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② ディスコミュニケーション




***




 恭介は砂鉄を纏って飛び去ったのっべらぼうの背を見送る。あれは清金だ。そうであるはずで、あれが持って行った二体ののっべらぼうはホムラとココミであるはずなのだ。


 どこまで行っても仮定である。人間とキョンシーへの認識が破壊された今、信じなければ動きようがない。


「bまrtpんsねq50!」


 自分を抱えるアイアンテディ。すぐ近くに居たのが幸いした。記録から論理的にフレデリカは自身に映るのっぺらぼうを兄だと認識し、その鉄腕で恭介を抱えたのである。


 今、恭介が信じられるのはアイアンテディの冷たい腕だけだ。


「ばあmぽえhじゃえ5はm20い2y9047ら!」


「あや4hた90あmは!」


「んmlmsp0はc!」


 無数ののっぺらぼうがアイアンテディへと近づいて来る。


 全て敵なのか。一部に味方が混ざっているのか。


 鋼鉄のクマ。その姿は今とても目立っている。カオナシのPSIを受けた者達がおそらく唯一認識できる異形の姿だ。


 のっべらぼう達が腕を振り上げ、アイアンテディへと攻撃のモーションをかけた。


「フレデリカ!」


 敵だ。そうであるはずだ。でなければアイアンテディを攻撃する理由が無い


「mんmわy42sんmなbcyくぉy290あ!」


 アイアンテディが叫びを上げ、右腕で向かってきたのっぺらぼう達を薙ぎ払う。


 右腕の膂力を受けて三体が打ち飛ばされ、一体が踏み止まった。見た目からは分からないが、筋力が強化されているらしい。


 その時、一体ののっぺらぼうがパキパキパキパキと氷の剣を持って突撃してきた。


「シラユキか!?」


 分からない。だが、冷気を操るサーマルキネシストは少ない。シラユキは先程近くに居た。


 果たして、氷の剣はアイアンテディの爪を受け止めたのっぺらぼうの腹を貫いた。


 パキパキパキパキパキパキパキパキ! 冷気を受けたのっぺらぼうの全身が急速に凍り、砕け散る。


「……」


 氷の剣を持ったのっぺらぼうがアイアンテディの前で立ち止まる。攻撃をしてくる気配は無かった。


 恭介は思考する。今、四つのパターンが考えられる。


① 目の前ののっぺらぼうはシラユキで、アイアンテディが抱えているのっぺらぼうが木下恭介であると分かっている。


② 目の前ののっぺらぼうはシラユキで、アイアンテディが抱えているのっぺらぼうが木下恭介であると分かっていない。


③ 目の前ののっぺらぼうはシラユキではなく、アイアンテディが抱えているのっぺらぼうが木下恭介であると分かっている。


④ 目の前ののっぺらぼうはシラユキではなく、アイアンテディが抱えているのっぺらぼうが木下恭介であると分かっていない。


 互いに互いが敵か味方か分からない。


――なら!


 恭介は急いで懐から手帳とペンを取り出し、そこに「ぼくはきょうすけだ」と殴り書きして、前方ののっぺらぼうへと投げ付けた。


 手帳に書かれた文字をのっぺらぼうは見て、すぐにそこへ文字を書き足し、投げ返す。


 投げ返された手帳には〝シラユキ、指示を求む〟と書かれている。


――良し! これならどうにか会話できる!


 人間やキョンシーから直接発せられた情報を改竄する能力なのだろう。文字としてのワンステップを置けばどうにか会話が出来そうだった。


「あmなおひゃばおghんtまろ!」


「なじゃまpほbんそh!」


「なmなおえあ5hぱぽqut30y45ua」


 周囲では言葉として認識できないのっぺらぼう達の叫び声が聞こえてくる。


 その中、また、複数体ののっぺらぼうがジリジリと恭介達に近づこうと距離を詰めて来ていた。


――敵か?


 敵だ。そういうことにするしかない。


 既にシラユキであろうのっぺらぼうがパキパキパキパキと構え、敵を牽制している。このキョンシーが時間を稼いている間に指示を決めなければならない。


――言葉での連携は無理。文字での会話は時間差がエグい。できる指示は?


 出せる命令は最低限。


 何を命じれば良い? どうやってフレデリカとシラユキに命令を伝える?




