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④ 遊びに来たよ!

「ニーハオです、京香さん恭介さん」


「いやいや、憂炎さん、何でここにバツを連れて来てんの? まあまあな国際問題に成っちゃうわよ」


「モーマンタイ。本国と水瀬局長からも許可を取っています」


「えぇ?」


 バツと並びソファに腰かけ、おそらくセバスチャンが用意した紅茶とスコーンを食べている青年、バツの付き人、李憂炎の言葉に京香はどういうことだと眉を顰めた。


 正確には的外れな方向だが、こちらへハオハオと手を振るバツは確かにハカモリ預かりでシカバネ町に滞在している。


 フォーシー・ゴールドラッシュが破壊された先の事件の後、どういう政治戦の果てに水瀬がこの様な要求を受け入れたかは定かでないが、世界最高位のパイロキネシストが戦力として仲間に成ったのは事実だった。


 しかし、バツのPSIはあまりにも危険である。


 座標認識とPSI発動がほぼ一組と成っているバツがもしも仮にシカバネ町の何処かでその眼の紅布を外し、瞳を開けてしまったのなら辺り一帯は灰燼に帰すだろう。


 一応、ホムラが着けているのと同じPSI制御装置を首輪として付けているが、それでもこのキョンシーのPSIをまともに制限できる物では無かった。


「ハハハハハハ! 仕方ないな京香! 克則が許可したのだ。聞くしかあるまいよ」


「……まあ、良いか」


 憂炎が嘘を言うとも思えない。水瀬が第六課への来訪を許可したというのは事実だろう。


 それにしたって、ココミが居る第六課へバツを近付けるというのは何とも不用心な話だった。もしも、ここでココミがテレパシーを発動すればバツには逃れる術がない。ココミは簡単に中国の貴重な内情などをいくらでも奪えるのだ。


「ご心配ないよ京香さん。ココミのテレパシー対策はしてありますから」


「へぇ」


 懸念を先回りして憂炎に答えられ、京香は眉を軽く上げながらバツの向かいの席に座った。


「恭介、あんたも座りな」


「お邪魔します」


 恭介が京香の横に座る。その視線は部屋の奥に軽く向けられていて、そこではヤマダ達とフレデリカとシラユキがスコーンを摘みながらお喋りをしていた。


「京香様、恭介様、どうぞ」


「ありがとう、セバスチャン」


 音も無く忍び寄り、紅茶とスコーンを置いたセバスチャンへ礼を言い、京香は意識を前方のバツ達へ戻した。


 背後には霊幻が言われずとも立っている。ホムラとココミは興味が無いのか、ヤマダ達の方へとトコトコ向かっていた。


 ホムラとココミからの警報はまだ出ていない。ならば、バツ達の来訪は悪意や敵意ある物では無いだろう。


 最低限の警戒だけし、京香はスコーンを摘みながらバツ達へ話しかけた。


「バツ、今日は一体何の用? ここは遊ぶところじゃ無いんだけど?」


「ハオハオ、バツちゃんはちょっと暇なんだよー。何かやることないー? 仕事でも何でも良いよー? できるならシカバネ町のみんなにライブとかしたいよー」


 どうやら暇だから遊びに来たというだけの単純な話の様だ。


 バツが不満を持つ気持ちは分かる。シカバネ町に来て一か月、バツと憂炎は概ね軟禁に近い生活をしている。歓楽街やビジネス街に行く許可は下りず、彼女達が暮らすホテルの近くをグルグルと回るだけの毎日だと聞いていた。


