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① 爆弾ゲーム

 二日後。


 京香達第六課はゴルデッドシティ西部のホテルの一室に隔離されていた。


「ま、当然よね。結局フォーシーを守り切れなかったんだから」


「ハハハハハハハハハ! 吾輩達の失態だな!」


 第六課の全員が集合した一室は広く、各々がそれぞれ好き勝手に過ごしている。


 京香が居るのは部屋全体を見渡せる窓側のソファ。霊幻をすぐ傍らで立たせ、ただゴルデッドシティからの連絡を待っていた。


 モーバとの戦いはゴルデッドシティへ甚大な被害を出した。各国の要人が多数死傷し、行方不明者も少なくない。ホテルで見れるテレビは連日連夜このテロ行為について報じていて、コメンテーター達の無責任な言葉に京香はうんざりとしていた。


 各国の要人を守り切れなかった責任をゴルデッドシティは、否、アメリカは取らされるだろう。それだけの失態だ。しかも、事前にハカモリからの情報があったにも関わらず防げなかったのだ。


 そして、何よりもフォーシー・ゴールドラッシュが、A級キョンシーの一体が落とされたという事実は世界へ激震を与えていた。


「ヤマダ、今回のテロ、何処までがモーバの思い通りだったと思う?」


 中央のテーブルでセバスチャンが淹れた紅茶を飲むヤマダに京香は聞く。


「核ミサイルをフォーシーが防ぎ切る所までハ作戦の内だったんでショウ。ワタシ達の認識を破壊したのハ、ミサイル群から眼を逸らすためだったと思いマス」


――ヤマダの言う通り? でも、ココミが目覚めなきゃみんな死んでたのに。


 ミサイルが飛んで来た時点で、ゴルデッドシティにはまだたくさんのモーバの敵が居た。クロガネ、シロガネ、そしてヤマダが戦っていたというベンケイ、他に数多くのチルドレン。それらは誰一人としてあの場では逃げようとしていなかった。


 まさか最悪もろともに壊してしまおうとでも思ったのか。敵の意図を京香は理解できない。


「今回はココミに助けられたわ。ありがとね。あんたが居なけりゃ、今でも恭介達の認識は壊れたままだったわ。それにチルドレンを全部壊してくれたんでしょう? ヤバいわねココミのPSI」


 あの時、テレパシーでゴルデッドシティを包み込んだ時、ココミは全ての人間とキョンシーの認識を正し、可能な限りモーバのキョンシーと人間の脳を破壊したという。回収されたそれらは呼吸以外の何もできない完全なる廃人状態だと聞いていた。


「清金先輩、マズい、ですよね」


「まあ、そうね。どうなのマイケル? やっぱり今回のココミの大活躍はやり過ぎ?」


「そりゃやり過ぎだろうよ。あんな大規模なPSI発動をあんな短時間で。しかもあれだろ? フォーシーの脳弄って無理やりPSIを進化させたんだろ? ここまでのことができるなんて誰も考えてなかったんだぜ?」


 ポンポンと自分の腹を鳴らしながらマイケルがココミのPSI発動ログを見ながら笑って顔を上げた。


――これでココミの取り合いに成るのかな?


 ココミというテレパシストがどれ程の力があり、どれ程恐ろしい存在なのか、今回の一件で世界へ知らしめてしまった。


 一体、今後どの様な要求がハカモリに、そして第六課に来るかと考えるだけで京香は眼を伏せたくなる。


 そして、そのとうのテレパシストを見ると、ホムラとココミは仲良くテレビの前で名探偵ゴリンの映画を見ていた。ここへ来る前に恭介が映像ディスクを持って来ていたらしい。


 二体はいつもの様に外の世界へ興味が無く、その様子に京香は力が抜けた様に笑ってしまった。


「おーほっほっほ! 大丈夫よお兄様! 何かあってもこのフレデリカが何とかしてあげるんだから!」


「はいはい。お前はちゃんと休んでな。ほら、クッキーあげるから」


「あーん!」


 部屋の空気を察知したのか、恭介の椅子の隣のベッドの枕で作った背もたれに背を預けていたフレデリカが大きく声を上げる。その髪を恭介とは逆側の椅子に腰かけていたシラユキが梳かしていた。


 今回、彼らも良く頑張った。少なくとも恭介達の奔走が無ければココミは目覚めず、全員死んでいた。


――それに、アタシは守られた。


 京香の脳裏に恭介の背中が過る。テレパシーを喰らい、上手く動けない自分を守る様に恭介は敵へ向かい合った。自分の後輩で、戦う力は自分よりも無くて、本当なら自分が守らなければいけない相手なのにだ。


――いや、これは違う、か。


 一度目を閉じて京香は思考を止める。駄目なループだ。自分はリーダーなのだ。部下達の前で弱い姿を出す訳にはいけない。


 話題を変える様に京香は霊幻へ話しかけた。


「霊幻、アンタはどうだった。今回の戦いで何処か変な怪我はしなかった? マイケルには聞いたけどさ」


「ハハハハハハハハ! ほぼ全てが皆撲滅の相手だった! そういつもの! いつもの様な撲滅の戦いだった! 流石に何度か危ない場面はあったがな!」


――あれ?


