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② 俺様達はゴールドなのさ

「『フォーシー、いきなりどしたの? バツちゃんはホムラとココミとおしゃべりしたいんだけどー?』」


「『バツ、俺様達は人間様達に見られてこそ価値があるが、それでもお前が今やろうとしたことはゴールド過ぎるぜ』」


 強烈な緊張感が会場を包んだ。もはや誰もが言葉を止め、京香達の方へ眼を向けている。


 フォーシーとバツという公式のA級キョンシーが、ココミと言う非公式のA級キョンシーの近くに居て、そこには京香と言う世界で唯一の生体サイキッカーも居るのだ。


 まともに触れあってはならない劇物である。ここで下手を打てば外交問題にすら発展し得た。


「『そうなのー? ……あ、そうだねー。うん、確かにバツちゃんがココミと話すのはまずいねー』」


 うんうん、とバツは納得を見せた。


「ごめんね。分かってもらえる?」


「『こっちも思考が足りなかったよー。ホムラとココミと話すのはもっとちゃんとした場じゃなきゃダメだねー』」


 アハハとバツは笑い、数歩、ホムラとココミから距離を取った。


「『ゴールドだぜ、バツ。会場の人間達も一安心だ』」


 キンキンギラギラ。フォーシーが自分達を見る人間達へ大きく腕を振る。


 会場の人間達の緊張が僅かに緩んだ。最も避けるべき、テレパシストとA級キョンシーの接触という事態が一先ず回避されたからだろう。


――あぶなかった……


 内心で京香は胸を撫で下ろす。フォーシーが止めなければ最悪バツがココミに触ってしまったかもしれない。


「『よお、知っていると思うけど、自己紹介をさせてくれ。俺様はフォーシー・ゴールドラッシュ。アメリカ合衆国が誇る世界で最強最高のテレキネシストのキョンシーだ。あ、俺様に対してもバツみたいにタメ口でよろしく』」