「バツはやっぱり暇なのは嫌?」


「シー! バツちゃんはみんなのバツちゃんだからね。やっぱりみんなに見てもらってバツちゃんを好きに成って欲しいんだよー」


「あー」


 バツの執着は〝承認欲求〟である。みんなのバツちゃんという愛されている自分を認識し続けることこそがバツにとっての存在理由だ。


 そうなると良く一か月も我慢が続いた物だ。


――何となく水瀬局長が何をさせたいのか分かった気がするわ。


 京香は憂炎へと眼を向けた。


「それじゃ、まずはちょっと憂炎とバツに聞きたいことがあるんだけど」


「シーシー! 何でも聞いてよ」


 シニヨンキャップを揺らしながらバツが横を向いて答えている。方向感覚を狂わせる薬剤はちゃんと聞いている様だ。


「二週間後にあるって言うモーバ対策会議って二人は聞いてる?」


「聞いてます。本国からは私ともう一人が代表ですね」


「シー! バツちゃんも出るよー!」


「アタシと恭介も呼ばれてるんだけど、何か知ってる?」


 京香の言葉に憂炎がチラリと部屋奥でクッキーを食べさせ合い始めたホムラとココミを見た。


 ココミの前で嘘は通じないし、思ってしまっただけで真実は隠せない。。


 意地悪な質問である。だが、わざわざ第六課に来たのだ。その程度のリスクは折り込み済みだろう。


「京香さんと恭介さんで理由は違います。京香さんは疑われています。モーバのクロガネはあなたの母親の体を使ったキョンシーで、モーバは何度もあなたを仲間に引き込もうとしている。疑われるのも当然です」


「吾輩の相棒がそんなことするわけないだろう」


「アタシがモーバへ寝返るって? 冗談じゃないわね」


 京香は顔を顰めるが、憂炎の言葉には理があるとも分かっていた。


 憂炎の言う通り、モーバのクロガネは何度も京香を仲間へと勧誘している。京香が裏切り者では無いかと疑いを持つのも当たり前の話だった。


「京香さん、あなたは何度も素体狩りの犯罪に巻き込まれている。私達は調べました。客観的に見て、この社会を見限ってエンバルディアとやらに行きたいと思っても不思議じゃないです」


――ふーん。


 清金京香という存在のことは世界中で調べられている。それを京香も知っている。だが、こうして面と向かって言われたのは久しぶりだった。


「憂炎さん、僕の方の理由は?」


 京香が何かを答えようとする前に恭介が口を挟んだ。


「恭介さんの方は単純です。今、あなたは世界唯一のテレパシストの主だ。あの手この手であなたから情報を奪いたいのでしょう」


「そう言われても僕に話せることってあんまりないですよ。マイケルさんの方がココミについては詳しいですし」


「だとしても、木下恭介という青年のことは色々と調べられてます。そこのフレデリカというあなたの妹を素体にして作られたキョンシーのこともね」


「お兄様! フレデリカを呼んだかしら!?」


「呼んでない呼んでない」


 恭介は肩を竦めている。何処まで恭介の周辺のことがバレているかまでは分からない。だが、碌なことでは無かった。


「例えば、憂炎さんならどうやって恭介から情報を奪うの?」


「一番簡単なのは洗脳ですね。どうにかして恭介さんを攫い、本国の精神感応系サイキッカーで脳を弄ります。そうすれば後は勅令を使ってココミをこちらに引き入れれば良いんですから」


「絶対にしばらくは個人で行動しませんよ僕は」


「マジでそうしてね」


――嫌なこと聞いたわね。


 いつの間にか京香だけでなく恭介も世界での重要人物に成りつつある様だ。


 京香と恭介は顔を合わせ、それぞれ眉を顰める。


 憂炎が紅茶を一口に飲んだ。


「世界各国が今回の会議でココミを奪おうとするでしょう。気を抜かないでください。何処も自国を守るに必死です」


 そこまで聞いて京香は「はぁ」とため息を吐く。思った以上に次の会議は気を抜けない様だ。


 頭の中でやるべきことを整理する。一つ一つこなしていくしか無かった。


 京香は残りの紅茶とスコーンを食べ終え、立ち上がった。


「……良し。情報ありがとう。それじゃあ、バツ、ちょっと出かけようか」


「良いの!?」


 バツの頭が大きく揺れる。


 外出ができないことが不満のバツを第六課へ来させる。水瀬の意図は単純だ。


「アタシ達が護衛と警戒するなら、バツもこの町を歩いて大丈夫でしょ」


「シェシェ! バツちゃんはとっても嬉しいよー!」


「先輩、僕は?」


「ココミも一応欲しいわね。お願いできる?」


「了解です」


 やれやれと恭介も立ち上がり、部屋奥のホムラ達へ声を掛けた。

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