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⑤ 火事場泥棒







「めちゃくちゃ美味しかったわね」


「確かに。ホムラが言ってたあのスープ旨かったですね。値段見てびっくりしましたけど」


「ハオハオ! 気にいってくれてバツちゃんはとっても嬉しいわ! お金は気にしないでバツちゃん達が全部出したから!」


 バツと憂炎が言っていた店はシカバネ町の北区の有楽天から少し離れた場所にあった。新築されたばかりの中華屋であり、回転テーブルを囲んでの夕食は新鮮でもあった。


 時刻は午後九時。シカバネ町もそろそろあらゆる店が閉じる時間帯である。


 大盛の中華を食べ終え、恭介達は膨れた腹を擦り、帰路に付いていた。


 清金、恭介、シラユキとフレデリカ、ホムラとココミ、ヤマダにセバスチャン、そして憂炎とバツ。シカバネ町の有名人が大所帯で歩く姿は昼間ならばとても目立つだろう。


「前あそこにあったのって何でしたっけ?」


「味噌ラーメン屋じゃなかった?」


「いエ、違いマス。インドカレーの店でしタ」


 シカバネ町の増改築は凄まじい。未だ収まる気配は無く、新しい飲食店が消えては生まれを繰り返していた。


「できれば長く続いて欲しいです。私の舌を唸らせる店はあまり無いですから」


 バツの手を引く憂炎が笑う。バツと彼が何を思って恭介達を夕食に誘ったのかは最後まで分からなかった。まさかバツの言う通り仲良くしたいという理由だけでは無いだろう。


 清金はあまり気にし過ぎるなと言っていた。キョンシーであるバツが仲良くなりたいから一緒にご飯を食べたいと言ったのだ。ならば、その言葉に嘘は無いと。


 けれど、恭介は楽観視できなかった。半ば押し付けられる様な形であったとはいえ、バツのA級キョンシーで所属は中国だ。その一挙手一投足は逐次先方に報告されているだろう。


