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⑫ 復讐者は駆ける




***




 轟音を立てて崩れ落ちたビルの瓦礫。その中からケンジとエンジュが飛び出した。


 突然の崩壊。A級キョンシー同士の戦いに耐えられなかったのだろう。降り注いだ瓦礫はケンジ達の戦いを中断させた。


「エンジュ、エンジュ、探すぞトレミーを! あいつはこの町に居る! ああ、そうさ、だって肉団子があったんだから!」


「そうだねケンジ! 探さなきゃ! 探して殺すの! そうしてみんなの前に脳漿をぶちまけてやる!」


 アハハハ! アハハハ! アハハハ!


 霊幻とシロガネが見つからない。しかしどうでも良い。復讐するべき第一の相手の名前が分かったのだ。無視しても構わない。


 ボタボタ。走るケンジ達を追う様に赤い水滴が落ちた。


 瓦礫が幾つか当たった。ケンジとエンジュの顔は血で汚れている。既に狂っていたから変わらずに話せて動けるだけで、本当ならば倒れてしまうべき怪我だ。


「行くぞキョンシー! 神の力であいつらを殺すんだ!」


 残ったキョンシーは八体。ケンジの号令に全員が従う。


 良い。まだ穿頭教は戦える。復讐を果せる。ケンジとエンジュ。そして神の力を持ったキョンシー達。薬物を入れた脳は覚醒していて、いくらでも思考を回せた。


「ケンジ、でも何処に行こう!? トレミー達は何処に逃げているのかな!?」


「選択肢はあんまり多くねえ! リバイバーズホテルに肉団子はあった! テロ開始からそう時間は経ってねえ! あの大型が逃げられる場所は限られてる! キョンシー達の痕跡を見つけるのは俺達の得意技だろう!」


 シーシー! 犬歯から息を強く漏らしてケンジとエンジュは眼を見開く。


 彼らには確信があった。この世界で最もキョンシーのことを見続けたのは自分達だ。神の力を宿り得る死者。穿頭教が追い求める奇跡の体現者。見つけるのも捕まえるのも日常の様に繰り返してきた動作である。


 そして、あっという間にケンジ達はリバイバーズホテルまで到着する。中からは戦闘音が未だ轟いていて、その音だけでケンジとエンジュはどの様なキョンシー達が会場に居るかを悟った。


 テレキネシス、エレクトロキネシス、パイロキネシス、良くある神の力持ちが十数体。その中に混じって聞き慣れない音がする。


「氷使いが居るぞ!」


 サーマルキネシスの一種、珍しい冷気使いだ。


 氷使い。知っている。ハカモリを見てから調べ上げている。最近、ハカモリが手に入れた、否、テレパシーに寄ってモーバから奪ったキョンシー、シラユキだ。


――なら、トレミーの行方を知っているかもしれねえ!


 短絡的な思考。直情的な行動。けれど、そういう物が意味を持つ事もある。


 リバイバーズホテルへケンジ達は突入し、キョンシー達へ神の力を放たせながら大ホールへとなだれ込んだ。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 あらかじめキョンシー達には神の力発動のプログラムを組んである。一秒の狂いも、一センチのズレも無く混ざり合った放出型の神の力は爆発という単純な解を大ホールの中央へ起こした。


「居たぁ!」


 大ホール、その奥にて氷の大剣を振り回し、チルドレンと戦うシラユキの姿をケンジは見つける。


「きた、きた」


「なんで?」


「せんとうきょう」


「くるったきょうと」


「きょんしーにひとはなれないのに」


「うるさあああああああああああああああああああああああい!」


 立ちふさがるチルドレン達をエンジュが操るキョンシー達が弾き飛ばす。


 目指すのはシラユキただ一体だ。


「! 敵ね!」


 自身へと突撃してくるケンジ達の存在にシラユキが一瞬硬直し、大剣を二つに割って片方をこちらへ向ける。


「トレミーの場所は知ってるかぁ!?」


 聞きながらキョンシー達へ攻撃を命じる。冷気使い、ならば攻め筋はパイロキネシスとエレクトロキネシスだ。


「何言ってるのか分からないわね」


 炎を避け、チルドレンを弾き、電撃は剣で防御してシラユキはケンジの質問に答える。


――あ、そうか。認識が破壊されてんだったな。


 今更思い出す。こちらからシラユキは認識できる。だが、相手からこちらの声や見た目は分からない。コミュニケーションを封じられていた。


 だが、おかしい。すぐにケンジは気付く。シラユキは果敢にもチルドレン達と戦い、会場に残った人間達を守ろうとしていた。シラユキの現主は木下恭介である。その主を放って人間を守るのは腑に落ちない。


 シラユキのパーソナリティも調べられるだけ調べてある。積極的に人間を助ける物ではない。


 ならば、今のシラユキの行動は木下恭介の命令に依るものだ。


――選択肢は多くねえ。あの時、あの混乱の中で何があいつにできる?


 木下恭介、あの男が思い付けるアイデアなどたかが知れる。


 ぎょろぎょろと見開いた眼でケンジは床に散乱したナプキンを見つけた。


「なるほどなぁ!」


「ケンジ!?」


 ダダダ! エンジュの声も無視してケンジはキョンシー達の足元へ走り出しナプキンを回収する。きっと、いや、確実にあの男は文字を書いたのだ。


 近場の死体の血を使い、ケンジは乱雑に文字を書く。言葉は最低限で良い。それでシラユキの論理回路なら望みの解答が帰って来る筈だ。


「あいつへ渡せ!」


 一体のキョンシーがテレキネシスを纏ってケンジが渡したナプキンを持ってシラユキへと突進する。カウンターの氷剣を喰らい、体は砕け散るが、ナプキンは届けた。


「……なるほど」


 シラユキは文字を読む。書かれた言葉はただ一つ、〝トレミーは何処に行った?〟


 この状況、敵の増員をシラユキは避ける。そういう思考回路だ。今この場の人間の保護をこのキョンシーは優先している。


 故に、シラユキがケンジへ協力した。


「トレミーだと思うテレキネシストならあっちへ逃げたわ。こんなところにラニは連れてきていないと思う。きっとラニの場所に戻ったんでしょうね。近くのホテルを当たってみなさい」


 チルドレンと対応しながら片方の氷剣でラニは一つの大穴を指した。


「行くぜエンジュ!」


「うん!」


 残るキョンシーは八体。どれも眼鼻耳から血が流れだしている。神の力を使える時間も後少し。


 復讐を遂げるため、ケンジとエンジュは駆け出した。ゴルデッドシティの地図は頭に入っている。ココミのテレパシーの影響を受けにくい距離、かつ、トレミー達が逃げ込める距離、かつ、最初に逃げた方角。


 これだけの情報があれば追うのは容易い。どれだけの回数穿頭教が神の力の為に戦ってきたと言うのか。


 シーシー! 歯から息が漏れる。興奮は抑えられない。殺すべき相手は直ぐ近くだ。


 走る走る。リバイバーズホテルから出て、視線を回す。


 候補となるホテルはいくつかある。最後に頼るのは獣の様な直感。


 自分達が潜伏するなら何処にするのかという単純な問い。


「「あそこだぁ」」


 唇を釣り上げる。エンジュも一緒だ。分かる。何故だか分かる。ここから百五十メートル程離れた一つのホテル。そこに復讐の相手は居る。

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