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S1-4 撲滅の休息(映画編)


***


 霊幻にとって、その日は一ヶ月に一度のメンテナンスの日だった。

 メンテナンスの時間は本日午後一時半頃で、場所はマイケルの研究室。

 マイケルからはメンテナンス前八時間はPSIを使わないようよう言われていた。

 そのため、本日の午前中はまともなパトロールが出来ない。


 故に、霊幻はユウパンマンの映画を見に来ていた。朝一に行われる応援上映でペンライトも持参している。

 ユウパンマンとは理想のヒーロー像の一つだ。愛と勇気だけを仲間とし、皆を笑顔に変えていく。素晴らしい。あの様なヒーローに成れたなら、この世は祈りで満ちるだろう。


「ハッハッハ~」


 小さく笑い声を立てながら、霊幻はペンライトを両手にシアターの最後列に座った。

 部屋は薄暗く、朝一と言う事もあって人数もまばらだ。最後列の霊幻。中央に座る数組の親子。そして、最前列に座る男と二体のキョンシー。


──おお、恭介達ではないか。


 そこに居たのは一ヶ月前から第六課で働いている恭介とホムラとココミだった。

 どうやら、彼らもユウパンマンが好きらしい。


『それじゃあ、みんな! まわりのお友達と仲良く応援してね!』


 ユウパンマンが霊幻達を見る。


「「「「「はーい!」」」」」



 映画は素晴らしかった。何処までも希望と祈りに満ち溢れた物語で、ユウパンマンの愛と勇気が世界に笑顔を生んだ垂涎のストーリーだった。


──良い物を見た。


 涙を流す機能が霊幻には無い。だが、もしもあったのなら、きっと霊幻は号泣していただろう。

 そう、シアターの最前列に座る恭介の様に。

 ホムラが「あー、楽しかったわねココミ!」と抱きつきながら立ち上がっている横で恭介は目元から滂沱の涙を流していた。


「恭介! 素晴らしい映画だったな!」

「はい! 感動しました! 勇気やばいですね!」


 ガシィ! 霊幻は恭介と硬い握手を交わした。ユウパンマンに心が震える者は即ち同志である。


「さあ、語り明かそうではないか!」

「はい!」


 肩を組み、シアターから出て行こうとする霊幻と恭介の頭をホムラが叩いた。


「むっ。何をするのだ、ホムラ? ああ、お前も吾輩達とユウパンマンを語り合いたいのか? 良かろう! さ、喫茶店に行こうではないか!」

「うるっさいわね。わたし達はこれからスイシャンに行くの。あなたは邪魔者だからさっさとそいつを放しなさい」


 スイシャン。スイーツシャングリラ。パスタやピザやスイーツの食べ放題を専門とする若い女性に人気の店だ。


「ほう! それは良いことだ! 吾輩も一緒に行って良いか? パトロールもできずに時間を持て余しているのだ」


 直後、ホムラの蘇生符が淡く赤く発光し、その光はすぐに乱れる。

 主の許可なくホムラとココミはPSIを使えない。首輪がホムラの脳波を乱し、PSI、パイロキネシス発動を阻害しているのだ。

 炎は生まれなかったが、蘇生符の奥の隻眼は「知ったことか」とこちらを睨んでいる。


「ふむ、やる気か?」


 その時、ジリッとココミが一歩踏み出し、霊幻へとそのホウッと眼を向けた。

 ココミの蘇生符も淡く白く輝いている。


──勝率は九十八%。


 既にホムラとココミは霊幻の間合いの中に居る。PSI阻害用首輪を付けていないとしても、霊幻相手に勝ち目は無い。

 三体のキョンシーの間で緊張が走る。どれ一体として矛を収めるという殊勝な思考はしておらず、戦闘は必至だった。


──さて、()るか。


 パン! 恭介が強く手を叩いた音がシアター内に鳴り響いた。


「霊幻、悪いけど、一緒にスイシャンに行けない。先に約束したのはホムラとココミなんだ。次の機会に頼むよ」

「ほう、そうか。ならば、残念だが仕方無い。ユウパンマンを語らうのは次の機会としよう」

「うん、それでよろしく」


 霊幻は戦闘態勢を解除する。同志達と語らえないのは残念だが、人間の恭介が言うのであれば反抗する気は無い。所詮、自分は死者であり、生者のための存在なのだ。


「ごめん、約束忘れてた。スイシャンには僕達だけで行こう」


 律儀な男。霊幻が恭介を評した言葉がコレだった。約束や義理を彼は自身の優先順位の上位に置いている。

 この様な在り方は第六課に今まで無かった物だ。今まで第六課に居た生者達は、それぞれが持つ執着があまりに強く、他者との関わりを自身の在り方の上位に置いていなかった。

 そんな恭介をホムラとココミはジッと見つめ、蘇生符の輝きがスーッと消えていく。


「ほら、さっさと行くわよ」

「……」


 スタスタスタ。スタスタ、スタ。シアターから出て行くホムラとココミへ恭介が苦笑する。


「それじゃあ霊幻、また明日」

「うむ、また明日会おう!」


 その背を見送った後、霊幻も続いてシアターを出て行き、そのまま映画館を出た。

 時刻は午前九時半。メンテナンスまでまだまだ時間がある。

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