 おかしいわけでは無い。だが、京香は霊幻の振る舞いに何かおかしな物を感じた。


 誤魔化す様な、どう話せば良いのか分からない様な、そんな違和感である。


「霊――」


 コンコンコンコン。


 聞き直そうとした正にその時、一室のドアがノックされた。


 部屋の全員がそれぞれの作業を止めてドアを見る。


 京香はトーキンver5を起動し、ドア向こうの主へ声をかけた。


「……どなた?」


「『京香、私ですメアリーです。レオナルド先生と、それにバツ達も連れて来てます』」


――バツも? 何で?


 バツは中国のキョンシーである。アメリカ所属のレオナルド達が連れて来るとは何事か。


「どうぞ、入って」


 怪訝な顔をしながら京香は入室を促し、メアリー達が部屋に入ってきた。


「『ハオハオ! 二日ぶりのバツちゃんだよ! みんな元気だった?』」


 すぐに大きく声を出したのはバツだ。硬く眼を紅布で隠した彼女は付き人の男に連れられ、こちらへと手を振ってくる。


 見えてないだろうが手を振り返し、京香はメアリー達へ問い掛けた。


「アタシ達の処遇でも決まった?」


「『処遇という程の責任はハカモリの皆さんにはありませんよ』」


 レオナルドがやや疲れた様な顔で京香達へ首を振る。フォーシーが壊れた件で真っ先に現地調査に乗り出したのはこの老人だ。


「『先生、なら、俺達はどうなるんだ? シカバネ町にもう帰って良いのかよ』」


「『ええ、マイケル。あなた達の帰国の許可は取れました。今日中にでも帰国の飛行機に乗って貰って構いません』」


――いやに素直ね。


 レオナルドの言葉に京香は眉を小さく歪める。こうも簡単にハカモリをシカバネ町に帰すのは気味が悪かった。


 ふぅ、とレオナルドが息を吐いて頭を叩いた。


「『今回の一件で、上は責任の所在は何処か、とてんやわんやの大騒ぎです。正直な所、シカバネ町のあなた方に対応できる時間はほとんど無いんです』」


「へー、じゃあ、お言葉に甘えてアタシ達はさっさと帰らせてもらおうかしら?」


 視線をレオナルドからバツへ京香は移す。レオナルドの言葉通りだとして、何故ここにバツが居るのか。


 視線を感じたのか、バツが晴れやかに笑いながら付き人の手ごと両手を上げる。


「『ハオハオ! 喜んで京香。バツちゃんは今日からしばらくシカバネ町のお世話に成るのー』」


「はぁ?」


 京香は眉根を上げる。突然すぎて、かつ、あり得ない提案だ。


 中国が自国のA級キョンシーを何故他国に預ける選択をする?


 答えたのはバツの付き人である。


「『此度の戦いで、我らの国は結果としてゴルデッドシティへ核ミサイルを放ちました。その責任を取るためにシカバネ町にてモーバ壊滅の手伝いをすることに成ったのです』」


「それはいいわ。うん、それは分かるわ。でも、それで何でバツなの? 大事なA級キョンシーでしょ?」


「『ブーシー! バツちゃんは中国の大事なキョンシーじゃないよー? だってとっても使い難いもん。でも貴重だからシカバネ町に守って欲しいの。ココミも居るしね』」


 キャハハと笑いながら吐かれたバツの言葉に京香は一瞬言葉を失った。


 貴重だけど大事ではない。吐かれた言葉の意味を一瞬理解できなかったのだ。


「……水瀬局長からの許可は?」


「『貰っております。もちろん我が国からも』」


「ハハハハハハハハ! 京香よ、爆弾を押し付けられたな! 仮に一度バツがシカバネ町で眼を開けば、生者皆灰燼と化すぞ!」


 今この場で撲滅してやろうか? と霊幻が意気込み、紫電を右手に纏わせる。この距離ならば必殺だ。バツを瞬時に破壊できるだろう。


「止めなさい。局長が許可を出してるなら、アタシ達はそれに従うだけよ」


 後で確認する必要はあるが、どうやら新しい問題がシカバネ町に来た様だ。


「バツ、それじゃあ、よろしく」


「シー! よろしくね、みんな!」


 眼を布で覆っていても分かる満面の笑みのバツを目にしながら、やれやれ、と京香は頭を振り、部屋のメンバーに命令する。


「みんな、帰り支度して。そうと決まれば、すぐに帰るわよ」

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