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② 賭けの提案







 タルタロス0。全体の中央に位置するエリアの中央塔の扉を無遠慮にシロガネは開けた。


「……シロガネか。一体何の用だね?」


 部屋にはいくつものディスプレイが並べられ、それの前の机で一彦、ゲンナイ、ラニ、アリアドネとペルセポネが座っていた。


 今は定例会議の時間だった。


「おいおい、クロガネの代理か? まあ、お前ならクロガネも文句は言わねえと思うが、お前にそこまでの情報権限を与えていたか?」


 ゲンナイがグネグネと蛸の様な機械腕を揺らす。この人間の言う通り、シロガネにはこの定例会議に参加できるだけの情報権限が与えられていない。


 クロガネが壊れ初め、母が持っていたモーバ運営に関わる基本情報はシロガネにもバックアップとしてインストールされている。だが、これ以上の深度の情報についてアクセス権限は無いのだ。


「……提案したい作戦、いや、賭けがあります」


 賭け、とはキョンシーらしくない物言いだった。一彦とゲンナイ、それにラニ、と人間達が眉を上げてこちらを見る。彼らの眼には好奇心と呼ばれる興奮が見て取れて、シロガネはワンピースの裾を揺らして続きを話した。


「ボク達にもう一度ココミ奪還作戦を決行させてください」


「一体、どういう理由で? 今、プロジェクト・エンバルディアは重要な局面にあります。フォーシーの破壊に成功し、各国での破壊工作も順調に進んでいる。勿論、ココミは最終的に必ず必要なファクターですが、奪還作戦はもっと確実な時期に行うべきです」


「まあ、確かに、アネモイの修理が終わってからの方が確実だろうなぁ。何と言ってもうちの最高戦力だ。アレが使えると使えないとでは成功率が雲泥の差だぜ」


 ラニとゲンナイの反論は最もだ。クロガネから聞いた限りの話であれば、ココミを手に入れるのはもっと後の話のはずだ。


 モーバ最高戦力のアネモイは先のフォーシーとの戦いで身体パーツが破壊され、現在、タルタロス4で修理中である。


 ココミの護衛には京香を初めとしてシカバネ町の最高戦力が常に付いていた。


 しかも、そこには中国からのバツさえも居る。下手な手を打てばココミごと全てが灰になる危険性すらあった。


 しかし、言い換えるならば、シカバネ町の戦力以外、ココミには護衛が付いていないとも言えた。


「今、ボク達の居場所を世界中が探しています。だから、各国が自国の最高戦力を自国の護衛に回しています」


「アハハ、私達の作戦通りだねぇ」


「はい。コウセン町の皆も喜んでいます」


 アリアドネとペルセポネが頷く。モーバの目論見通り、世界での戦力が各国に分散している。


 この間にエンバルディア達成のための最終準備を進めるというのがモーバの作戦だった。


「今、ココミの護衛は最も手薄です。確かにネエサマが居て、中国からのバツも居ます。それは、まだ、世界がココミの、A級テレパシストの真の価値に気付いていないからです」


「同意しよう。確かに君の言う通りだ。シロガネ、続けたまえ」


 一彦がもじゃもじゃとした髭を触り、続きを促した。その眼はジッとシロガネに向けられて、好奇心以外のどんな感情を持っているのかは分からない。


「何もネエサマを倒そうというんじゃありません。ココミを奪還する。その一点に絞るのであれば、勝ち目はあります」


「投入戦力は? モーバの戦闘員は貴重ですよ」


「ええ、ラニ。あなたの言う通りです。ボク、そしてチルドレン達、後は最低三組のキョンシーとキョンシー使いが欲しいです」


「カカッ。行くと成ればあたしも付き合うよ」


 カーレンの笑い声の後、一彦を初めとしてその場の全員が黙った。


 人間の思考は遅い。キョンシーであればすぐに判断できることに何重も無駄なプロセスをして、最後に感情で決定する。


 その在り方がシロガネは嫌いだった。


「……今がチャンスです。仮にボク達の作戦が失敗したとしても、アネモイが直った後、改めてココミを奪還すれば良い。致命的なリスクにはならないはずです」


「だが、賭け、だ。成功率は決して高くない」


「一彦、賭けです。でも、得られるリターンは膨大なはずだ。それこそ、プロジェクト・エンバルディアが完遂できる程に」


 シロガネへ向けられる一彦の眼が細められた。


 周囲の人間もキョンシーからも大きな反論は無い。後は、一彦の決定に従う気の様だった。


「シロガネ、クロガネが壊れるからかね?」


「……カアサマには時間がありません。ボクはカアサマの夢を叶えなければいけないんです」


 髭の奥で、一彦が笑い、更にこう聞いた。


「それは君の執着かね?」


 問いの意味は理解できる。キョンシーとして持つ執着概念が何なのかという意味だ。けれど、その意図まではシロガネの論理回路では分からなかった。


 意図が分からぬまま、シロガネは答えた。


「はい。ボクの全てはカアサマの為にあります」


 シロガネの言葉を反芻する様に、しばらくの間、一彦は眼を瞑って頷いた。


「やはり、キョンシーは素晴らしいな」


 そして、良し、と一彦は手を叩き、この場のシロガネへこう告げた。


「許可しよう。必要な戦力について後二組こちらに候補を言い給え。手が空いている者を紹介しよう」


「感謝いたします。必ず成し遂げてみせますよ」

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