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① 2対2(+3)

 京香の前で霊幻が落雷する。何度も何度も見てきた後姿だ。


「――世界を灼けえええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 パイロキネシストの叫びに呼応する様に屋上一帯が火柱で包まれた。


 京香の一歩手前まで火柱は迫り、霊幻の体が一瞬で見えなくなる。


「霊幻!」


「分かっている!」


 最後まで言う前に霊幻は落雷を続ける。多少回復したからと言って霊幻が紫電を纏えるのは後一分弱。短期決戦以外の選択肢は無い。


 バキィ! 火柱の中で打撃音が成った。パイロキネシストが霊幻へと殴り掛かったのだ。


 その体は真っ赤な炎のドレスで包まれており、霊幻の紫電を阻害していた。


「へぇ」


 京香は感嘆した。あのドレスは捨て身の戦装束だ。


 霊幻の紫電は皮膚を這わせているだけだが、あの炎は違う。実際に体を燃やしている。


 炎はあのキョンシーの肉を焼き、体を溶かしていく。


「ハハハハハハハハハハハハハハ!」


 霊幻の笑い声が響く。楽しそうで嬉しそうな声だ。


 クネクネクネクネ! クネクネクネクネ! クネクネクネクネ!


 クネクネクネクネ! クネクネクネクネ! クネクネクネクネ!


 その時、炎の中から複数のテレパシーの糸が京香の頭に向かって飛んできた。


「まあ、あんたはアタシを狙うわよね」


 糸の数は少なく、京香でも避けられる数と速度だった。


 京香は左に糸を避け、トレーシーを構える。直後、上方より、空を飛んだエアロキネシストのキョンシーが現れ、京香に向かって力球と炎を放った。


 キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


――これが、複数のPSIを使うってことか!


 実際に眼にしても信じられない光景だった。


「シャルロット、盾!」


 左腕が一瞬で半透明な薔薇の盾に包まれ、「広がれ!」と京香は命令する。


 薔薇を模した透明な盾は花開き、力球と炎を真正面から受け止めた。


 ビキビキと京香の左腕が軋んだ。


「いったいわね!」


 パシュ、パシュ! トレーシーの電極が空中十五メートルのエアロキネシストを狙う。


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 だが、電極は旋風に阻まれあらぬ方向へと飛んでいく。


 コチョウほどでは無いとしても、あの距離のエアロキネシスト相手に電極は届かない。


「ハハハハハハハハハハハハ!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ! バキィ! バキィ! バキィ! バキィ!


 炎柱と紫電、そして打撃音。霊幻とパイロキネシストが殴り合っている。


 左腕が無く体中の間接が壊れかかっているとは言え、良く霊幻相手に渡り合えている物だと、京香は感心した。


「霊幻! 助けは要る!?」


「要らんよ! 京香、お前に追加の敵だ! 何とかしておけ!」


 霊幻の言葉通り、テレパシストの隣に居たエレクトロキネシストが動き出す。


 バチバチバチバチ! ビュオオオオオオ! ボオオオオオオオ!


 電気に風に炎に、全てを周囲に放ちながらエレクトロキネシストが突撃してきた!


「てんこ盛りね!」


 ハハ! 京香は笑い、シャルロットを盾に全速力で突進する。


 クネクネクネクネ! クネクネクネクネ!


 糸の力場が容赦なく京香を狙う。右に左に上に下に避けながら、京香とエレクトロキネシストの距離が丁度屋上の中央で零となった。


「ラァ!」


 ドン! 体に力を込めて激突音が成る。


 ミシィ! 左腕が軋む。軽く罅が入ったかもしれない。


 京香はゴロゴロと地面に転がりながら、トレーシーの電極をテレパシストへ放った。


 パシュッ! ビュオオオオオオオオオ! しかし、その電極はテレパシストの傍らに控えていたエレクトロキネシストより放たれた突風で阻まれ届かない。


「ハハ! 全員複数持ちにできんのね!」


 引き金を引き直し、京香はトレーシーの電極を戻そうとする。


 しかし、その電極が先ほど激突したエレクトロキネシストに掴まれる。


「痺れろ!」


 即座に京香はトレーシーのスイッチを押し込み、電極へと電流を流す。


 ビリビリビリビリビリビリ! 白い電流が爆ぜ、エレクトロキネシストへと伝わる。


 けれど、エレクトロキネシストの動きは止まらなかった。霊幻と同じ様に電流を纏っていたからだろう。トレーシーの電流は表皮のみを舐め、蘇生符の破壊には至らない。


 ビン! エレクトロキネシストはそのまま電極を引張り、京香は抵抗せず手を離した。


 トレーシーは宙を舞い、屋上から飛び出し、落ちていく。


「それ高いのよ!?」


 相棒たる武器を失い、京香は悲鳴を上げるが、絶望する様子は無かった。キョンシー相手に生身で戦うのが京香の戦闘スタイルだ。この程度など諦める理由に成らない。


 タタタ! 京香は屋上を駆け回る。人間にしてはかなりの足運びだ。


 糸の力場。揺らぐ力球。ジグザグの炎。螺旋の風。円形の稲妻。


 それら全てを京香は紙一重で避け続ける。


 豊富な戦闘経験が可能にした神業。死地の中で戦い続けた京香にしかできない芸当。


 京香とテレパシストの戦いは一種の小康状態に成っていた。


 テレパシスト側でも決定力が無いようだ。確かに複数のキョンシーを同時に操って入るようだが、個々の動きはお粗末だ。改造キョンシーの身体能力を十全に使われたらすぐに京香は捕まってしまうというのに、単調な突進しか出来ていない。


 この中で唯一複雑な身体的動きが出来るパイロキネシストは霊幻に抑えられている。


 しかし、霊幻が紫電を纏えるのは後四十秒を切っていた。


――しょうがないわね。


 京香はスーツの内ポケットに手を入れた。

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