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スズメの世界

第九部の開始です。

物語も最終編に突入します。

是非ともお付き合いください。

 シトシトシトシト。


 漏れ聞こえる雨音でスズメは眼を覚ました。


「スズメ様、スズメ様、お目覚めですか?」


「ご朝食の準備をいたします」


「本日の体調はいかがですか?」


 襖の向こうから起床を察知したキョンシー達の声がする。


「うん、大丈夫。入ってきて良いよ」


 スズメの言葉に襖が開けられ、子供のキョンシー達がトコトコ部屋に入り、スズメの体を起こす。


「スズメ様、昨日の寝心地はいかがでしたか? ご要望の通り、少しだけ涼しく気温と湿度を設定いたしましたが」


「ありがとう。少しだけ寝易かった。四時間くらいは眠れたかな」


「なるほど。スズメ様、お手を挙げられますか? お召し物を変えさせていただきます」


「……うー、ん。ごめん、少し無理かな。手伝ってもらえる?」


「承知いたしました。それでは失礼いたします」


 入れ代わり立ち代わり、キョンシー達がスズメの体を持ち上げ、寝間着を脱がしていく。


 裸に成った体はスズメにとって自分でもビックリする程に貧相で笑いが零れてしまった。


 また少し、体が動きにくくなってしまった。起き上がるのも服を着替えるのも自分一人ではままならない時がある。


「本日のお召し物はどちらを?」


「いつもの黒い奴が良いな」


「ご承知いたしました」


 キョンシー達は慣れた様子でスズメへ服を着せていく。このキョンシー達が居なければスズメは生きていくのだって難しい。


「スズメ様、では失礼して、お顔を拭かせていただきます」


 蒸しタオルで顔が拭かれ、スズメの頭が少しだけ覚醒する。


「ウグイス、お医者さんとの検診はいつからだっけ?」


「午前十時です」


「そっか。じゃあ、準備しないとね。サルカは今どこに居るの?」


「サルカは朝食を作っています。後で呼んでおきましょう」


「うん。お願いね」


 医者が来る。対面するわけでは無い。キョンシー達をメッセンジャーに間接的な診察をするだけだ。


 重くてうまく上がらない手を開閉し、スズメはゆっくりと首を回す。


 そして、いつもの黒い着物が着終わったところで、朝食が運ばれてきた。


「スズメ様、お粥です。いかがでしょう? 本日は食べられますでしょうか?」


 座卓共に置かれる水ばかりの白粥。サルカのレンゲに救われたそれらを少しだけスズメは口に含んだ。


 塩粥なのだろう。僅かな塩分とドロリとした溶ける直前の米の舌触り。


 食べなければとスズメは喉に力を込めようとして、そしてできなかった。


「スズメ様、こちらに」


 すかさず差し出されたタオルへスズメは口の中の米を吐き出す。


「……ごめんね。今日も難しそう」


「いえいえ、問題ございません。ツバメに点滴の準備をさせます。もうしばらくお待ちください」


 ニコニコとサルカが座卓と粥を下げ、部屋から出て行く。


 今日も食べられなかった。体の衰弱が著しい。


「……はぁ」


 スズメは思わずため息が出た。この数か月。ずっとこの調子だ。まともに動けた日は数える程しかない。


「ポンコツだなぁ、わたし」


 壊されてしまった体がいよいよ壊れ切ろうとしている様だ。


「あ、けど、お化粧したい」


 体調はいつも通りに不調。それでも今日は楽しみがあった。


「今日はきょうかが来るから」


 京香、京香、京香。スズメの最愛。スズメの女神。彼女が今日葉隠邸に来るのだ。


 それはスズメにとって何物にも優先される。


 彼女にはきれいな姿を見せたい。彼女にはかわいい姿を見せたい。


 きっと強がりだってバレている。それでも偽りでも元気な姿を見せたいのだ。


「ええ、このシラサギにお任せを。スズメ様を最高に美しくしてみせます」


 スズメは笑う。今度は自嘲では無い。京香に会える。彼女と話せる。それだけでスズメの世界は色付くのだ。

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