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① 中途半端

「おおー、綺麗に成ったわねぇ」


「間取りはあんまり変わってない様ですけどね」


 三月の中旬。ゴルデッドシティでの戦いから凡そ一月後。


 京香と恭介達はキョンシー犯罪対策局の本部ビルを見上げていた。


 先のモーバからのテロ行為で半壊したビルは今日やっと立て直しが完了したのだ。


「二か月弱でビルを一つ建てられるもんなのね」


「建築用キョンシーをフル稼働させたらしいですよ」


「ハハハハハハハハハハ! 素晴らしい! 後はこれで人員とキョンシーさえ補充されれば言うことが無いな!」


 建てられたばかりのビルの外壁には傷一つ無く、見慣れた捜査官と初見の捜査官達がぞろぞろとビルの内外を行き来している。


 ハカモリは迅速に人員の募集とキョンシーの補給を行っている。だが、教育も含めて元の戦力に戻るのには後数か月はかかるだろう。


「捜査官の志願者は集まってるんだっけ?」


「はい。キョンシー犯罪に恨みを持つ人間は多いですからね。数だけなら補充の見込みはあるそうですよ」


 恭介の言葉に京香は白髪を触って眉を顰める。


 この大キョンシー社会、キョンシー犯罪は増加の一途である。命の価値が限りなく低くなったこの世界で、大部分の人間はそれを気にしない。けれど、決して無視のできない少人数は嘆き、その中で恨みを持って捜査官を目指す者達は居るのだ。


「全く、苦々しいことだ。吾輩は悲しい。何故、キョンシーのために生者が哀しみを持たなければならないのか」


 霊幻の言葉に同意し、京香は恭介が押す車椅子を見た。


「おーほっほっほ! 犯罪者はみんなフレデリカがぶっ飛ばしてあげるわ!」


「はいはい暴れない暴れない」


 慣れた様子で恭介がフレデリカの頭を撫で、それに彼女は「んー」と眼を細める。この光景も慣れた物だった。


「ココミ、結局、スパイは見つからなかったんだっけ?」


「……」


「前にわたしがそう言ったじゃない。何度も何度もココミを煩わせないでくれるかしら?」


「まあまあ、確認は大事じゃん」


 ホムラが隻眼を不機嫌に京香へ向ける。それなりの付き合いに成ったが、未だにこのキョンシー達の態度は変わらなく、それが何となく京香には嬉しかった。


 ハカモリが半壊した日から、ココミのテレパシーによる捜査官達の一斉検査が行われた。


 衣服の着用すら認めない徹底的な検査であったが、スパイは見つからず、京香と関口の不在を外部へ漏らした裏切り者は見つからなかったままだ。


「怖いわね。一体何でバレたんだろ」


「アリシア主任は精神感応系の洗脳を疑ってましたね」


「それこそココミのテレパシーで解除できないの?」


「清金先輩も聞いたでしょ。ココミのテレパシーで脳を変質させることはできても変質した脳かどうかは分かりにくいって。それにそこまで深く調べるって成るとココミの体力が持ちませんよ」


 テレパシーは強烈な負荷をキョンシーの脳へかける。マイケルが言うにはココミじゃ無ければ数百体のキョンシーが一瞬でダメに成るらしい。


 それ程の負担を無作為にココミに与えるのは京香としても嫌だった。


 できればキョンシーには長く壊れずに居て欲しい。


 そこまで考えて京香は霊幻を見る。


 毎日毎日、いつもいつも考える。霊幻の寿命は後どれくらいだろう。丁寧に丁寧に扱っても一年は切っている。


 ただでさえ短い残り時間は戦わせれば戦わせる程に消えていく。


 ならば、戦わせなければ良いのか。それは霊幻にとって最も大事な撲滅の否定だ。京香にはそんな命令をすることもできない。


――中途半端ね。


 自分が嫌に成る。霊幻を戦わせたくないのに、それを命令できない。何ともどっちつかずだ。


 自傷行為の様な自嘲を胸に漏らし、これ以上暗い考えを持たない様に京香は髪を掻き上げて、ハカモリの本部ビルへと入った。


「恭介、会議の準備はできてる?」


「一応できてます。正直今すぐにでも帰りたいですけどね」


 京香と恭介はハカモリの主任会議に出席すべく、朝早くから新生本部ビルへと足を運んでいた。


 主任会議であるから、人間として呼ばれたのは主任である京香一人だ。しかし、今回の会議の議題の一つはココミである。恭介は持ち主としての意見を求められ、連れて来られたのである。


「お兄様お兄様! フレデリカも会議に出たいわ! 水瀬局長やアリシアとお話したい!」


「駄目だよ。どう考えても邪魔に成るから。シラユキ、第六課のオフィスでフレデリカと一緒に待っていてくれ。ヤマダさんとかも居るだろうから」


「承知したわご主人様」


 ぶー垂れるフレデリカを宥めながら恭介が車椅子を押す。フレデリカの扱いはとても板に付いていた。


「恭介は最近良い感じね。キョンシー使いに成って来たじゃない」


「急にどうしたんですか?」


「何となくね」


 最近、恭介を見てると京香は郷愁や羨望の様な思いを胸に抱く。まだまだ恭介は未熟で頼りない所もあるが、それでも京香が成りたかったキョンシー使いの姿に近い様に思えるのだ。


「というか僕なんてまだまだですよ。全然戦えませんし」


「いやいや充分よ充分。アタシ的には多分恭介は良いキョンシー使いに成るって思うのよね」


「名誉なのか不名誉なのか分かりませんね」


「言う様に成ったじゃない」


 ハハハ。軽口を叩きながら京香達はビルのエレベーターへと乗り込んだ。


「お兄様? 何度も言ってるけど、PSIを使わせてくれればフレデリカも階段を使って登れるわよ?」


「何度も言ってるけど、こんな公共の場で簡単にPSIを使わせるのも問題なんだよ。ほら、大人しくしてな」


 慣れた様子で恭介は六階と最上階のボタンを押し、入り口側へと立ち、シラユキへフレデリカの車椅子を預けた。


 それを見た後、京香達はエレベーターへ詰めていく。


「おっと、京香、少し押すぞ。狭いからな」


「ん」


 京香、霊幻、恭介、ホムラ、ココミ、フレデリカ、シラユキ、七人というのは中々に大所帯で、その内の一人は車椅子だ。


 京香はエレベーターの奥へ詰め、その体を覆う様に霊幻の胸に軽く押される。


 キョンシーの体だから人間の様な温もりは無い。だけれど、その感触は京香の思考を鈍らせる。


「それじゃ、上に上がりますよ」


「ええ、お願い」


 霊幻越しに聞こえる恭介の声へ返事をし、京香はエレベーターが上がる僅かな間、眼を閉じて、霊幻へと体重を預けた。

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