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⑧ アリス







「クククク! 久しぶりの戦場は楽しいねぇ」


 灰を舞わせながらシンデレラがシカバネ町東区を駆ける。


 あれからいくつかの人間とキョンシーを壊し、次なるターゲットを探していた。


「! シンデレラか!」


「やあ! 人間様はハカモリの捜査官だね! 申し訳ないが、それ以上近づかないでくれ。PSI発動は止めてるけど、一応危険だからね」


 東区、今回のモーバ対策会議にて各国の代表者が泊まるホテル地区近く、シンデレラの前にハカモリの捜査官達が現れた。


――大型、中型、小型の三体のキョンシー。第一課の人間様だね。


 連れているキョンシーの特徴、シラフミから貰った捜査官達の顔情報からシンデレラは味方と判断し、彼らから十五メートル離れた位置で停止した。


「黒木主任から話は聞いている。お前は味方で良いんだな?」


「ああ、そうさ人間様。上手くこのキョンシーのことを利用してくれよ」


 クックック。喉の奥で笑い声を鳴らす。シンデレラの言葉に捜査官達は速やかな指示を出した。


「東区の北の方に行ってくれ。そっちはまだ我々の手が届いていない」


「了解だ人間様。速やかに敵を壊してこよう」


 タッ。シンデレラが進路を変える。捜査官達が指示を出していた位置。キョンシー実験用の素体がパーツ毎に保管されている区画だ。


――死体の方が運びやすいだろうからねぇ。


 テロが起きて既に十数分。少なくとも三割の素体は持って行かれただろう。


「多大な損失だ。損失は抑えないとね」


 脚力のリミットを外し、シンデレラは加速し、パーツ収容所を目指した。




「居たね!」


 シンデレラが到着した時、パーツ収容所の門は破壊され、いくつものキョンシーの部品が運び出されている所だった。


「さあさあ、素体狩りの人間様! シンデレラのお通りだよ!」


 PSIを発動し、その体と灰がピカピカと発光する。


「全員逃げろ!」


 敵の反応は早い。持っていたパーツをその場で放り出し、キョンシーへ迎撃を指示した後、誰も彼もが車などに乗り込み、その場から逃げ出そうとした。


――追うのは私のスペックじゃ無理。これ以上の簒奪を回避できたことを成果としようか。


 人間達を追うのをシンデレラは早々に諦める。自分は自動車並みの速度で連続しては動けない。


 シンデレラは目の前のキョンシー達の破壊に焦点を絞った。


「数は三十から四十。大量だね。でも、粗悪品ばかりみたいだね」


 クックック。戦闘用にチューニングはされているが、どれもこれも動きはお粗末でPSIも無い。どうやら数だけを揃えた様だ。


「ああ、でも、数が多いってのが一番厄介だね」


 シンデレラのPSIはキョンシーや生物に対しては絶対だ。けれど、そのPSIで敵を壊すのには数秒から十数秒のラグがある。


 ウジャウジャと敵に群がられれば、シンデレラと言えど破損の可能性があった。


 クククククク。笑い声を出し、シンデレラがその光り輝くドレスを揺らし、群がるキョンシー達へと突撃する。


「さあ、踊ってくれよ同類共」


 肉薄する敵の腕や足がシンデレラの体へ伸ばされ、いくつかがヒットする。


――内臓破裂、右第八九十肋骨粉砕、腰骨に罅。いずれも問題無し。


 キョンシーの膂力を浴び、シンデレラの体へ一気にダメージが溜まる。


 だが、いずれもその稼働を妨げるのには至らない。キョンシーの体なのだ。痛覚は無く、骨や内臓もほとんど見せかけ、脳と骨格と筋繊維さえ動けばいくらでも動ける。


 バタリ、バタリ、バタリバタリバタリ。踊る様に舞い続けるシンデレラの周囲で有象無象のキョンシー達が倒れていく。動かぬ屍を踏み超え、シンデレラの体が加速していく。


 既に人間の声はしない。判断が早い優秀な指揮官が居た様だ。シンデレラの姿を見た瞬間に全員が引き上げたのだろう。


 ドレスを着たシンデレラに近づいたら壊れる。戦う物であればインプットされているはずの情報。けれど、どのキョンシー達もシンデレラへの突撃を止めない。


――良い判断だ。


 シンデレラを止めたいのであれば単純な肉壁が有効だ。


「――!」


「おっと」


 一体のキョンシーの左手がシンデレラの右腕を掴んだ。そのまま力任せに引き回され、シンデレラの体が宙を浮く。


 バキボキバキボキ! 無茶苦茶な動きに細腕が破壊される音がした。


「あらら」


 ピカピカピカピカピカピカピカピカ! シンデレラはPSIの出力を上げる。


 シンデレラのPSIに指向性は無い。できるのは出力の強弱だけ。


「――、――!」


 シンデレラを掴み上げていたキョンシーの体がボタボタボタボタと血が溢れ出し、その場で倒れ伏した。


 その場でシンデレラはステップを踏み、敵キョンシーと数歩の距離を開ける。


 嫌な破壊のされ方をした。右腕はまともな使い物にならない。


「ま、関係ないけどね」


 筋繊維はまだ使える。ゴキゴキと無理やり右腕を動かし、敵へと伸ばした。


 シンデレラの戦い方に腕は必須では無い。ただただ光輝く自分と敵の距離を詰め続ければ良い。


「ああ、やっぱり数が多いね。嫌だ嫌だ」


 クックック。笑いながら再び、シンデレラはキョンシー達へと突撃する。敵の数は残り半分程度。処理にかかる時間を計算する。約一分もあれば壊し切れるだろう。


 その時、シンデレラの左方から敵以外の声が響いた


「シンデレラ! 加勢しますカ!?」


 初めて聞く声だったが、シンデレラが知っている声だった。


 敵の攻撃を避けながら視線を声の方向へ、そこに居たのは金髪のメイド服を着た若い女だった。傍らに老紳士のキョンシー、背後に紅い布で目隠しをしたキョンシーとそれに手を繋いだ人間を連れている。


 その顔をシンデレラは知っている。事前にハカモリの捜査官達の情報をインプットしていたこともあったが、十数年前にこの声の主と出会ったことがあった。


()()()! アリスじゃないか! 大きくなったねぇ!」


 そこに居たのはアリス・グリマリア。かつてシンデレラが仕えていた主、ヤーヘルム・グリマリアの曾孫の女だった。


 情報によれば今、アリスは()()()と名乗っているはずだ。


 シンデレラの胸に喜びが湧いて来る。絶縁される前、かつて一度だけ会った幼女がいつの間にか大人の女性に成っていた。


「ええ、お久しぶりデス! 助けは入りますカ!?」


 離れた位置、アリスが足を止め、こちらへと質問を投げる。久しぶりの再会だ。抱擁の一つでもしてやりたい。だが、今は戦場でアリスもまた戦士としてここに居た。


「それじゃ、半分頼むね! 私から十五メートル以上離れてね!」


 シンデレラが敵を引き付ける様に距離を取る。このキョンシー達はいずれも他律型。与えられた命令は敵の排除だろう。


「――!」「――!」「――!」


 ならば、と予想通り、半数のキョンシーがアリス達の元へと向かった


「セバス、飲みなさい」


 視界の端、アリスの首筋にセバスチャンの牙が突き立てられ、血で染まったハイドロキネシスを発動していた。

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