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④ ご飯を食べよ!




***




 打ち合わせが終わり、恭介達は清金と共に第六課のオフィスに戻っていた。そう提案したのは恭介である。会議が終わった時の清金の顔は見るからに疲弊していた。このまま帰るより、一度休んだ方が良いと思ったからだ。


「キョウカ、キョウスケ、お疲れ様デス」


「ヤマダもお疲れー。進捗はどう?」


「後二日でやっと終わりですからネ。最後に大量にまとめ資料作成の依頼がシラフミから来ましたヨ。フフッ、久しぶりにキレてしまいそうデス」


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!


 第六課のオフィスではヤマダが凄まじい勢いでキーボードを打鍵し、資料を作成していた。眼もとの隈も随分と深くなっている。


「お嬢様、スコーンと紅茶です。砂糖とミルクは入れておきました」


「エクセレント」


 セバスチャンが置いた紅茶とスコーンを見ずに手に取り、片手でタイピングを続けたまま、ヤマダは画面から視線を外さない。


 黒木が投げてきたと言う仕事がそれだけ重い物なのだろう。


 カタカタカタカタ。時刻は午後七時半。恭介と清金は眼を合わせた後、それぞれのデスクに座り、軽くメールや報告書の作成やらをチェックした。


「うわ、先輩メールの数えげつないですよ」


「ここ数日まともにチェックできてなかったしねー。何かヤバい要件あった?」


「いえ、精々来月の全体会議の日程調整くらいですね」


 適当な会話を恭介は清金へ振る。いつもの会話である。その様な物を清金は求めていただろうし、その様な時間が必要だろうと思ったからだ。


「シラフミから全体メールが来てましたガ、メルヘンカンパニーと共同戦線を結ぶというのは本当デスカ?」


「そうそう本当本当。モーバの戦闘員の結構な数が元メルヘンカンパニーの奴ららしくてね。その責任を取るんだってさ」


 メルヘンカンパニーとの一件は既にハカモリの捜査官全員に通達されている。


 今まで敵と定めていた様な要注意機関をこれからは仲間とするという衝撃的な決定。清金の様に昔からの戦闘員達からすれば因縁浅からぬ相手である。そうそう受け入れられる物では無いだろう。


「ま、相手が本気で協力する気かは分かんないけどね」


「わざわざ、あのシンデレラが来たんデス。相手も本気でしょうネ」


 ヤマダの口調は断定の響きを持っていて、恭介は一度自身のタイピングを止めてヤマダへと眼を向けた。


「? ヤマダさん、シンデレラに会ったことあるんですか?」


「とても昔に一度だケ。話したことは無いですケド」


「珍しいわね。ヤマダが昔のことを教えてくれるなんて」


「……ちょっと口が滑りましたネ。今、ワタシはかなり眠いみたいデス」


 ヤマダがこれまた珍しく苦笑し、ずっと動かしていた手を止めた。


「んー。セバス、肩と首を揉んでくだサイ。ちょっと疲れまシタ」


「仰せのままに」


 セバスチャンがヤマダの首と肩を触り、ググググと力を込めて揉んでいく。過去に恭介もセバスチャンのマッサージを受けたが、その気持ち良さは至高である。


 数日の徹夜を挟み、デスクワークで凝り固まった首と肩にされたらどれ程気持ち良いだろう。


「ん、あ。そ、こ」


 一房の金髪を左右に揺らしてヤマダが喘ぐ。彼女がこの様な姿を見たのは初めてで、恭介は少しだけ恥ずかしくなり、ヤマダから目を逸らした。


「いやらしい」


「……」


「やかましいね!」


 ソファでココミと寝転がっていたホムラがペッと吐き捨てた言葉に恭介が立ち上がって反論する。


「え、お兄様? エッチなことでも考えてたの?」


「考えてない。シラユキと映画でも見てな」


「えー」


「駄目ですよフレデリカ様。こういう時ワタクシ達はスッと温かい目で距離を取るのが淑女のマナーです」


「変な知識をフレデリカに入れるの止めてくれる?」


 すぐ隣、シラユキと共にパソコンで映画を見ていたフレデリカが気になる気になると首を上げ、恭介は頭を抱える。


 と、清金がこちらを見ていた。


「清金先輩? 何ですか? 何か言いたいことでも?」


「別にー。ま、恭介も男の子だもんね。分かるわよ。前も言ったけどアタシは理解ある上司だからね」


「くそっ。味方が居ねえ」


 確かにヤマダの喘ぎ声に少しだけ恥ずかしくなったのは事実だが、ここまで言われる程のことだろうか。


 やれやれと恭介がコーヒーでも買って来るかと立ち上がった。


一先ずここから戦略的撤退である。


 と、その時、トントントントン。ノックする音が部屋に響いた。


「……どうぞ?」


 清金が一度ココミに目を向けた後、ドアの奥へと返事をする。


「ハオハオー! バツちゃんだよー! みんなでご飯を食べようよー!」


「ワンシャンハオです。みなさん」


 部屋に入って来たのは憂炎に手を引かれたバツだった。


 満面の笑みと共に開口一番に告げられた言葉に恭介は思わず清金と眼を合わせる。


「……急にどうしたの? 政治的な話ならパスよ」


「ご心配ない京香さん。政治的な話だったらバツを持って来ないよ」


「シー! バツちゃんが皆とご飯食べたいだけだよ。すっごく美味しい中華レストランを見付けたの!」


「? キョンシーには味覚ないでしょ?」


「シー! でも付き人ちゃんが美味しいって言ってるんだから間違いないよ! 憂炎はとってもすっごい美食家なんだから!」


 どう言う意図か? と清金が恭介へ目を向け、それを受け恭介がホムラとココミへ意識を向ける。


 二体からは何の警告も反応も来ていない。致命的な誘いであれば何かしらの反応を二体はするだろう。


「……中華ね。そう言えば久しく食べてないわ。ね、ココミ、何を食べたいかしら? わたしとしてはフォーティャオチァンを食べたいものだけど」


「……」


「何の何の何? 少なくともその料理をお前らに食わせた思い出は無いぞ?」


 それどころか、ホムラとココミは何故かバツ達の提案に乗り気で聞いたことも無い料理を口にする。


「まあ! 良いわね良いわね! 憂炎! フォーティャオチァンはあったかしら?」


「勿論あります。あれは絶品です」


 バツが手を叩き、ホムラの言葉に追従する。


「だから、その料理は何ですか? フォー……? 何?」


「ん、フォーティャオ、チァンは、中国の、あ、最高級、ん、スープのことデス。仏も、あん、跳ねる程、ん、美味しいという、あーそこですそこです、乾物主体の、スープデスネ」


「喘ぎながらの補足、マジでありがとうございますヤマダさん」


 どうします? と目を向けると清金は少し考えた後立ち上がった。


「疲れが取れそうね。行きましょうか」


「マジですか」


 どうやら清金もバツの提案に乗るらしい。


 それを受け、俄かに全員が活気だった。


「中華! 良いわね! フレデリカは杏仁豆腐とか食べたい! もしくは北京ダック!」


「ワタクシとしてはトンポーローですかね」


「ハオハオ! 任せて何でも美味しい中華レストランだから!」


「ええ、この憂炎の舌を唸らせました」


 グッと憂炎が指を立て、その姿に恭介は肩の力が抜けた。


――ま、良いか。


 確かに自分達は、特に清金はとても疲れていた。無理やりでも栄養のある物を食べるというのは良いかもしれなかった。

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