④ 牙を出す
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「……居るな」
まさか、と男は思い、すぐに、やはりと思い直した。
視線をなるべく送らない様に、それでも視界に入ったそれらへ意識を向ける。
「ねえ、あれ?」
「眼、向けるなよ。気付かれたら困るからな」
横の女が小さく耳打ちする。彼女も視界に映る異常に気付いた様だ。
男達が住んでいた国から遠く離れたゴルデッドシティ。そこに本来は居るはずが無いハカモリの人間達が居た。
何故、彼女達がここに居るのか。理由は違うが、原因は男達と同じだろう。
ハカモリもまたモーバが今回のキョンシーサミットを狙っているという情報を掴んだのだ。
――……使えるな。
ギラギラと男は眼を見開く。
きっと、いや、間違なく、ハカモリとモーバは激突するだろう。
そこに起きる狂乱。目的を達成するのに都合が良かった。
男と女は復讐者だった。家族、仲間、夢、その全てを不当に奪われた被害者である。
復讐を遂げられるのなら死んでも構わない。男にはそういう覚悟があった。
「早く帰ろ。準備しなきゃ」
「ああ、ああ、そうだな。やることがいっぱいだぜ」
男の唇が釣り上がり、犬歯が空気に晒される。
復讐の始まりは直ぐそこだ。