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① 知らない匂い

 五日後、モーバ対策会議初日、午後十一時半。


 京香と霊幻、恭介とホムラとココミの五人は帰路に付いていた。


「やばいくらいの質問攻めだったわね」


「……ココミのテレパシー、清金先輩のマグネトロキネシス、モーバのテロ行為をどう対策するのかって話じゃ無かったでしたっけ?」


 げんなりとする京香と恭介の顔は疲れ果てており、その足取りもいつもよりは心なしか重い。


 初日である今日は各国の代表者との顔合わせが主題であり、モーバとの現状把握自体は午後六時頃には終わっていた。


 会議の本番は明日からであり、本来ならば本日は早めに解散する運びと成っていた。


 だが、会議が終わった直後、京香と恭介達は各国からの怒涛の質問攻めにあったのである。


「一応、アタシ達が把握できてるモーバのテロ行為とか戦力の話はできたけどさ、明らかにアタシ達への質問がメインだったわね」


「外に出るドアがバタンて閉じましたしね。事前に明らかに準備してましたよアレ」


「ハハハハハハハハ! 情けないぞ京香! シャキッとせんか! まだまだ会議は始まったばかりなのだぞ!」


「こっちはトーキンver5(翻訳機)がフル稼働してて耳が痛いの。アンタもやられてみりゃ分かるわよ」


 ハァ、と京香と恭介はため息を吐く。


「聞かれたのは、ココミと先輩についてでしたね」


「アタシのPSIがどうやってA級相当まで上がったのかを教えてろって言ってたわね」


「それにココミをどうにか調査させてくれとも言ってました」


「「……そう言われてもねぇ」」


 京香と恭介の声がハモる。どちらに来た要求も面倒で、二人からすれば答えられる物では無かった。


 やれやれと頭を振るい、京香達は北区を歩く。北区の端にあるモーバ対策会議の会場から既に十数分歩いていた。


 有楽天を抜け、京香達は歓楽街を通る。体はクタクタである。最短経路で帰りたいのだ。


「車はこの先の駐車場にあるんだっけ?」


「はい。会場近くの駐車場は埋まってましたからね」


 恭介が借りたというワゴン車は歓楽街を抜けた先の駐車場に止められているらしく、京香達は眠気を無視してそこを目指していた。


 そんな京香達を呼び留める声があった。


「ンン? ソコのオニイサン、久しぶりだネ。ミンミンだよ」


 京香達に声を掛けたのは局部以外を露出させた破廉恥な格好のキョンシーである。


「げ」


 恭介が短く声を上げ、ミンミンと名乗ったその破廉恥キョンシーがズイッと距離を詰めた。


「ご贔屓のオニイサン。こんな時間にどうしタ? 今日もミンミンのドスケベ可変ボディで暖まっていくカ?」


「行ったこと無いよね!?」


――へー、自律型、珍しいわね。


 性風俗の自律型キョンシーを京香は初めて見た。疲れで頭はややボーっとしていて、ワタワタとミンミンにからかわれる恭介の姿へ笑ってしまう。


「汚らわしい」


「ボソッと言うな離れるな!」


 自分から距離を取ろうとするホムラとココミへ命令しながら恭介が何故か京香へ「違うんですよ」と聞いても無い言い訳を始める。


「前に穿頭教の桃島達を護衛したことがあったじゃないですか。その時のパトロールの時にミンミンとは会っただけなんです。マジで僕は潔白なんです」


「いえ、分かるわ恭介。男性はこういうので何か色々と発散するんでしょ? 本とか漫画とかで良く見るもの。ええ、アタシは理解ある上司よ」


「何で今日に限ってそんな感じなんですか!? からかってます!?」


「ハハハハハハハハ! まあ良いのではないか恭介! 吾輩は生者のリビドーも素晴らしきものだと思うぞ!」


「やかましいよ!」


 軽い小芝居が終わり、恭介がやれやれと大きく嘆息し、ミンミンへやや剣呑な目つきをした。


「で、ミンミン、何? 僕と先輩に何か用? ただの客引きだったらさっさと僕達を帰らせてくれ」


 キョンシーは目的も無しに自分から行動しない。その原則になぞらえて一応なのだろうが、目的を聞いたのだろう。


 その一応の質問は意味があった。


 ミンミンが軽く周囲を見た後、少しだけ声を小さくして京香達へ告げた。


「最近、ちょっと怪しいヨ。オキャクサン達からオニイサンとオネエサン達のことを聞かれたヨ。注意した方が良いネ」







 ミンミンの忠告を受けた後、そのまま歓楽街を抜け、京香達は車に乗り込んだ。本人の雰囲気通り、恭介の運転は丁寧で、途中途中で助手席に乗った京香は眠りそうに成ってしまった。


