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⑩ ヨダカの熱 1




***



 ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ブオオオオオオオオオオオオオオオ! ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 車輪を持った大量の鉄塊がヨダカ達の戦場を飲み込んだ。


「ガリレオ!」


「回れ回れ回れ回れ回れ!」


「捩じれ捩じれ捩じれ捩じれ捩じれ!」


 人間が作り出し、地上に最も多くある移動物がガリレオの嵐と激突する。


 一つ一つで見るならば、密度で見るならば、力が強いのはガリレオのテレキネシスだ。千キログラム、二千キログラムを超える筈の自動車や銃器達が小石の様に砕かれ、瓦礫の嵐に飲まれていく。


 さすがテレキネシス。質点への作用と言う意味でこれを超えるPSIは存在しないだろう。ありとあらゆる物理的な物体へ干渉できるというのは基本にして絶対であるこのPSIの特徴だ。


「っ、多いねぇ!」


 カケルの声が歪む。声のとおり、戦場に流入してくる暴走車の数には限りが無かった。


 突撃し、破壊され、次が突撃し、また破壊される。一秒の間にそれが十数繰り返された。


 テレキネシスはあらゆる質点へ干渉できる。それはつまり、あらゆる質量がテレキネシスへ干渉できるという事だ。


 鉄の塊の突撃。純粋なる運動量の暴力。それがガリレオのテレキネシスと拮抗する!


「ツバメ、フクロウ、道を作りなさい」


「「了解」」


 既にヨダカ達は敵へと走り出している。この暴走車はスズメの援護だ。主が命を使って作った好機だ。


 これを活かせないで何とするか。


 左足一本でヨダカは疾駆する。先行するツバメとフクロウも体の各所が抉れ、稼働できるのが奇跡の状態だ。


 瓦礫の投石がヨダカ達を狙う。だが、それらは暴走車に阻まれ、威力が減衰する。ヨダカ達の体を削るが、致命的ではない。


「シアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 いつの間にかヨダカは叫んでいた。キョンシーならば不要だ。わざわざ音声器官を使う意味が無い。論理回路がそう告げる。けれど、スズメが作ったこの機会を活かさなければならないという従属物の誉がヨダカの執着に熱を付ける。


「アハハ!」


 視線の先、暴走車と瓦礫の嵐の向こう、カケルが笑っていた。既に彼女は自分のキョンシーへ命令を終えている。ガリレオが作り出した瓦礫の嵐のせいで逃げることもできない。


 ヨダカ達の突貫が勝つか負けるか、それがカケルの命運を決めるのだ。


 死ぬことを恐れていないらしい。それは生者の特権だ。


 雨粒がヨダカの体を打つ。シュウウウウ! と炭化した左腕が雨を水蒸気へと変えていく。


 ヨダカは稼働以来最も激しい熱を持っていた。


 トッ! トッ! トンッ! 暴走する鉄塊の中を、ヨダカ達は飛ぶ様に跳ねる。ツバメが左腕をフクロウが右腕を失った。


 敵との距離は後数歩。ヨダカは左足に力を込め、更に加速する。


「カケルが勅令する! やってガリレオ! 最後のPSIだよ!」


 命令されないでもガリレオは既に全力で稼働している。マイクロ蘇生符を打ったのだ。長くは保つまい。


 だが、キョンシーが主から勅令を受けた。それだけでキョンシーには充分だ。


「ま・が・れ!」


「ねじ・れ・ろ!」


 キイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイン!


 空間が軋む音がして、回転と螺旋の力場が暴走する。


 螺旋の力場に飲まれ、暴走車はねじ切られ、回転の力場から射出された瓦礫に、暴走車が砕け散る。


 更に上がった出力。だが、勅令を受けたのはヨダカ達も同じだ。


 ヨダカ達の疾駆は緩まない。これが最後の好機なのだ。

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