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② 童話崩し

「キョンシー犯罪対策局がメルヘンカンパニー殲滅に乗り出さないとでも考えているんですか?」


 黒木の眼が細められた。過去の物とはいえこれだけの情報があれば、現在のメルヘンカンパニーの戦力の予想は立てられる。それだけの情報があれば、ハカモリの捜査官達でメルヘンカンパニーを撲滅するのは容易いだろう。


 脅しとも取れる黒木の言葉。シンデレラの態度は変わらなかった。


「クックック。それはあなた達の流儀に反しているだろう? キョンシー犯罪対策局は犯罪を犯した、または犯そうとしている者達を殲滅する組織だ。我々メルヘンカンパニーの活動に恥ずべき所など何一つ無いよ。何なら今まで受けて来た依頼についての情報も秘密保持期間が過ぎた物ならば全て話しても良いさ」


 自信ありげなシンデレラの言葉に京香はギリッと歯を噛み締めた。


「過去、あなた方は我々の捜査官、上森幸太郎と不知火あかねを殺害しました。それについても何ら問題が無いと?」


「ああ、そうさ。我々は正当な契約の元、戦力を派遣した。それによって出た被害の責任はメルヘンカンパニーには無いよ」


 これを言ったのが人間であったのなら、京香は激昂しただろう。ふざけた言い分だ。自分達はあなたの大切な者達を奪ったが、それは依頼されたからで、責任は別にある。そんなことを言われて許せるはずが無い。


「ボス、その言い方ですと誤解が産まれます」


「ん? ああ、そうだね。人間様、我々は開き直りをしているわけでは無いんだ。仮にあなた方が我々へ報復するというのであれば、甘んじて受け入れよう。勿論抵抗はするがね。でも、我々が過去にあなた方へ行った所業への謝罪はしない。それはメルヘンカンパニーの仕事を貶めることに成るからだ」


 ふざけたままの言い分で、でもこのキョンシーが何を言いたいのかを京香は何となく理解してしまった。それこそキョンシーの様に、求められた機能を果たしたと言っているのだ。


「……先輩、今は抑えてください」


「分かってる」


 耳打ちする恭介へ答え、京香は胸の痛みを無視する。第六課主任としてこの場で怒り狂う訳にはいかなかった。


「……良いでしょう。確かにこの場で上森幸太郎と不知火あかねの死について論じるのは間違っていますね。謝罪しましょう、シンデレラ」


「こちらこそあえて話題に出してくれて感謝するよ、白文。では、本題だ」


 シンデレラがゴジョウに指示し、彼女達のタブレット端末を会議室のプロジェクターに繋いだ。


「当時、人間とキョンシーの約半分がメルヘンカンパニーを裏切ったよ。私としても驚きでね。人間が裏切るなら分かる。自律型のキョンシーを裏切らせるのもできる。だけど、裏切ったメンバーの中には他律型のキョンシーも居たんだ」


「……それはおかしな話だ。当時のキョンシー達の使用者登録はどの様に?」


「メインで扱う人間を複数、上位命令としてメルヘンカンパニー自体に仕えるようにしていたさ」


 奇妙な話だった。上位概念としてメルヘンカンパニーを置いているのであれば、幾ら人間達が裏切ったとしても他律型キョンシーは所属を変えないはずである。


「コウタロウ達を殺した時、カーレン達はモーバの前身に雇われたって言ってたわね」


「そう。それは気に成っていたことさ。ゴジョウ言ってくれ。お前は当時どんな相手から仕事を受けた?」


 ゴジョウが咳払いし、その髭を擦りながらシンデレラの言葉を受けた。


「あの時、俺達が受けた依頼は清金京香の回収だ。一応あの時点だと生死は問わずだった。それはお前も覚えてるよな?」


「ええ、脳さえ無事なら殺しても良いって言ってたわね」


「依頼主は今話題の高原一彦とその数名。羽振りが良くてな、失敗しても中々の報酬を払ってくれたよ」


「仮に失敗したとしても、人類最強の上森幸太郎に挑むんだ。それくらいの報酬は貰ってしかるべきさ」


 シンデレラの合いの手に京香は幸太郎を思い出した。当時の彼は人類最強を公言していて、事実そうであった。殺人兵器と化したキョンシー達を右に左に撲滅していく姿はまさしく鬼神と言って良い程の力だっただろう。


「確かに、幸太郎と戦えって言われたら、アタシも嫌だわ。勝てる気がしないもの」


「今のお前様ならできるだろ? 何と言っても当代の人類最強だ。しかも先代には無かった激烈なマグネトロキネシスがある。全く、我が社にも欲しい人材だよ」


 シンデレラの言葉を聞き流し、ゴジョウが話をつづけた。


「あの時、高原は何体もキョンシーを連れていたよ。どいつもこいつも目隠ししたり、耳を塞いだり、中には包帯でグルグル巻きになっている奴もいたな」


「……精神感応系の特徴ね」


「ああ、今思うとな」


 見た目がおかしなキョンシーは珍しくない。五体不満足な素体を使ったキョンシーは多く、素体が持つ記憶の所為なのか、特定の外部刺激に敏感な例も多数あった。


 けれど、高原一彦が連れていて、五感のいずれかを明らかに制限しているキョンシーと言うのは確定的である。


「一応、俺達も警戒してたさ。明らかにやべえ見た目のキョンシーだからな。でも、暴走したお前から俺を連れて逃げ帰った時、カーレンは高原の所に行ったんだと。まあ、当たり前だよな。依頼に失敗したって報告はしなけりゃいけないんだから」


「……カーレンは一人で高原達に会いに行ったんですか?」


「いんや、ギョクリュウも連れてたはずだ。あの時、動けるのはあいつらだけだったからな。俺は大怪我で入院してたぜ」


 恭介が眼鏡を整え、息を吐いた。


「その時にはもうカーレンは洗脳されたのかしら?」


 京香が恭介も思っていたであろう言葉を続けた。


 精神感応系のキョンシーを連れた人間の所へ、たった一人と一体で向かうなんて自殺行為以外の何物でもない。


 正気の判断とも思えない。ならば、カーレンはあの時点でモーバの手に落ちていたと考えた方が自然だった。


「クックック。真実は分からないよ。でも、そう、あの後、カーレンが高原達を連れてメルヘンカンパニーの本社に来たんだよ。丁度私が留守の間にね」


 灰を散らしてシンデレラが笑った。だが、その雰囲気は刺々しい。


「びっくりしたよ。帰ってきたら、本社に残していたはずの社員が全員居なくなってるんだからね。たった一日で全体の半分が自己都合退職さ。もう笑うしかないよ」


「確定ね。あんたの大事な社員達は皆精神感応系のPSIを喰らったのよ。どの程度の洗脳かは分からないけれどね」


 京香は恭介の後ろで立っていたココミを見た。このココミを作り出すのに高原は数々の精神感応系のキョンシーを作製したはずだ。ならば、その過程で生まれた試作品を何に使ったのかという話が出てくる。


 京香の視線を察したのか、恭介がココミに問うた。


「ココミ、お前はこの話を知っていたのか?」


「……」


「知ってるはずがないじゃない。そんなことにわたし達は興味が無いんだもの」


 あまりにもいつも通りな二人の態度に京香は苦笑して息を吐いた。

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