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札憑き・サイコ・エンバーミング~撲滅メメントモリ~  作者: 満月小僧
素体狩り――虎穴に入らずんば骨と化す
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1-06 お代はキスで

「……ちっ。まただ」

「キョウカ、舌打ちは行儀悪いデスヨ?」


 第六課の居室、京香はパソコンに届いたメールに強く舌打ちした。

 文面はシンプルだ。本日未明、素体狩りの被害が再びあったと言う。


「ヤマダ、この被害者は生きていると思う?」

「ほぼ確実にあり得ませン。もうとっくにキョンシーに成っているカ、バラされているでショウ。素体のランクハ?」

「D-」

「ならバラされていマスネ。ゴミ捨て場か路地裏で遠からず見つかると思いマス」

「そうよね」


 淡々とした言葉に京香はやる瀬なく天井を仰いだ。今頃、この被害者の体は丁寧にバラされ、残るのは皮と脂肪くらいに違いない。


「頻度が上がっていますな」

「セバスさんもそう思う?」


 ここはシカバネ町であり、住民達という最高級の宝石を掠め取ろうと至る所に魔の手が伸びている。だが、それにしてもこの素体狩りのペースは異常だった。

 先月までは一週間に一人か二人のペースで素体狩りと思われる行方不明事件が発生していた。それが今月に入ってからは一週間に七人か八人のペースである。


「ところデ、京香、正義バカハ?」

「朝、顔を見せたらそのままパトロールに行ったわ。目を見る暇も無かった」


 所有者である京香の虹彩は霊幻に登録されている。蘇生符の奥に隠された目さえ見れればあのキョンシーの暴走を止められるのだが、これが中々に難しい。

 いざとなれば最終手段があるのだが、それは京香にとって避けたい行為だった。


「便利屋の所に行ってくるわ。アタシの頭じゃ考えても埒が明かないし」


 ヤマダは京香が何処へ行こうとしているのか悟ったようだ。


「キョウカ、薔薇の花束でも持って行けばどうデスカ? 近くに良い花屋が有るんデスヨ」

「嫌よ。アタシ未だ寿退社したくないもの」


 ヤマダの軽口をいなし、京香はアタッシュケース片手に第六課の部屋を出て行った。



「きょうかきょうかきょうかきょうかー! 久しぶりだな久しぶりなのだな! 私は寂しかったぞ! お前の愛しのフィアンセ、葉隠 スズメは寂しかったぞー!」

「は・な・れ・ろ!」


 シカバネ町西部。とある日本邸宅の大広間にて、京香は真っ黒な着物の女、葉隠 スズメにギューッと腰を抱き締められていた。

 スズメは相も変わらず細く柔い黒髪を腰まで無造作に伸ばしている。小さな大和撫子と言った風貌で、黙ってさえいれば日本人形の様な印象を与える女だった。


 葉隠邸、それがこの豪奢な日本邸宅の呼び名であり、スズメはただ一人ここで暮らしている女で、尚且つ京香の協力者だった。

 スズメの外見は一見して小学生の少女の様であったが、京香と大体同年代である。


 ギュ、ギュ、ギュ~~~!


「やめい! 抱きつきに強弱をつけるな!」

「何故剥がす!? 何故剥がすのだきょうか! 愛しのフィアンセだろう!?」

「ち・が・う!」

「良いから一緒に暮らそう! きょうかの生涯賃金くらいならダブルスコアであげるから! な!」


 あ~ん! 騒ぐスズメの額を押さえながら京香は眉根を顰め、さっさと本題に入る事にした。


「スズメ、あんたに依頼を持ってきたわ」

「興味ない。今ここにきょうかが居る以上に大切な事があるだろうか、いや、無い」

「反語使うな、やかましいのよ」


――どうしたもんかしらね?


 京香はスズメの頭を押し返しながら思案する。ここまでの反応は珍しかった。普段のスズメならば十分程度突撃してくれば、満足するかどうかはともかくとして仕事の話が出来るというのに、今日は妙にしつこい。


――意外とヤマダの軽口が馬鹿に成らなかったかも。


「スズメ、もしも今日、アタシが薔薇の花束を土産に持って来てたらどうした?」

「あるのか!?」

「無い。もしもの話」

「そんなの海辺が見える教会と新居を購入するに決まってる! 喜べきょうか! 明日はハネムーンだ!」

「オーケー、アタシの判断は何も間違っていなかったわ」


 このまま帰ってしまおうか。だが、それでは無駄骨である。何より、このスズメは京香の依頼ならばほぼ百パーセントで成功させるのだ。むざむざ使わないのは惜しい。


「スズメ、そんなにアタシの依頼を聞きたくない? 金なら第六課の予算から出すわよ?」

「きょうかの頼みならば聞いてやりたい! だが、私が聞いたらきょうかはこの場から去ってしまうのだろう? 目の前にきょうかが居る、それ以外何も要らない! 久々に会えたのだ! 私が満足するまで一緒に居よう!」

「あんた満足しないじゃない」


――……しょうがないか。


 やれやれと京香は嘆息し、スズメへ一つの提案をした。


「スズメ、もしも依頼を聞いてくれたら、好きな場所に一回キスしてあげる」


 ピタッ。スズメの動きが止まった。


「……本当か?」

「本当。人の肌に触れて大丈夫な場所なら何処でもキスしてあげる」

「……依頼の内容を聞こうか」

「ここ最近頻発している素体狩りの犯人を捜したいの。直近一ヶ月でシカバネ町に来た密猟者の居場所を見つけて」

「了解。ちょっと待ってて」


 パンパン! スズメが二回拍手を打った。

 すると、給仕服を来た八体の子供のキョンシー達がそれぞれノートパソコンを抱えて大広間へと入ってくる。最後に入ってきた一体はノートパソコンと共にスズメの仕事道具である〝オクトパス〟を持っていた。


 オクトパスとは八本の端子が繋がった半球型のヘルメットである。スズメを中心に円を描くように背を向けて子供のキョンシー達は正座して座り、それぞれノートパソコンを開いた。


「きょうかー、せもたれー」

「はいはい」


 言われるがまま京香はスズメを抱き締めるように座り、スズメが体重を預けてくる。


「~~♪」


 機嫌良く鼻唄を奏でながら、スズメはオクトパスを被った。

 途端、オクトパスから伸びていた八本の端子がうねうねと触手の様に蠢き出し、キョンシー達の頭へと突き刺さる。髪で見えなくなっているが、このキョンシー達はスズメ用の特別製であり、旋毛のところに脳と直結した電極の受け口があるのだ。


 端子が刺さった瞬間、キョンシー達はピクッと震え、一斉にコンマ一秒のズレもなくノートパソコンへのタイピングを始める。

 オクトパスを使ったキョンシーの同時多角的操作。それを活用した超高速ハッキング。スズメにしかできない特殊技能だった。


「それじゃあ、監視カメラと通信履歴を漁るとしよう。きょうか、もう少し抱く力を強く」

「はいはい、仰せのままに」


 機嫌を損ねては困る。京香は素直に要求を飲んだ。


 カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。

 八つのタイピング音が鳴り響く。それを聞きながら京香は一体自分は何処にキスをせがまれるのだろうかと、ぼんやり考えた。

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