 ならば、言いがかりに近い様な借りを恭介達に、性格には清金京香へ作らせようとしてもおかしくない。


 恭介にできることは少なかったが、警戒はするべきだった。


 先頭の清金の横を恭介は歩いた。そのすぐ後ろではホムラとココミ、そして憂炎とバツが居て、残るメンバーが後尾を務めている。


 既に夜遅く、それぞれが帰路に付こうとしていた。


「さて、ワタシとセバスは戻りマス。仕事が残ってますかラ」


「ありがとう。あんまり無理しないでね」


「後二日ですカラ。これが終わったら代休を貰いマスヨ」


「良いわよ。存分に取りなさい」


 やれやれと首を振るヤマダへ清金が苦笑している。少しは気が晴れたのか顔色がやや良くなっていた。


 けれど、おそらく無理をして明るく振舞っているのだろう。恭介には何となく分かってしまった。


 それを指摘などしない。恭介は清金の後輩で、ただそれだけだ。何かを言えるような立場も能力も無かった。


 そのまましばらく恭介達は歩いた。バツ達のホテルはシカバネ町の東にある。確か外壁の近くの高級ホテルを一つ丸ごと貸し切ったはずだ。


 恭介達は一先ず中央区を目指していた。バツ達が乗ってきたと言う車と運転手がそこで待っているのだ。


「ごめんねー。バツちゃん達がもっと大きい車を用意できてたら皆乗せられたんだけど」


「気にしないで。美味しいご飯を奢ってくれただけで充分だわ」


 的外れな方向を向いてアハハと笑うバツに清金が手を振って答える。


 その時、ホムラとココミが足を止めた。


 ピタリ。その様子に場の全員が口を閉じ、周囲を見る。


「敵が来たわ。数は百組。所属はバラバラ。こっちには人間が七、キョンシーが十二来てる」


「!」


 恭介達は眼を見開いた。この数日何度も恭介達は襲われた。だが、それは散発的な集団であり、ここまでの一団が襲って来るというのは滅多なことではない。


「距離は? 所属がバラバラってどういうこと?」


「うるさい。距離はここから西に一キロ先。色々な国のやつらが手を組んだの。ココミが欲しいから」


「痺れを切らしたんでショウ。困りましたネ」


 既にヤマダがココミの言葉をハカモリの本部へと連絡していた。


 直後、恭介達のスマートフォンに本部からの命令が来る。


「ハカモリの全地域にて素体狩りを含むテロ行為が発生。対応可能な捜査官達は直ちに現場へ急行し、事態を鎮静化せよ、か」


「? 何でアタシ達以外も襲ってんの? どういうこと?」


 清金が眼を吊り上げ、ホムラが舌打ちをしながら答えた。


「只の火事場泥棒よ」


「くそっ」


 恭介は思わず膝を叩いた。


 なるほど。合理的だ。ココミを奪いたいというのが本音だろう。けれど、その試みはこの会議の間全て失敗している。ならば、所属を超えて連携した上でココミを奪おうとした。そして、ついでに住民達を殺すかバラすか攫うかしてしまおうという魂胆だ。


「でも、おかしくないですか? 何でこんな数の素体狩りがシカバネ町に?」


「会議中で超伝導リニアも外に繋いでいマス。関所も甘々デス。そりゃ素体狩りも入り込みますヨ」


「ココミのテレパシーがあるじゃない。何で事前に分からなかったの?」


「ゴルデッドシティでの一件で、一応ですが、テレパシーの対策法は知れ渡っていマス」


 恭介と清金の疑問にヤマダが秒と待たずに返事をする。


――百組。シカバネ町中で素体狩りが起きてる。


 どうする? と恭介は考えた。ホムラとココミの安全が捜査官としては最優先、フレデリカの命が兄としての最重要だった。


「……ヤマダ、あんたは東区に行って、バツ、憂炎さんをホテルに届けて」


「分かりましタ。その後は素体狩りを鎮圧しておきマス」


「恭介達はアタシと行動。中央区のハカモリ本部ビルを目指すわ」


「了解です」


 清金の指示に恭介は頷き、バツが「えー!」と声を上げた。


「京香、京香、バツちゃんも戦えるよー! 首輪も着けてもらったし、目隠しも外さないから良いでしょ! 大丈夫! 住民さん達は誰も傷つけないから!」


「……戦うのはギリギリまで止めて。下手にあんたが行動したら逆に危険なの」


「でもでも、バツちゃんも役に立ちたいんだよー。だってキョンシーだよ? 人のために成らせてほしいよー!」


 バツは駄々をこねる様に首をユラユラと振った。確かにつまらない日々が続いていたバツにとって、このイベントは承認欲求を満たすのに最適である。


 議論する時間はあまりなかった。既にテロ行為は起きている。


「ヤマダ、バツと一緒に戦える?」


「……難しいデスが、やりますヨ」


「お願い」


「ハオ! ありがとう京香!」


 バツが笑ったのを合図にヤマダとセバスチャンがバツと憂炎を連れて東区へと走り出す。


 その背を見送り、恭介達も行動を開始した。


「アクティブマグネット、起動」


 ジャリジャリジャリジャリジャリ! 額に蘇生符を貼り付け、清金がマグネトロキネシスを発動して砂鉄と鉄球を展開した。


「テディ! 起きなさい!」


 キイイイイイイィィィィィィイイイイイイン!


 シラユキが投げたトランクケースから折り畳まれたアイアンテディが起動し、フレデリカの体が背後の穴へと格納された。


「みんな、あまりアタシから離れない様に。恭介は要所要所でホムラ達に指示をお願い」


「分かりました」


 清金が砂鉄を翼の様に展開し、その上に恭介達は乗った。それを見届け、清金がマグネトロキネシスを操作し、その体を加速させる。


「捕まってなさい。行くわよ」


 シームレスに加速。アイアンテディにしがみ付き、恭介の視界は時速百キロメートルの世界に成った。


「アレか!」


 清金の声が聞こえ、前方、こちらへと飛び出してくるキョンシー使い達が見えた。

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