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③ PSI戦







「……ここか?」


「そうね」


 シカバネ町から東に四十キロ。港に接したとある貸し倉庫の前に霊幻達は立っていた。


 時刻は午後七時。錆が目立つシャッターで閉じられた倉庫は不自然な程に沈黙している。


「吾輩達が来たと気付かれているな」


「そうなるようにわざと目立って来たからね」


 コキっと京香が右手を首の後ろに当て首を鳴らした。


「応援は呼んでないわ。アンタの場合、居ても邪魔になるだけでしょ?」


「ご明察だ」


 バチバチと霊幻の体が帯電を始める。今すぐにでも飛び出してしまいたかったが、少しだけ我慢する。


 霊幻達は報せを待っていた。そして、それは程無くして来た。


 ピーピー! 京香の通信機のアラームが鳴る。通信の相手はヤマダだ。


 ヤマダはセバスと共にシカバネ町のハカモリ第二課に居る。


 第二課の役割は諜報。電子システムのスペシャリストがそこには揃っている。


「……ヤマダ、内部に生存者は?」


『居ませン』


 バッチイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィン!


 瞬間、霊幻はコンクリートを溶かしながら倉庫へと突撃し、シャッターを蹴破った。




 バチバチバチバチバチバチバチバチバチ! シャッター近くに立っていた男の体が四散し、飛び散った臓液が紫電を浴びて蒸発した


「撃て!」


 倉庫の奥、見るからにアウトローの男達が銃を取り出し、躊躇わずに霊幻へと発砲した。


 バチバチバチバチ! けれど、鉛弾はいずれも霊幻の紫電に絡まれ消し炭に成る。


「くそが!」


 悪態を付く男達、人数は八。霊幻は大きく宣言する。


「撲滅の時間だ!」


 三人がクーラーボックスを抱え、四人が銃を持ち、残りの一人が大柄なキョンシーの後ろに控えていた。あのクーラーボックスの中身は被害者達の中身に違いない。


 ああ、撲滅すべき対象だった。


「ハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 警戒するべきは前方十メートルに居るキョンシーだろう。横にも縦にも肥大している。人間のサイズを逸脱した改造キョンシー。腕の改造が特に顕著だった。胴体と同じくらい太い腕が膝まで伸びている。掘削用のキョンシーを魔改造したのだろうか。


 霊幻は思考する。この腕長のキョンシーはどの程度の改造を受けているか、そして何より、PSI持ちなのかどうかをだ。


 PSIが発現していない只のキョンシーならば何のことは無い。肉壁に過ぎず、蘇生符の破壊は容易い。だが、PSIがあるのなら、迂闊に飛び込んではカウンターを喰らう可能性があった。


 前者ならば先手必勝。かといって、後者だとして後手を取るのは愚の骨頂である。


 故に霊幻は紫電を纏って突撃した。自分の紫電の有効射程は四メートル。どちらにせよ近づく必要がある。


 ダン! バチィ! コンクリートが割れ、紫電が爆ぜた。


 瞬間的に距離を詰めてくる霊幻にキョンシーの後ろの男が叫んだ。


「壊せデカブツ!」


 直後、腕長のキョンシーが両腕を振るった。


「!」


 視覚がPSI力場を感知する。


 霊幻は無理矢理左方向に跳んだ。左アキレスの人工筋繊維が悲鳴を上げると同時に、直前まで霊幻が居た位置に、ヒュン! という風切り音が通過した。


 ゴロゴロと霊幻は転がりながら立ち上がる。見るとトレードマークたる紫マントの裾がスパッと切り裂かれていた。


 脳内のデータベースから霊幻は総合的に判断する。


「エアロキネシスを利用したカマイタチか」


 有効射程は十メートル前後。霊幻のエレクトロキネシスと相性自体は悪くないが、距離のアドバンテージは相手にあった。


 カマイタチを霊幻が避けたことに気を良くしたのか、男達はにわかに活気付いた。


「よ、良し! 良いぞ! 一気に撃て! ぶっ壊わすんだよデカブツ!」


 男の命令に腕長キョンシーは両腕を振るい、先と同じカマイタチを霊幻へと放った。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン! 不可視の刃が散弾銃の様に飛んでくる。


「ハッハッハッハァ!」


 バチバチバチバチバチ! 霊幻は前方へ広く紫電をヴェールの様に放った。


 紫電のヴェールが無数のフリスビー型にボコボコと歪む。カマイタチは言ってしまえば真空の塊である。真空の通電性は空気中と比較にならない。


 不可視の刃は可視化された。霊幻は難なく刃を避け続けた。


「くそが! お前ら何ボサッとしてやがる! 撃て撃て!」


 バンバンバン! キョンシー使いの男の怒号に、呆然とキョンシー同士の戦いを見ていた男達が発砲を再開した。


 キョンシー使いの焦りは当然だった。PSIは無尽蔵では無い。一日に使える量はキョンシー毎に必ず決まっている。既に腕長のキョンシーは眼と鼻から血が垂れてきていた。PSIは脳の寿命を消費する。壊れてしまえばそれまでだ。


「どうやら、カマイタチ以外は何も無いようだな。そのキョンシーは酷く限定的なエアロキネシストらしい」


 出力もコストパフォーマンスも二流のキョンシーであった。無論、PSI持ちなのだから高値で売れることは間違いないだろうが。


 戦力の分析は済んだ。負ける可能性は限り無く低い。


 カマイタチを避けながら霊幻は砕けた瓦礫を三つ拾い、それぞれへ紫電を放つ。


 紫電を浴びた箇所は一定時間帯電する。これを霊幻は〝スポット〟と呼んでいた。


 霊幻の紫電の射程は四メートルだが、遠くの敵へ攻撃できない訳では無い。


「そおら!」


 ポン、ポン、ポン! スポットと成った瓦礫を一つずつ順番に霊幻は放った!


 発光した瓦礫は凡そ三メートルずつ距離を離して投げられ、最初に投げた一つが腕長のキョンシーへと届く。


「終わりだ」


 そして、霊幻は最後に投げた、自身に最も近い瓦礫目掛けて強烈な紫電を放った。


 バッチィィィン! 刹那、腕長のキョンシーと霊幻の間に紫電のレールが築かれる!


 それはまるで光ファイバーの中継点の様だ。スポットと成った三つの瓦礫か霊幻と敵のキョンシーの間に紫電の経路を繋いだのだ。


 当たったら詰みとなるPSI。霊幻の紫電はその類いの物だった。


 腕長のキョンシーのた蘇生符が許容量を越えた電流によって一瞬でショートする。


 ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ! 脳が焼けた音がし、力を失った腕長キョンシーは受け身も何も取らず地面へと倒れ込んだ。


「おい! おい、動けよ!」


 敵のキョンシー使いが絶望した。最早、敵に勝ち目は無い。


「撲滅だ」


 霊幻は一歩一歩近付く。思考は彼らへ紫電を放ち、撲滅することだけに注がれていた。


「ウワアアアア!」


 バンバンバンバン! 狂ったように銃弾が放たれるが一発も霊幻の肌には届かない。


 四メートルの距離まで近付き、さてやるか、と霊幻が右手を伸ばした。


「待って、霊幻」


 その時、後方、霊幻が突き破ったシャッターから京香の声が響いた。


「何だ?」


「一人拷問用に生かしといて。喋れる様にも調整しなさい」


「了解」


 バチバチバチバチ! 霊幻はどの人間を京香に残すか、紫電を放ちながら吟味した。

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