 突き出された右手を京香は掴み、返事をした。


「キョンシー犯罪対策局第六課主任、清金京香。こっちは相棒の霊幻。助かったわ。ありがとう」


「『俺様達はゴールドだからな! 人間様達にはちゃんと尽くすのさ!』」


「『ハハハハハ! 素晴らしい考え方だ、フォーシー! そうだな! 吾輩達は生者のために存在しているのだからな!』」


「『おお! 分かっているじゃねえか! そうだぜ俺様達はゴールドなんだからな!』」


 HAHAHAHA! 霊幻とフォーシーが意気投合し、強く肩を抱き合った。


――ちょうど良いか。


 本来の予定では、フォーシーとバツに会うのは前夜祭の後のはずだった。だが、今目の前に目的の二体は居て、本来立ち会うはずだったケビン達も居ない。


 京香はこの場で二体と話をすることにした。


「フォーシーとバツは二人がモーバに狙われてるって話は聞いている?」


「『聞いてるよー』」


「『ゴールドじゃない報せだったな』」


 あっけらかんと二体は頷いた。ならば、話が早い。


「じゃあ、お願いがあるんだけど、サミットの間は何処か別の場所に隠れていてくれない? そうした方があなた達を守り易いから」


 当然の提案である。護衛対象が好き勝手に出歩いていては守るのも難しい。


 しかし、京香の要求に二体はどちらも「『アハハハハハハ』」「『HAHAHAHA』」と大きく口を開けて笑った。


「「『『その要求は聞けない』』」」


 きっぱりとした拒否。交渉の余地すら無い。


「『京香。俺達はキョンシーだ。俺達のために人間様が苦労するなんて全然ゴールドじゃねえ』」


「『シー。バツちゃん達はみんなのバツちゃん達だよー。なら、みんなのために頑張らないとー』」


 確固たる言葉。それに霊幻が大きく笑い出した。


「『ハハハハハハハ! 京香よ、これは無理だ。吾輩達ではこのキョンシー達を説得できんよ。キョンシーの行動原理の根幹を言われてしまってはな』」


 どの様な意図であれ、キョンシーは人間のためにある。そう望まれて作られ、そのように蘇生符はプログラムされている。


 フォーシーとバツの言葉はその根幹を真正面から捉えた物だった。


「……それでもアタシは要求するわ。あなた達は何処かに隠れていて欲しい。そうしてくれればあなた達が壊れる可能性を下げられるの」


「『ありがとう京香。バツちゃんはとても嬉しいよー。でも、ダメ。バツちゃんは明日もサミットに来るよー。だって、バツちゃんの国の人達を手伝わないといけないしねー』」


「『俺様もさ。このサミットは俺様の祖国が開催者。なら、全力でゴールドに人間様達をもてなさなきゃな』」


 確かにこれは無理だ。いくら京香が要求したとしても、その在り方を変えられない。


――なら、アタシ達が頑張るしかないか。


 そのために来たのだ。気合を入れるしかない。


 はぁ、っと京香はため息を吐いた。


 その時である。




「清金先輩! 攻撃が来ます!」




 恭介の声が突然響いた。


「シャルロット、盾に成れ!」


 反射的に京香は左手に持ったシャルロットを透明な薔薇の盾へと展開し、フォーシーとバツを背にした。


「何処から何体!?」


「十メートル上前方、数は四体!」


  ココミのテレパシーで敵の来訪を察知したのだ。事前の取り決め通り、恭介が敵の来る方向と人数を伝える。


「霊幻!」


「『ハハハハハハ! 任せろ! 撲滅してやる!』」


 バチバチバチバチバチバチバチバチ!


 蘇生符を輝かせ、霊幻が紫電を纏う。会場の人間達が悲鳴を上げた。


 彼らからすればハカモリのキョンシーが突然PSIを発動したのだ。蛮行にしか見えず、声を上げるのも当然である。


 はたして、敵は恭介の言葉通り、すぐに現れた。


 キイイイイイィィィィィィィィイイイイイン!


 天井、そこを伝う様にして四体のキョンシーが逆さまに走っている!


「狙いはココミです!」


「そっち!?」


 続く恭介の言葉に京香は思わず聞き返した。フォーシーとバツを狙った犯行ではなく、ココミを狙った凶行。


 上方のキョンシー達はモーバの物ではない。


 意識が僅かに崩れ、その間に敵のキョンシーは京香達を超えてココミへと落下する!


 脚に改造が入れられているのだろう。強烈な加速を見せた四体のキョンシーは砲弾の様にココミへと迫り来る!


「燃えろ!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ホムラの炎。それもキョンシー達の突撃を止めるには至らない。


 既にシラユキがココミ達の前に出て両手を広げ、冷気を体に纏わせていた。


 キイイイイイイイイイイイイイン!


 敵のキョンシーは少なくとも一体がテレキネシスト、それも近距離特化型である。シラユキとは相性が悪い。


「お兄様、フレデリカも行くわ!」


 車椅子に乗っていたフレデリカがPSIを発動し、車椅子に格納されていた鋼鉄の四肢がその体の付け根に装着され、その拳を上方のキョンシーへと向ける。


 激突は必至。この会場は今から戦場と化す。


 そのはずだった。




「『ゴールドじゃねえな』」




 パァァァン!


 京香達の視線の先、四体のキョンシーが()()()()


 まるで蚊を潰す様に呆気なく、一切の前触れも無い。


 金属と肉片が全てまとめて潰されて、それらは一つの塊と成ってグチャッと床に落ちる。


 その音を聞いて初めて京香は声を出した。


「は?」


「『HAHAHAHA! 皆々様、侵入者はこの俺、フォーシー・ゴールドラッシュがゴールドに処理をした! 安心してご歓談に戻ってくれ!』」


 HAHAHAHA! 金色のキョンシーがキンキラと笑う。


 一拍遅れて京香は理解する。今起きたのは超高速高出力でのテレキネシスによる圧壊だ。

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