 数十分後、恭介のマンション、メゾンアサガオに着き、京香は伸びをしながら恭介の部屋へと向かう。


「知ってたけど良い所に住んでるわねぇ。めちゃくちゃ綺麗で新しいじゃん」


 メゾンアサガオに暮らすのはホムラやココミの様なハカモリの重要人物達である。ここには第一課のキョンシー使い達が複数常在し、ハカモリの中でも重要人物の護衛をしている。


 至る所に侵入者検知用のセンサーがあり、壁や窓は全て特殊仕様で一説ではバズーカを受けても壊れないらしい。


 ホムラとココミの持ち主と成ってから恭介の住処は半ば強制的にメゾンアサガオに移ったのである。


「清金京香は育友荘から出ないんですか?」


「あそこ古いけどセキュリティとかはめっちゃ良いのよ」


 互いの住居についてあれこれを話ながら京香達は階段を上がって行く。途中途中の部屋のドアは開き、第一課のキョンシー使い達が顔を出していた。


「そういやアタシが来てもセンサーとか大丈夫なの?」


「そのためにこの二週間工事とかしてましたよ」


 京香のマグネトロキネシスの出力は日を追うごとに難しくなっている。今。京香の周囲からは微弱な磁場が常に放出されていて、精密機械などに影響を与える程度には問題が出始めていた。


「ココミも大丈夫? ちゃんと周りのこととか分かる?」


 後ろを振り向き、霊幻の前を歩くホムラとココミを見る。京香の近くに居ることでココミのテレパシーが上手く作動しなくなっては問題だった。


「問題ないわ。ノイズが混ざってうるさいくらい。わたし達はおしゃべりをしているから邪魔をしないでくれる?」


「……」


「ハハハハハハハハ。いつも通りだな」


 影響が無いわけでは無いが、そこまで気にしなくても良い様だ。


 そうこう話している内に京香は恭介の部屋、301号室の前に到着した。


「……あいつ、まだ起きてるな」


 まだ明かりが見える窓にやれやれと恭介が眉を顰めながら、インターホンを押し、そしてドアの鍵を開けた。


「おかえりなさーい、お兄様ー!」


 部屋の奥から声が聞こえ、困った様に眉の力を抜いた恭介が靴を脱いで声の場所へ向かって行く。


「お疲れ様ねお兄様! ホムラもココミも京香も霊幻もお疲れ様!」


 それに京香達も付いて行くと、高級そうなソファでフレデリカの膝枕で横に成ったフレデリカが首を揺らしてこちらを見ていた。


「ただいま。フレデリカ、寝てて良いって言ったろ? シラユキもフレデリカを寝かせて良いのに」


「見たい深夜アニメがあったので。見てください。丁度良い所なんです。」


 シラユキが指差したテレビ画面では確かに何かのアニメ映像が流れていた。


「あら、ココミ、魔導少年ラジカルマギカだわ。再放送ね。丁度主人公の先輩が死ぬ直前じゃない」


「ネタバレは厳禁ですよ!?」


 やんややんやと姦しく、京香はやや面を喰らった。


「恭介、あんた思ったよりも楽しく過ごしてんのねぇ」


「毎日振り回されっぱなしですよほんと」


 フレデリカの頭を数度撫で、恭介が苦笑する。普段、第六課で会う時とは違う何処か穏やかな表情だった。


――知らない匂いがする。


 当たり前のことではあるが、京香の部屋とは違う匂いがした。特別なアロマなどを使っているわけでは無いだろう。恭介達が生活している日々の匂いである。


 何故だかその匂いに京香の腹はクゥッと鳴った。


「……とりあえず、軽く何か食べますか。残り物ですけどカレーで良いですか?」


「そうね。ありがとう。いただくわ」

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