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⑩ 崩落

「霊幻! ここでボクに来ますか!」


「さあ、撲滅されるが良い!」


 シロガネがPSIを設置し、霊幻の予測進路へと弾丸の様にテレキネシスを射出する。


 瞬間的なPSI力場。形の全容は把握できない。


――その必要も無いがな!


 バキバキバキ! 霊幻は撲滅機能を満たせる最低限の防御をしてシロガネへと距離を詰める。


 腕や脇腹、頬や太腿、その表層がひしゃげる。なるべくならば壊れるなと京香に命令されているが、今はそのなるべくではない。


 論理的な戦闘回路が自壊とも思える突撃を敢行する。


「っ! ネエサマが悲しみますよ!」


「それが何だと言うのだ!」


 的外れなシロガネの言葉を霊幻は笑い飛ばす。


 霊幻は京香という人間の感情を良く理解している。だが、それだけだ。心には寄り添えない。


「吾輩はキョンシーだぞ!」


 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 狂笑と共に霊幻は左腕へ紫電をチャージした。


 直後、速報からケンジとエンジュの声が届く。


「「待て!」」


 走って来るのはキョンシー五体。各々がPSIを纏った近接型。


――パイロキネシス、エレクトロキネシス、テレキネシスか。


 視界の端でとらえたそれらのPSIの判断は終わっている。


「ハハハハハハハハ! 浅慮だな!」


 グルン! 霊幻は踏み込み体を回転させ、そのまま向かって来る穿頭教のキョンシー達へ左手を向ける。


「「!」」


 ケンジとエンジュが霊幻の意図に気付く。だが、もう遅い。


「リリース!」


 蘇生符を輝かせ、霊幻は全力で紫電を発動した!


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 放たれる紫電。有効射程たる四メートルに敵は全て入っている。


 穿頭教がかき集めたであろう優秀なキョンシー、だとしても霊幻は世界トップクラスのキョンシーである。そのPSIをまともに防げる道理は無い。


 紫電を浴びたキョンシー五体は脳と蘇生符の破壊で倒れ伏す。


「SET!」


 続いて耳に届くのは今の今まで追い詰めていたシロガネの声だ。穿頭教のキョンシー撲滅を優先した霊幻はシロガネに対して無防備である。


 それを見逃すキョンシーではない。


「SHOT!」


 キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 放たれるは霊幻の体程の大きさのテレキネシスの塊。まともな防御もできず、霊幻はそれを一身に受けた。


 バキボキボキバキバキボキボキバキバキボキボキバキバキボキボキバキバキ!


 骨格がひしゃげる音と共に霊幻は十数メートル後方へと弾き飛ばされる。


「ハハハハハハハハ!」


 霊幻は着地する。左腕を中心に肩や腰が半分潰されたが、それでも力強く地面を踏み締めていた。


「さすがだマイケル!」


 信じていた。マイケルによって作られたこの体ならばシロガネの全力のPSIを一度は耐えられると。


 事実、霊幻は耐えきり、運動能力の低下は三十パーセントで済んだ。


「撲滅の続きだ!」


 バチバチバチバチバチバチバチバチ!


 霊幻は再突撃を開始する。今の一連の攻防。高いリターンを得た。もう一度の突撃で更なる撲滅を完遂するのだ・


 しかし、霊幻の突撃は中断された。


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 空が割れた様な激烈な破砕音が上方より、否、霊幻達のすぐ傍にあったビル、すなわち、バツ達が戦うゴルデッドシティ最高峰ビルから響き渡った。


 致命的な破砕音、音源の位置、チラチラと先程から見えていたビルへのダメージ状況。


――ハハハハハ! まずいな!


 紫電を地面に放ち、クーロン力で霊幻は無理やりブレーキを掛ける。


 それと同時だった。


 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!


 ゴシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ!


 霊幻達から十メートルも離れていない高層ビル。それが音を立てて崩れ落ちた!




***




「さあ、京香、何処へ連れて行ってくれるの? オカアサンは何処へでも付いて行くわ」


 霊幻達から五キロメートル離れた地点。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 バツの炎は激しさを増す。焼かれた夜空からここにまで熱波が押し寄せて来た。


――戦いやすい場所は?


