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② 飛行と跳躍




***




 キイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィン!


 肩から生やしたテレキネシスの腕。それを地面に叩き付け、フォーシーはゴルデッドシティの夜空へと跳ぶ。


 上空二百メートル。狙うは風を統べるアネモイ。音速を超えて目標地点へ到達した金色のキョンシーはすぐさまPSIの手をレインコートのキョンシーへ伸ばした。


「潰れな!」


 自信を掴もうとうするテレキネシスへアネモイの体が瞬間的に背後へ動く。


 パアアアアアアアアン!


 フォーシーのテレキネシスに空気は圧縮され、破裂音が響いた。


「trぬk」


 刹那、アネモイから風の槍が放たれる。フォーシーの体は宙にあり、避けるのは困難だ。


「その攻撃はゴールドだぜ!」


 フォーシーは蘇生符を金色に輝かせ、もう一本テレキネシスの腕の数を増やした。


「!」


 アネモイが僅かに肩を弛緩させ、フォーシーから距離を取ろうとする。


 が、それよりも一歩早く、フォーシーのテレキネシスが風の槍を()()()


 直後、フォーシーの体がグン! と上方へ飛び、そのままアーチを描く様にアネモイへと突撃した。


 テレキネシスは全てのPSIの始祖である。故にあらゆる物理現象に対してアプローチが可能だ。フォーシーはアネモイが作り出した固体化した空気の塊を掴み、前方へと加速したのだ。


 即座にアネモイとの距離が二十メートルに近づき、テレキネシスのアッパーカットをフォーシーは放った。


「おt」


 が、アネモイが一手早い。強烈なダウンバーストがフォーシーの体を包む様に、時速二百キロメートルで地面へと叩き落した。


 ダアアアアアアアアアアアアアアアン!


 破砕音と共に周囲から悲鳴が上がる。A級キョンシー同士の戦いが起きたと既にゴルデッドシティ中に警報は出ていた。その避難中だったのだろう。突然の轟音にパニックを起こしていた。


――ゴールドじゃねえな。


 良くない。これはゴールドでない。ゴルデッドシティは人間達が笑って過ごすための場所なのだ。


「HAHAHA! 皆様ご安心してくれ! このフォーシー・ゴールドラッシュが、何があっても皆様を守り切って見せるさ!」


 強く大きくフォーシーが声を出す。このキョンシーの外見は遠目で良く目立つ。避難中の多くの市民達がこちらへ目を向け、ホッと顔を緩ませた。


「フォーシー! 頼む! あいつを追い出してくれ!」


「何が起きているの!?」


「早く早く逃げなければ!」


 多種多様な市民たちの声。だが、その顔はフォーシーへの信頼で埋まっている。


 素晴らしい。ゴールドだ。道具として信頼に答えなければ。


「HAHAHA! 了解だ! 皆様も早く安全な場所に逃げてくれよ!」


 ギンギラと笑い、瞬間、フォーシーが上部へテレキネシスの手を広げた。


 ヒュンヒュンヒュンヒュン! ヒュンヒュンヒュンヒュン! ヒュンヒュンヒュンヒュン! ヒュンヒュンヒュンヒュン!


 上空から放たれた無数の風の刃をテレキネシスで握りつぶし、バアアアアアアアアアアアアアアン! と爆発音が鳴り響く。


 きゃああああああああああああああああ! 市民達がその場に蹲る。が、誰一人傷一つ付かない。


「おいおい、フォーシー。ここには市民様達が大勢居るんだぜ? 俺様達の誓いを何処に捨てた?」


 ギンギラ。フォーシーが二百メートル上空のアネモイを睨みつける。


 フォーシーがアネモイと話した回数は三回しかない。


 一回目は制作されてすぐ、ヨーロッパ連合の代表者が新たなA級キョンシーである自分を見に来たのだ。後の二回はそれぞれ別で開催されたキョンシーサミットである。


 初めて出会った時、フォーシーはA級キョンシーの先輩にあたるアネモイからこう言われた。


『ぼく達は生者のために存在しているんだよ』


 分かっていた。キョンシーの思考回路には初めからそうパラメタライズされている。


 しかし、あの時、世界で一番初めのA級キョンシーから口にされた、ある種当たり前の真実にフォーシーの感情データは感動に似た揺らぎを起こしたのである。


「壊れてなけりゃ、お前が市民ごと俺様を攻撃するはずが無いんだがな」


 残念そうな声がフォーシーの口から漏れる。


 ヒュンヒュンヒュンヒュン! ヒュンヒュンヒュンヒュン! ヒュンヒュンヒュンヒュン! ヒュンヒュンヒュンヒュン!


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 無機質に落ちて来る風刃の雨。それら全てをテレキネシスの傘が握り潰していく。


 命の危機を感じる様な轟音だとしても、絶対的に守られているという保証があれば人間は動き出せる物だ。


 一人、また一人、そうしたら一斉に、市民達が屋内や避難シェルターへ逃げていく。


 それらを見届けて、HAHAHAとフォーシーは笑った。


 周囲に人影無し。けれど、地上で全力のPSI発動は不可。何故なら、自分のテレキネシスだと建物ごと人間達を破壊してしまう。


――空で戦うか。


 フォーシーは覚悟を決める。空、アネモイのフィールド、そこで戦うのだ。


「お前は壊れちまったらしい。もう、ゴールドじゃない。なら、俺様がお前をゴールドに破壊してやる」


 キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 ギンギラギンギラ。黄金に輝く蘇生符。テレキネシスが地面を叩き付け、フォーシーが再び空へと跳んで行く。


 対して、アネモイは既に風の砲弾を設置し終わっていた。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 先程とは違い、半固形化された空気の渦が十数、銃口の様にフォーシーへ向けられている。


 そして、風の砲弾が音速を超えてフォーシーへと撃ち込まれた!


「俺様のゴールドさを忘れたのかおい!」


 瞬時に現れた無数のテレキネシスが風の砲弾全てを握り潰した。


 フォーシー・ゴールドラッシュのテレキネシス。その特筆すべき点は発動の早さと出力である。

一般的にテレキネシスの出力はその発動時間に比例する。より強い力にはより長い準備時間が必要であり、無理をして高出力を短時間で出そうとすれば力場が崩れてしまう。


 この特徴はエアロキネシスにも当てはまる。何かしらの力学的な力に作用するPSIならば時間と力の関係からは逃れられない。


 その中でフォーシーのPSIは発動したほぼその瞬間から高出力を出せるという特徴を持っていた。


 風の砲弾を握り潰し、発生する加速度をテレキネシスに吸わせ、フォーシーが再びアネモイと同じ高さまで到達する。


「よーいドンなら俺様は世界最強のゴールドだぜ」


「kthじゅbdkいtえr」


 アネモイのそれは分かっているのだろう。かのキョンシーの周囲には既に多くの風の武器が用意されていた。


――操作性ならアッチが上。だが、全盛期のお前とは程遠い。


 空の上。フォーシーのテレキネシスとアネモイのエアロキネシスが激突し、強烈な爆発音が響き渡った。


 パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

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