***




「お兄様! お兄様! フレデリカの声が聞こえていないの!?」


 フレデリカはアイアンテディの左腕で兄を抱える。テディの眼から見える視界の中で人々は恐怖に陥っていた。


「『助けてくれ』」


「『カオナシが来た! カオナシが私達を殺しに!』」


「『護衛は何処だ!? 敵は何だ!?』」


 聞こえてくる言葉、何度話しかけても会話に成らない兄とのやり取り。そこからフレデリカは判断する。先に現れた顔が溶けたキョンシー、アレが放ったPSIは人とキョンシーの認識を破壊したのだ。


 フレデリカの認識は破壊されてない。テディには絶縁加工がされてあるし、鉄の器には静電遮蔽の効果が働く。カオナシのPSIは低出力エレクトロキネシスであり、テディの体を突破できなかったのだ。


「くそ! なんて命令すれば良いんだ!?」


「お兄様、なるべく動かないで! テディはそんなに繊細に作れてない!」


 アイアンテディの剛腕に振られながら兄が悪態を付く。今の彼にフレデリカの言葉は通じていない。


「ああころそうあなたたちを」


「エンバルディアを止めるあなたたちを」


「なんでキョンシーなのにこのこうふくをとめるの?」


「みんなでしあわせになろうよ」


 チルドレンと呼ばれたキョンシー達が向かって来る。もう何度もだ。どのキョンシーも言葉は通じてない。思考が歪んでいる。


「うるさいわね! フレデリカ達に近づかないでくれるかしら!」


 ズサアアアアアアア! アイアンテディの右腕を振るい、向かって来るチルドレン達を弾き飛ばす。どのキョンシーも身体改造はされているが、PSIは低級。通常ならばフレデリカとシラユキだけで充分に対処できる相手だ。


 テディの眼の先、逃げ惑う人間達がチルドレン達に襲われ、倒れていく。認識破壊を免れた一部のエレクトロキネシスト達が人間達を守ろうと奔走しているが、チルドレンの数が多過ぎる。


「良し! シラユキ、受け取れ! 襲われてる人を助けるぞ!」


 指示を書き終えたのだろう。氷の剣を振るうシラユキへ兄が手帳を投げ当てる。


「承知したわ、ご主人様」


 シラユキが手帳を兄に投げ返し、人間達を襲うチルドレン達へと突撃する。


 論理的な判断なのだろう。シラユキはチルドレンと人間達の近くで一瞬止まり、チルドレン達のみへと攻撃する。


 とても優秀な論理回路。一手遅れるが、確実に人間達を守っていく。


「フレデリカ! くそ! 見えるか!?」


 兄がテディの左眼に開いた手帳を押し当てる。そこには〝ひとをまもれ〟と書かれてあった。


「分かったわ、嫌よ、お兄様!」


 フレデリカの額に貼られた蘇生符が命令を受領し、フレデリカの脳がそれを拒否した。


――どうする? お兄様を守るのに何をすれば良い? ああ、でも襲われてる人も助けないと。


 フレデリカは混乱する。彼女の脳は人間の物だ。思考回路は生者のままで、キョンシーの様に高速で解は出せない。


 今のフレデリカには余裕が無い。兄を抱えながら人を守れる自信は無かった。


 そして、フレデリカの優先順位はもう決まっている。


「ごめんさない、逃げるわ、お兄様!」


 何があっても兄は助ける。彼が死んだらフレデリカにはもう生きる理由が無くなってしまう。


「フレデリカ!? 待て! 何処に行く気だ!? 襲われてる人を助けるんだ!」


 ジタバタと兄がテディの頭を叩く。けれど、フレデリカは止まらない。


 アイアンテディの強烈な突進でチルドレン達を弾き飛ばし、真っ直ぐに先程京香が開けた大穴へと突進する。


 が、フレデリカが大ホールを出た直後、左方から声が届いた。


「やあやあ、某はベンケイ! 久しぶりだな鋼鉄のクマよ! さあ、尋常に勝負!」


 ギュルギュルギュルギュルギュルギュル!


 現れたのは全身に無数の歯車を付けたキョンシー、先日シカバネ町でアニ達を襲ったモーバのキョンシー、ベンケイだった。


「っ! ここでデカブツが来るの!?」


「戻れフレデリカ!」


 兄の指示は的外れだ。彼にはベンケイの姿を正しく認識できていない。ここから逃げるのは不可能だ。


 キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


「おーほっほっほっほ! 分かった良いわよ! ぶっ飛ばしてあげるわ!」


 フレデリカはPSI出力を上げ、ベンケイを迎え打った。

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