 時速二百キロ近く。今まで出したことも無い様なスピードで京香はゴルデッドシティを飛び回る。探すのはクロガネと戦う場所。今の自分に器用な戦い方は無理だ。


 ならば、大技を連発できる場所。すなわち、開けていて、障害物が少なく、近くに金属が多い所。


 結果、京香が選んだのは大量の車が乗り捨てられた大通り。


 ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!


 砂鉄を操り、大量の火花を散らして京香、そしてクロガネが大通りへと着地する。


「良いフィールドだわ! ここなら全力であなたの力が見れるもの!」


「ええ、あんたもね」


――アクティブマグネット。


 短く自身のPSI名を胸の中で呟き、京香は周囲へ磁場を展開した。


 ヒュウウウウウウウン! 十数台の自動車が浮かび上がる。


「まねっこしちゃうわ!」


 ヒュウウウウウウウン! クロガネもまた自動車を浮かび上げた。


 昨今ではほぼアルミフレームと化した車。通常の磁力使いでは動かすことも難しい。京香とクロガネは車に含まれる僅かな鉄などを頼りに合計百トン弱の鉄塊を浮かべた。


「くらえ!」


「いくわ!」


 ガッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 京香とクロガネを挟んで数十台の自動車が正面衝突する。


 どちらのマグネトロキネシスも磁場の起点は自分自身。故に、物理的な衝撃は磁場の変動と成って互いの体を弾き飛ばした。


 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!


 砂鉄を固めて地面へと打ち込み、反動をつけて京香はクロガネへと突撃した。


「来てくれるのね嬉しいわ!」


 黒いヴェールの向こう、クロガネは満面の笑みを浮かべていることだろう。


「シッ!」


 クロガネへ肉薄し、京香が突き出したのは最速の砂鉄の槍。コイルガンの要領で突き出された槍先は音速を超え、衝撃波と共にクロガネを捉える。


 しかし、迎え撃つ様に作られたクロガネの盾。それが槍先を防ぐ。


「思考速度はオカアサンが上みたいね」


「出力はアタシよ」


 ウフフフフ! クロガネが笑い、砂鉄の抱擁を京香へと向ける。


 敵意も害意も無い。単純に京香とじゃれ合いたいだけ。


――こんなのに包まれたら死んじゃうってのにね。


 ああ、やはりこのキョンシーは狂っている。仮に母だったのなら自分をこうして傷付ける様なことはしない。


 グルグルグルグルグルグルグルグル!


「あらあら!」


 京香は鉄球を自身の周囲で高速回転させ、抱擁を拒絶する。


 流石に攻撃を受けられないと判断したのか、クロガネが一足で十数メートル後方へ跳び、範囲外へ逃れた。


 距離ができた。タメの時間も。


 京香は右手を突き出し、そこを起点に長さ十メートル、太さ一メートルの砂鉄で出来た巨大なレールを形成する。


「まあ!」


 クロガネの声が喜色で染まる。京香の意図に気付いたからだ。


「放て」


 一つの鉄球。それが京香の号令と共に磁場によってマッハ3の速度で撃ち出された。


 純粋なる速度と力。ソニックブームが京香の髪の一部を切り裂く。


 京香の眼では鉄球の行き先を視認できない。


 だが、クロガネへ致命的なダメージを負わせられなかったことが分かった。


――外した!


 外す意図は無かった。必殺の一撃。全力であるが故に狙いが逸れたのだ。


「すごい、すごいすごいわ京香! この一瞬でこれ程の磁力を展開するなんて! ああ、あなたのオカアサンで私はとっても誇らしいの!」


 うっとりする様に叫ぶクロガネ。その音速超えの鉄球が掠ったのか、その右肩は削れて薄紅色の血を流し、顔を隠していた黒のヴェールは何処かへ行ってしまっている。


 母の顔だった。やはり、清金カナエの顔だ。血の気を失った最愛の家族の顔。


――ああ、やっぱり、


 そこで思考を止める。もう崩壊した物なのだから。


「さあ、次は何を見せてくれるのっ?」


「ッ」


 だが、躊躇いはある。それを京香は受け入れたくない。


 目の前のキョンシーは敵だ。そう思い込み、次こそこのキョンシーを撲滅するのだ。


「磨り潰してあげる」


 ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 そう無理やり言い付けて京香は砂鉄を羽の様に展開し、クロガネへと放った。

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