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① 警戒態勢

 リバイバーズホテル、大ホール。


 第百回キョンシーサミットが行われる大会議室のすぐ近く、各国の要人が軒を連ねる場所で、京香の前でフォーシーとバツが楽し気に談笑している。


――結局、フォーシーもバツも来ちゃったか。


 昨日の前夜祭で京香は何度も強く言ったのだが、この二体のキョンシーは今回のサミットに参加してしまった。


「霊幻、ちょっと会場を回ってきましょ。モーバ来てるかもしれない」


「ハハハハハハ、了解だ!」


 フォーシーとバツの周囲にはそれぞれの国の護衛が集まって来ている。ここに居ても邪魔に成るだけだった。


 昨日の前夜祭とは打って変わり、大ホールの人間達は真面目な顔をしている。


 すぐ近くの大会議室で行われているサミット会議。この大ホールに居るのはサミットの代表者達を支えるべく集められた各国の要人達だ。


「『削岩用キョンシーの開発はどの様に進んでいますか?』」


「『順調です。脚部の車輪化に一部成功しています』」


「『車輪化にとうとう成功したんですか? 素晴らしい、脳回路の拒否反応はどの様にして回避を?』」


「『開発責任者が今度発表します。実物のプロモーション動画を見せましょうか?』」


「『ええ、是非』」


 歩いていると翻訳された会話が耳に入ってくる。


 どこの誰もが自国のキョンシー技術を誇示し、他国のキョンシー技術について探りを入れていた。


 例えば、今後十年の素体生産見込みであったり、新規素体生産地域であったり、PSI研究開発の進捗であったり、腹に一物を抱えた声が耳に入って来る。


「ココミは全部分かってるのかしら?」


「ハハハハハ。であろうな。どの様な対策を各国はしているのやら」


 昨日今日とココミはこの会場を歩いている。彼女の頭には要人達の本心が入ってきているはずだ。


 ココミ(テレパシスト)の来訪は事前に通達されている。それぞれの国で何かしらの対策がされているはずだ。


「あそこの人は何か頭に被ってるわね」


「金属のヘルメットだろう。静電遮蔽を使う気だな」


 京香は一度視線を回し、会場を歩く恭介達を探した。


 フレデリカの車椅子を押した恭介はすぐに見つかり、その背後では巨大なトランクケースを引いたシラユキ、そして手を繋いで歩くホムラとココミの姿がある。


 彼らは酷く目立っていて、多くの視線がココミに集中していた。


 脳の情報を取られるリスクを受け入れてでも、テレパシストの姿を確認したいようだ。


――PSIはそんなにすごいものなのかしらねぇ。


 京香にとってPSIは当たり前にある物だ。確かに大キョンシー時代の今、キョンシーのPSIは人類社会にとって無くてはならない物に成りつつある。その筆頭がA級キョンシー達だ。


 しかし、PSIなど無くとも、キョンシーと言う労働力があるだけで社会は回っている。それで十分なのではないか。


 けれど、ココミという六体目のA級キョンシーを人間達はギラギラとした眼で見つめている。昨日の様な敵がいつどこからか現れるかもしれない。


「霊幻、ヤマダは?」


「ヤマダくんならあそこだ。オーストラリアの人々と話している」


 指を追うとヤマダはセバスチャンと共にオーストラリアの人間達と軽く会話していた。あそこに居るのは南半球連合のA級キョンシー、ニコラオスの研究部隊のはずである。


 どうやらココミについて聞かれているらしく、つらつらとヤマダは彼らの追及に対応していた。


――ま、ヤマダなら上手く躱すでしょ。


 ヤマダの方が京香よりも遥かに口が上手い。心配することは無かった。


 サミット会場に来た第六課のメンバーはこれで全員だ。マイケルは別のホテルで待機し、会場の監視カメラを確認している。


「霊幻、一回、ホールの外に出るわ。グルッと会場を回りましょ」


「分かった。ここには今の所異常は無いからな」




 ガヤガヤとした大ホールを出て、京香は円筒形のリバイバーズホテルをグルッと回った。


 エントランス、裏口、プール、その他色々。目に映る金色のそれらにおかしな気配はない。途中途中で会う警備部隊も異常が見つからないと言っていた。


 そして、広いリバイバーズホテルを一通り見て回り、大ホールの前に戻ってきた京香は首を傾げた。


「敵が見つからないわね」


「吾輩も赤外線ディテクターを起動しているが、敵影は見つからん。はてさて何処に隠れて何をする気なのか」


 既にサミットの会議が始まって数時間が経っている。数日間行われるサミットでフォーシーとバツが来るのは初日である今日だけだ。


「ちょっとマイケルに聞いてみる」


「おう」


 京香はトーキンver5を三回叩き、マイケルへと通信を繋げた。


『こちらマイケル、どうした京香?』


「こちら京香。何か異常は無い?」


『無いな。会場周囲のカメラも見てるけど不審な人影は一つも無いぜ。精々、マスコミの連中が居るくらいだ』


「ん。そのまま周囲を調べてて」


『了解』


 通信を切り、京香は考える。


 警備部隊の数で敵は諦めたのだろうか?


 それとも何か自分達が見落としていて、既に潜入されている?


 はたまた、敵の狙いを取り違えた?


「京香、一度ココミに索敵させるのはどうだ? 半径百メートル程度ならば大きな負担に成るまい」


「んー、そうね。ホムラと恭介が許可するかな?」


「ハハハハハ。悠長なことは言ってられまい。撲滅のためならばどんなキョンシーでも利用するべきだ」


 ココミは平時から受動的なテレパシーにより、周囲に思考を察知している。だが、それは彼女の脳に多大な負担を掛ける。そのため、普段の彼女はホムラの思考と動作補助に全神経を割くことで脳の負担を軽減していた。


「んじゃ、恭介にお願いに行きますか」


 気乗りしないが、霊幻の言う通りだ。ココミの力でフォーシーとバツを守れるのなら、それを行使するべきである。

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