 コクリとココミが頷き、その瞬間、その蘇生符が白に輝いた。


 続いて、ココミの頭から二本の糸が伸び、ベッドに寝かされた二体のアネモイへと伸びる。


 この糸はココミのテレパシーの糸だ。マイケルが作った専用のコンタクトレンズを付けた第六課の人間とキョンシー以外には観測できない不可視の糸。


『アハハハハハハ! さあ、次のぼくのよろしく頼むよ!』


 笑い声の直後、テレパシーの糸は二体のアネモイの頭に届き、ビクッ! とその体が震えた。



 

 五分間。アネモイ達に眼に見えた異常や変化は無かった。


 いや、実際にはモニターを見ていたマイケルや研究所の主任を含めた研究員達が興奮した声を上げていたから、何かしら起きていたのだろうが、科学者ではない恭介では異常を認識できない。


 ココミのテレパシーの糸を受けたアネモイ現行機は一瞬ビクッと震えた後、体の動きを止めて沈黙した。その後は特に何の変化もなく、ただ天井を黙って見つめるだけだった。


『いやぁ、脳を弄られるのは未知の感覚だね! まるで頭にスキャナーをかけられてる気分だったよ!』


 最初の作業を終えた直後、アネモイは飛び起きた。この部屋に入った時の様なニコニコとした笑顔で部屋を照らす。


『おおー! ワーオ、ファンタスティック! インストールが進んでるぜ!』


 モニターを見ていたマイケルが手を叩いて飛び上がった。


 この言葉に導かれた様に、寝かされていた次世代のアネモイがゆっくりと起き上がった。


 その体は未だダランとしていて、その視線に明確な意思は無い。だが、今、確かにこのキョンシーは何の命令も無しに動いたのだ。


 これは自律型のキョンシーに見られる挙動である。


『アネモイ2よ。PSIを発動してみたまえ』


 主任の言葉が聞こえているのかいないのか。


 ヒュウ。部屋の中にそよ風が通った。髪を揺らす程度の僅かな風。しかし、紛れもないエアロキネシスだ。


 ワッ! と部屋の中で研究員達が喝采を上げた。完璧であるかは不明だが、彼らが打ち立てたPSIインストール理論の正しさが証明されたからだろう。


――おおー。


 恭介はそんな喧騒を何となく眺めていた。


 その時である。


「――!」


 ドン! 恭介の左肩へ衝撃が走った。強烈な打撃だ。


「イッタ!」


 すぐさまそこに目を向けると、ホムラが恭介を睨み付けており、その腕に抱かれたココミはややぐったりとしている。テレパシー連続使用の影響だろう


「――! ――! ―――!」


 ホムラは口を開閉し、恭介へ何かを伝えようとしている。


「ホムラ、喋って良いよ」


「早く、わたしの愛しい妹をベッドへ連れて行かせなさい!」


 苛烈な言葉は、もしも断ったらこの場でお前を殺す! とでも言うかの様だ。


「ごめん。一瞬呆けてた。分かった。連れて行こう」


 恭介は近くに居た研究員へ気象塔に戻ることを伝える。研究所のベッドを借りることも考えたが、あまり開放的な場所にココミを置いておきたくなかった。


 今すぐにでもホムラは駆け出したいのだろうが、恭介達だけで外に出るのは自殺行為だ。護衛が来るまで待たなければなければならない。




 十分後、恭介達は今朝目覚めた気象塔のベッドルームへ戻った。


 ホムラは速やかにココミを抱き締めながらベッドで横に成り、「大丈夫、大丈夫よ、ココミ。おねえちゃんはここに居るからね」と耳元で囁き始める。


――ミスったな。


 恭介は反省した。ココミがこうなることは予期されていた。速やかに戻る準備をしなかったのは怠慢だった。


 ガチャ。部屋に備え付けられた机脇の椅子に座り、恭介はそこにあった電話を取って内線に繋ぐ。


 ホムラとココミはこのまま三時間、次のインストール作業までこうしているだろう。ならば、恭介もこの部屋に居なければならず、昼食をルームサービスしてもらう必要がある。

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